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第5話 スリープ

 明日の訪問の話も済み、夕食前の騒ぎの件はルーカス様の部屋の応接室で話すことになった。


そういえば、せっかくメイドさんスタイルだし侍女らしい仕事もしておくかと紅茶の準備を私がした。


ちょっとシチュエーションは違うけどやってみよう!

「〈おかえりなさいませ。ご主人様〜!〉なーんて!」

1回でいいからこの格好でやってみたかった。


「懐かしい〜!!ローラ上手いよ!まさしくかわいいメイドさんだ」

ルーカス様は笑っていたが、ノア様は目を見開いて驚いている。


「ノア。ローラが言ったセリフは、あのエプロンをつけたメイドさんの前世の定番のセリフなんだよ。前世ではメイド喫茶というものがあって、あのような格好の侍女たちが接客するんだ。客が店に来たときにあのセリフでもてなすんだ」


「ああ、前世の話題だったのですね!急にどうされたのかと思い驚きました。申し訳ございません」


「真面目に説明されると辛いものがあるわね。ちょっとしたおふざけよ。ごめんなさいね!」

紅茶をそれぞれの席に置き、私はルーカス様の向かい側に座った。


「まあ、メイドさんのことは置いておいて、ルーカス様が言っていた〈転生系のことで話していないこと〉とは何ですか?あんなに慌てて。話していないことがあるだけで、あんなに慌てる意味がわからないもの」

私は首を傾げてみせた。


ルーカス様はさっきの笑顔とは一転して、今までにないくらい真剣な表情で私を見つめた。

「ローラ、驚かないで聞いてほしい。いずれこの旅のどこかでは話そうと思っていたんだ。でも君と会えたのが幸せで先延ばしにするところだった。僕が転生者だということは話しただろう?ローラが初めて会う転生者だということも」

私は黙って頷いた。


「僕の国には転生者に関する文献が残されているんだ。それは日本語で記されていて、転生者しか読むことができない。僕は幼い頃に転生者だと気がついた。父である王に申し出て受け入れてもらえて本当に嬉しかったんだ。文献に関しては今から数年前にやっと読むことが許された。その中には転生者のチート能力や………スリープのことが書いてあったんだ」

ルーカス様はすごく言いにくそうに話した。


「スリープ?何のことですか?眠ることですか?」

私には全然わからない。


「そうだね。眠ることではあるよ。転生者の中には前世の記憶を突然失くしてしまう人がいるらしいんだ。〈スリープ〉と呼ばれる強制的な睡眠、数日間は何をしても全く起きなくなるらしい。そして、スリープの後には前世の記憶がなくなってしまうらしいんだ。前世の記憶で苦しんでいる人には幸せな事かもしれないが、やはり記憶を失くすということは記憶を失くす前の自分とは違う人間になってしまうということだろう?僕には恐怖でしかないよ。これから、前世の記憶を参考にしてやりたいこともあるんだ。それにやっとローラとも出会えたのに。さっき、ノックをしてもローラがなかなか出てこなくて……もしかしてスリープ!?と思ったら居ても立っても居られなくなって。驚かせてごめん」

私はポカーンと口を開けてしまった。

そんな私を見てか、ルーカス様はガバっと頭を下げた。

「話すのも遅くなってしまってごめん。何よりも先に話すべきだったのに僕は……」


「ルーカス様!頭を上げて。そんなことしないで。ちょっとビックリしただけ。なんであんなにルーカス様が慌てていたかわかった気がする。怖かったんだよね、せっかく出会えた転生者である私が変わってしまうんじゃないかって。話をするのを楽しみにしていたのに出来なくなってしまう、たった1人の孤独な転生者に戻ってしまうんじゃないかって」


私はトコトコとルーカス様の隣に移動して頭を下げているルーカス様の頭をよしよしと撫でた。

バネッサが小さい頃によしよしはよくやってあげたな。


そんな私をノア様が涙ぐみウンウンと頷いて見ている。

しまった!すっかりノア様がいること忘れてた〜!私は慌てて手を引っ込めた。


ルーカス様は頭を上げて私を見つめると


私を抱きしめた…。


ええっ!!!ルーカス様はスキンシップ多すぎ。

リンガール王国のお国柄??

いや、それよりも……ものすごくドキドキする。きっと顔も真っ赤になっていると思う。


固まってしまった私を見かねてか

「ルーカス様、ローラ様がお困りですよ」

ノア様がベリっとルーカス様を引き剥がした。


「ごめん。頭を撫でられたら嬉しくなっちゃって!」

テヘとルーカス様は舌を出した。


「ルーカス様は犬ですか!!」

ノア様のツッコミでちょっと空気が柔らかくなった。



「とにかく転生者にはスリープが起こりうるということを覚えておいて損はないよ。もちろん、僕にもスリープがいつ起きるかわからないけど起こらない人生もあるかもしれない。でも、前世の記憶を失ってもチート能力は残るらしいよ」

ルーカス様は優しく微笑んだ。


んっ?待て待て!

「ルーカス様!私はチート能力ないんだけど」

私はガックリ肩を落とした。


「いや、あの時も思ったんだけど不思議なんだよね。文献によると〈転生者は例外なくチート能力を授かる〉と記されていたからローラにもきっとあるはずなんだよね。今までの転生者だと魔法、魔導具製作、身体能力向上、頭脳、予知などのチート能力を使う転生者がいたみたいだよ」


「みんなチート能力があるのね!私も気が付かないだけで実はチート能力あったりして!」

魔法とかチートとか聞くと前世のゲームとか小説みたいでちょっとワクワクしちゃうよね。


「そんなに気になるちょっと()()してみる?」

ルーカス様は手をヒラヒラさせた。


「そうだね。でも、他のところまで見られると恥ずかしいしなぁ。あっ!もしかしてさっき抱きついた時に何か見たりしてないよね?」


「そもそも常に鑑定モードじゃないから、ただ触っただけじゃ見れないからね。鑑定も疲れるもん。もちろん、チート能力にだけ焦点を当てて見ることもできるよ?他は絶対に見ないから」

ルーカス様は少し寂しそうな顔をしている。


突然疑うようなこと言ってしまって悪かったな。でも、いきなり抱きつくルーカス様がいけないんだもん!


「本気で疑った訳じゃないんだけど、ゴメンね。わかった。今後のためにも私のチート能力を見て!」

私は右手をルーカス様に差し出した。


ルーカス様は私の右手と顔を交互に見たあと少し考えるような素振りをした。

「いや、今日は色々聞いて驚いただろう?やっぱり落ち着いた時にゆっくりとやろう。そろそろ夜も遅いし明日に向けて休もうか」


「……うん。おやすみ」

私は挨拶をしてルーカス様の部屋を後にした。


ルーカス様を傷つけてしまったかな。冗談のつもりだったけど、ちょっと軽はずみな言葉だったかも。ルーカス様の寂しそうな顔が頭をよぎる。


明日はベルナル公爵家に向かう。探しものがメインだけど、ご令嬢をお気に召してご婚約が決まったらどうしよう。

いや、どうしようじゃなくて……なんだかモヤモヤする。


それとルーカス様が教えてくれたスリープは私にも起きてしまうかもしれない。スリープが起きてしまったら私が私じゃなくなってしまうような気がして怖い。

私もルーカス様という転生者仲間を得て、今までほとんど話す事のなかった前世の話をして楽しかった。前世の記憶が消えるということはルーカス様と話した前世の話の記憶はどうなるんだろう?



私は頭の中がグルグルしたまま眠りについたのだった。


――――――――


一方、ローラが出ていったあとのルーカス王子の部屋では……


「ルーカス様、ローラ様に疑われてショックだったんですか?鑑定すると言っていたのにやはりしないなんて。ローラ様はそんなに深い意味でおっしゃったわけではなく冗談を言ったような雰囲気ですから、お気になさらなくても」


「ノア、それは違うんだよ。違うんだ」


「ルーカス様?それはどういうことですか?」


「ローラが〈さっき抱きついた時に〉と言っただろう?そのワードを聞いてしまったからだよ。その時のことを思い出してしまって、まともな鑑定が出来そうになかった。あの時は冗談を言ってごまかしたけど、ローラが僕の気持ちに寄り添ってくれて本当に嬉しかったんだよ。それでつい抱きついてしまったわけだけど、途中からドキドキしちゃってね。僕も王子や転生者の前にただの男だからね。思い出してしまえばローラの気持ちが知りたくなってしまう。他は絶対に見ないと言って嘘をつくわけにはいかないからね」

ハーッとルーカス王子は大きなため息をついた。



明日も投稿予定です。

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