第4話 旅は始まったばかり
馬車の中は私とルーカス様の2人きり……ではなくノア様も一緒だ。
「それではこれからの流れを説明しますね。まず、ローラ様に作っていただいたリストと資料を読ませていただきました。大変よくまとめられており素晴らしいですね。大変参考になりました。そちらを元に考えましたところ、この街から北と南で分けそれぞれの大きな街を拠点に動くと効率がよいかと。今から行くのは南のチョコレイという街です。ここを拠点に10ヶ所ほどの屋敷に行くことが出来そうです」
ノア様はスラスラと話し始めた。
「ノア様はこの国の者ではないのにすごいですね!私の資料は不要だったんじゃないですか?」
「そんなことありませんよ。ローラ様の資料で必要な情報が調べ上げてあったのでまとめるだけでしたので。リストも絞っていただいており感謝しております。そもそもうちの愚兄が何を払い下げたか覚えていればこんなに面倒なことにはならなかったのに。愚兄は私と違って口数は少ないながらも何事も堅実に進めるという点で評判の悪くない男なんですよ。それなのにうっかり重要文化財を払い下げてしまうなんて兄らしくもないことを。陛下には知られてしまいましたが、王弟であるアルバート公爵に知られていないのは僥倖です。良く言えば真面目なのですが融通が聞かないというか……そして文化財の保護に力を入れているお方なのですよ」
「そうだったんですか。多忙などで集中力が落ちてしまい、らしからぬ行動をとってしまうこともありますからね。今、お兄様の行動をどうこう言っても仕方がありません。その公爵様に知られる前に何とも見つけてしまいたいですね」
なるほどそう言う訳だったのね。陛下だったらいくらでも握りつぶせる話かと思っていたら王弟が関わりそうだったのか。
「そう言っていただけると助かります。ところでリストのこの伯爵の件なのですが……」
……なんだか横からすごい視線が。
「ずいぶんと仲が良さそうだけど」
ルーカス様がムスッとした顔でこっちを見ている。仲間はずれにされてるみたいで寂しかったのかな。可愛いところもある。
「そういえば、ルーカス様は王宮に行ってからの1週間はどんなことをして過ごしていたの?晩餐会とか?」
「よくぞ聞いてくれた!本当に大変だったんだよ。父上の例の嫁探しの文言のせいで、マジで嫁探しさせられた!夜会では令嬢たちがキラキラでゴテゴテしたドレス着てるし、何よりも目がギラギラしていて怖かったよ。あれは獲物を狙う肉食獣の目だね!ローラの〈メイドさん〉にほんと癒やされる〜!ローラに側にいてもらわないと!」
そういえば、手紙でもそんなこと書いてあったっけ。〈隣国の王子様〉なんて好物件すぎて、ご令嬢方も今の婚約を破棄してでも捕まえたいだろうな。
「ルーカス様大変だったね。婚約者候補が決まったから解放されたの?」
「いや、あんなんじゃ決まるわけないよ。みんな怖いのに!それに探しものをするのに貴族の家を回らなきゃないだろ?〈旅行がてら訪問して自然な姿がみたい〉と言って逃げた!そう言わないと決まるまで夜会とお茶会が終わらなかったよ」
婚約者は決まらなかったんだ。私はちょっとだけホッとした。惚気は聞かなくてすむ。
「ローラ様、ルーカス様は幼い頃から運命の出会いに憧れていたんですよ。そもそも夜会やお茶会などでは見つける気にもならないと思います」
ノア様はウンウン頷いている。
「ノア!!」
ルーカス様は顔を真っ赤にしている。意外に乙女チックなところがあるのね。
仕方がない話題を変えてあげるか。
「それはそうとルーカス様知ってる?チョコレイの街はお菓子が美味しい街なの。ルーカス様は甘いものは好き?私は前世からずっと大好き!中でもチョコレートを使ったお菓子が好き。今度行く街もチョコレイだなんてチョコレートみたいよね!」
ルーカス様はニコニコしなががら話し始めた。
「僕もチョコレートみたいな名前の街だと思ったよ!僕も甘いものは好きだよ。実は前世のお祭りとかで売っていたフワフワした綿あめが好きだけど、僕の国じゃ見たことないな」
前世のお祭りの風景が頭をよぎる。やきそば、たこ焼き、フライドポテト!りんご飴やクレープ屋さんもあったなぁ。
ふと隣に座るルーカス様を見ると、どこか上の方をぼーっとしている見ている。
「ルーカス様!前世のお祭り思い出してたでしょ?」
私はニヤッと笑う。
「わかる?楽しかったなって、懐かしくなった。今は王子様と男爵令嬢のような魔女っ子だもんな」
「違う!違う!メイドさんみたいな男爵令嬢だから!!」
「2人でゼンセの話ですか?私も仲間に入れてくださいよ〜」
今度はノアが寂しそうにしている。
私たちは馬車の中でケラケラと笑っていた。
―――――――――
私たちはチョコレイの街へ着くと拠点となる宿へと急いだ。他国の王族が泊まる宿ということで、チョコレイの街の中で最もランクの高い宿だった。重厚な外観に細かな装飾が美しい。内装も細かな装飾が多くあちらこちらに絵画や美術品も飾っており、洗練された美しさだ。さすが最高ランク!
最上階のワンフロアが私たちの貸し切りだった。
一番広い部屋にルーカス様、広い寝室とリビング、応接室がついている。
「ローラは侍女なんだからすぐ来れるように隣の部屋だからね」
ルーカス様の鶴の一声で私の部屋はルーカス様の隣の部屋になった。別に端っこの小さい部屋でも十分なのに。
「ルーカス様!僕も僕も!呼べばすぐ行くから。侍従だからね」
というノアの押しでルーカス様の部屋の反対隣の部屋がノア様の部屋になった。
夕食までは自由時間で、訪問は明日から開始だ。一応侍女なのに何もしなくてもいいのかと思ったけど、ノア様が色々やってくれてるからいいのかな!
どうやら私はルーカス様の話し相手みたいだし。
明日訪問する家にはノア様がすでにアポも取っている。できる侍従だわ。家格の高い家から向かうらしいので明日はまずベルナル公爵家に向かう予定だ。
時間があるので与えられた部屋でピンク色のワンピースに着替えた。呪いのメガネのせいで部屋から出ると黒いワンピースに戻るけど、一応確認してみるか。
エイッと部屋から出るとやはり黒いワンピースに戻った。あのかわいいエプロンがない分殺風景に見える。今はこの部屋が自室と呪いのメガネに認識されてるんだろうな。どうせならエプロンも一緒に着替えられればいいのに。
エプロンと言えば、あの後洗い替え用としてルーカス様に追加で5枚もらった。というか、荷物を積む馬車にすでに積んであった。もう、色々と確信犯だよね。
部屋にまた戻りピンク色のワンピースに着替え、メガネも外し髪もほどいた。そして今度はフカフカのベッドにダイブした。
あんなに長い時間馬車に乗ったのも初めて。
こんなに遠くに来たのも初めて。
ルーカス様やノア様とのお話は楽しかった。
でも、疲れたな………。ベッドもフカフカで気持ち……いい…。
私はそのまま眠ってしまった。
――――――――
ドンドンドン!ドンドンドン!
「ロー……、……ラ、ローラ!」
ドアを激しく叩く音が聞こえる。
誰かが私を呼んでいる声も聞こえてきた。眠い……あれ?ここはどこだっけ?
寝ぼけ眼で部屋の鍵を開けると、ルーカス様が飛びこんできた。周りには護衛たちもいる。
「ローラ!大丈夫か?」
慌てたルーカス様が叫んでいる。
「ルーカス様?そんなに慌ててどうしたんですか?」
「いや、あの、ちょっとローラに言っていなかったことがあって。あ、転生関係のことで。あと、ローラはそんな姿も出来るんだ。その…いつもの姿もかわいいけど今の姿も美しいな」
ルーカス様は小さな声で呟いたあと顔が少し赤い。
今の私はピンク色のワンピースにメガネなし。髪もおろしていた。確かにこの姿をルーカス様に見せたことはなかった。
そんな赤い顔をされると、なんだか私も急に恥ずかしくなってきた!
「じゃあ、夕食後に聞かせてもらいますよ!もう夕食の時間ですし。お腹がペコペコです。いく準備をします!」
そう言って部屋からルーカス様を追い出した。
夕食はチョコレイの街でお菓子の次に有名だというチョコレイ牛のビーフシチューだった。口の中でホロホロに溶けて美味しかった。やっぱりその土地の名産品は美味しい!
デザートのミニパフェには綿あめがのようなものがフワフワと乗っていた。思わずルーカス様と顔を見合わせて笑ってしまったけど、さっきの事を思い出してパッと目を反らしてしまった。
リンガール王国には無くてもサンダール王国には綿あめはあったらしい。
夕食後、護衛たちにドアの外に出てもらい紅茶を飲みながら明日に行く予定のベルナル公爵家についても情報を交換した。
「ベルナル公爵家に販売した輸入品はアンティークの小箱よ。特に飾りが彫ってある訳でもなくシンプルな箱なの。素材がサンダール国にはないものだから、その点が珍しかったかな。買ったのはベルナル夫人だったわ」
私は輸入品について説明した。
「ベルナル公爵家には婚約者のいらっしゃらないお嬢様がお二人いらっしゃるそうで、今回の訪問は大歓迎されております。殿下が自国のアンティーク品に興味があるという情報も流しておきましたので、必ず小箱を出してくると思いますよ」
ノア様は公爵家の情報だ。下準備もバッチリだね!
「なるほど、まずは1軒目だ。最初から当たるとは思えないが気を抜かず行ってみよう!」
また週末に更新予定です。
完結済みの作品もありますので、ご興味のある方は見ていただけると嬉しいです。