第2話 ルーカス王子の探しもの
「僕の用事が済んだら、前世の話とかこの世界で驚いたこととか色々話がしたいな」
「そうね!こんな機会滅多にないし、たくさん話そう!さあ、そろそろ本題に戻ってさっさと探しものを見つけちゃいましょ?」
「探しているものはさっきも言ったけど我が国の重要文化財なんだ。それが何かはわからないんだよね。僕が触れば鑑定ですぐにわかるんだけど」
ルーカス様は難しい顔をしてため息をついて、ソファーにドカッと座り直した。
「特徴とか何でもいいからヒントはないの?」
「うーん。この世界は昔は魔法が使える世界だったの知ってる?リンガール王国は魔法大国だったんだ。前世のゲームの世界みたいだよね!でも今は衰退して誰も魔法なんて使えない。その中で鑑定能力を持つ僕はすごくない?まあ、先祖返りってことになっているけど、転生者だってことは限られた者しかしらないことになっている。探しているのは、その大昔の魔法アイテム。でも魔力がないから誰も使えない。宝物庫の担当が整理していた際に要らないものだと判断され、業者に払い下げた後こちらの国に輸出されてしまった」
それは探すのが難しくなりそうだ。珍しい輸入品はたいてい貴族に直接販売しているので、リストを見れば探し出せるだろうか?
「それは一見すると普通の物ってこと?いつぐらいに輸出されたものかわかると絞られると思うんだけど」
「普通のものか輸出されているくらいだから物珍しそうなものかな。輸出されたのは、おそらく1年前くらいかな。しばらく失くなっていることに気が付かなかったんだ。実はその宝物庫の整理を担当していたのが僕の乳母の息子で、僕の幼馴染でもあるんだ。乳母には忙しい王妃に代わり厳しくも優しく育ててもらったからね。転生者という点も受け入れてくれた。幼馴染は年上だから、お兄さんという感じで色々遊んでもらってね。だから陛下に紛失がバレる前に戻したい。手元にさえ戻ればどうとでもごまかせるから」
両手を握りしめルーカス様は悲痛な表情だ。
幼馴染の立場を考えると助けてあげたいんだろうな。
「1年前の販売リストから貴族をあたってみたらどうかな。ルーカス様の名を出せば、輸入品に触れることは可能かな」
「それをするとなるとお忍びという訳にもいかなくなるな。仕方がない。いや、それでは陛下にもバレてしまうか……」
ルーカス様は頭を抱えたあと頭ををスッと上げる。
「ところで、ずーっと気になっていたんだけどローラは何で前世の〈魔女っ子アメリ〉みたいな格好をしているの?僕も前世で小さい頃に見ていたから懐かしい感じがするんだけど」
つ、ついにツッコまれてしまった。いや、むしろここまで何も言われなかった方がおかしいよね。
「実は、呪いのメガネのせいで魔女っ子に……」
「呪いのメガネ??」
「実はね、この呪いのメガネをかけてから三編み、黒い質素なワンピース姿にしかなれなくなってしまったの。それでずっとこの姿なの!おしゃれも何も出来なくて」
「ハハハ!それでその姿なのか。てっきり魔女っ子のコスプレでもしているのかと思った」
もう笑い事じゃない!!私は立ち上がってルーカス様を見下ろしムーっと頬を膨らませた。
「いやいや、ごめん。悪かったって」
ルーカス様は両手を合わせて眉毛を下げている。
「メガネを外すことは出来ないの?」
「はずせればいいんだけど、時間が経つとメガネ飛んでくるのよ!」
私はメガネを外すして、飛んできたようにジェスチャーをしてまた付け直した。
「ええっ!そのメガネ飛んでくるの?怖っ!」
ルーカス様は目を大きくして驚いている。
端っこで気配を消していた侍従も目を大きく見開いている。
「しかもね、例の婚約破棄のシリアスな場面でメガネが飛んできて台無しだからね!恥ずかしくってその場から逃げ出しちゃったよ」
「ローラが妹に婚約者を取られたというやつか。あの男のステータスにも書いてあったっけ。ろくでもないな男だな。ローラは妹に怒りは感じないの?」
「バネッサには怒ってないわ。まあ、私は貴族の奥様って柄じゃないないし。でも妹にいつの間にか手を出されていてお子まで。妹はあんまり考えて行動する子じゃないし、純粋な子だから心配で」
「ローラは優しいね。僕だったら妹に怒りの矛先をむけちゃうな」
「悪い子じゃないのよ。でも、さっきはごめんなさいね。王子様と聞いて居ても立っても居られなくなって突撃してしまったわ」
トントントン!
応接室にノックの音が鳴り響いた。
私はビクッとした後、慌ててルーカス様の向かいのソファーに座り直した。
ルーカス様は王子の顔になり
「何の用だ?」
「ドットリーでございます。王宮からの使者様がお越しです」
ドアの向こうから父の声が聞こえる。
ルーカス様と私は顔を見合わせた。
「王宮にバレるの早くありませんか?」
「なんだか様子がおかしいな。とりあえず使者に会ってみるよ」
私たちはコソコソと話した。
「使者を入れてくれ」
――――――――
使者様は、要約すると「ぜひ王宮にお越しください。お迎えの馬車もすぐに着きます」とのメッセージとルーカス様のお父様からの手紙を置いていった。
「父上には全てお見通しだったよ」
手紙を読み終えたルーカス様は伸びながら呟き、私にポイッと手紙を投げてよこした。
〈ルーカスへ
お前がなぜ国を出たのかはわかっている。私としてもお前の乳母には少なからず恩義を感じているので大事にはしたくない。必ず目当てのものを回収し帰国するように。物さえ戻れば何とでも言えるので任せなさい。サンダール王国にはそちらの国で観光ついでに嫁探しをさせて欲しいと伝えている。〉
手紙を読ませてもらい、この親子は何だか似ていると思った。
それにしても嫁探しまでくっついて来て面倒なことになってきた。
「嫁探しとでも言えばこの国も私を受け入れやすいだろうとか考えてるんだよ。ついでに嫁が見つかったらラッキーぐらいに思っているんだろうな。面倒なことになった」
窓の外を遠い目で見ながらルーカス様は呟いている。
「ルーカス様は王族なのに婚約者はいないの?」
婚約破棄騒動がつい最近あった身としては気になった。リンガール王国では婚約者がいないものなのかな?
「僕の国には同じくらいの年代の令嬢が少なくてさ。どこの派閥の令嬢を選んでも揉めそうで、父上も考えるが嫌になっていたんだろ。他国の貴族ならそのしがらみがないからな。いや!むしろこれが目的であっさりと僕を国から出した可能性がある。やられた!!」
ルーカス様は両手で頭を抱えている。
トントントン
「王宮からのお迎えの馬車が来ております」
父の声が聞こえてくる。
屋敷の前には白馬が2頭繋がったキラキラした馬車が横付けされていた。うちの馬車何台分値段と考えてしまうのは前世脳だろうか。
キラキラ馬車に乗る前に小声でルーカス様は
「王族は本当に面倒くさいんだよ。僕は王宮に行ってくるよ。僕が出かけている間に例のリストを整理しててくれるかな?」
「了解。整理しておくわ。いってらっしゃい!」
私も小声で答えるとルーカス様を笑顔で送り出した。
ルーカス様はしっかり王子の顔になって馬車に乗ると王宮へ向かった。
「ローラ、王子と親密になったようだが失礼はなかったか?」
父は心配そうな顔で私をジーッと見ている。
「大丈夫です。私の雑談や輸入品の話を興味深そうに聞いておりました」
嘘です。父よごめんなさい。さすがに転生者の話は聞かせられない。
私は父の許可をとると1年ほど前の貴族への販売リストを整理し始めた。探しているものがわからないというのが大変だ。片っ端からルーカス様に触ってもらって鑑定するという訳にはいかない。
滞在できる時間もそんなに長くないだろうからリストを渡したらスムーズにルーカス様たちが行けるようにしないと。
リンガール王国からの輸入品で貴金属は除外できるかもしれない。いかにも価値がありそうなものはさすがに勝手に持ち出したりしないだろう。
そういうふうに考えればある程度削られるかもしれない。
不要な物だと判断されそうなもの……
不要な物だと判断されそうなもの…
私は分厚いリストから必要そうなものをどんどん削った。
そうしてようやくリストは20件まで減らすことができた。
次にリストの貴族の屋敷がある地域を確認、観光名所も調べるか。嫁探しの名目もあるから家族構成も調べないと。あとは何を調べればいいかな?
私はメガネをグイッと上げて気合を入れた。
ルーカス様が王宮に向かってから1週間が経ち、ルーカス様から1通の手紙が届いた。
〈ローラへ
元気に過ごしているかい?リスト化はうまく行ってるかな?僕はそろそろそちらへ戻れそうだよ。パーティーはマジで疲れる。どこの国も令嬢たちは目がギラギラしていて怖いね(笑)ところでしばらくぶりの日本語だけどちゃんと書けてるかな?これなら誰かに見られても大丈夫かと思って書いてみた。 ハルトより〉
ふふふ。確かに日本語なら誰にも読めないだろうな〜。ハルトというのは前世の名前かな?ルーカス様もなかなか面白いことをする。
今度会ったら私の前世の名前を教えてあげよう。