第12話 最終話
あれから私は〈ローラ・ドットリー男爵令嬢〉から、なんと〈ローラ・スピアーズ侯爵令嬢〉になることが決まった。隣国の王家に嫁ぐにあたりスピアーズ侯爵家の養女になるという事である程度の爵位問題はクリアできるとの事だった。
スピアーズ侯爵家にはアンナ様を通してすでに打診をしていたらしい。スピアーズ侯爵も他国へ娘を妃を出す栄誉が得られるとのことでふたつ返事だったらしい。
父はそれで納得するのかと思っていたら、私が幸せになるためなら養女でもなんでもしてくれて構わないと言っていたそうだ。バネッサの件で父は罪悪感を感じていたらしく、私を絶対に幸せにすることを約束させられたとルーカスは笑っていた。
しかもこの話はあのデートに行く前に実は決まっていたというから、ルーカスの用意周到さに驚いた。
そして、チート能力の件がはっきりして家格問題も解決するメドがついてすぐにリンガール王国の国王陛下にも私を妃にする許可をとったそうで国王陛下はあっさりと許可してくれたらしい。国王陛下の許可はあってもぽっと出の他国の侯爵令嬢を貴族や国民が受け入れてくれるかは行ってみないとわからない。
恐れ多くも他国の王族へ嫁ぐということで王都の国王陛下にも挨拶に行った。国王陛下は自国から隣国の妃が選ばれたということでご機嫌だったが、貫禄たっぷりで私は緊張して倒れるかと思った。
そして最低限の淑女教育しか受けていない私はチョコレイの街のスピアーズ侯爵家へ淑女教育を受けに来ていたのだった。
「ローラ!ようこそいらっしゃいました。私、妹が出来てとっても嬉しいですわ。淑女教育が完璧に終わっている姉様が指導してさしあげますからね」
アンナ様は笑顔だ。
「アンナ様、今回のことありがとうございました。お願いばかりで申し訳ありませんが色々と教えて下さい」
「ローラ、私のことは〈姉様〉と呼んで下さいな!」
なんだか、姉様なんて恥ずかしい。妹と兄はいるけど姉さまはいないから。
「アンナ姉様?」
「っ!!!」
自分で言わせておいて目の前で照れているアンナ姉様は可愛らしい。
そうして、私は張り切るアンナ姉様と2週間の淑女教育と妹生活を楽しんだのだった。
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「ローラ、お待たせ!迎えにきたよ。ますます綺麗になったね」
忙しくしていたルーカスとはスピアーズ侯爵家に来る前に会ったきりだったので2週間ぶりの再会だ。
「ルーカス!久しぶりね。私のことなんて忘れちゃったと思った」
私はツーンと胸の前で腕を組んだ。
「ローラ、ゴメン!早く公務を終わらせたくて」
ルーカスは眉を下げた。
「うそ!知ってる。私がリンガール王国へ渡る前にドットリー家で過ごす時間を作るために公務を前倒しして終わらせてくれたんでしょう?」
私はルーカスに抱きついた。
隣でアンナ姉様がコホンと咳をしたので我に返った。
「くっつくのは2人きりのときにゆっくりね?」
耳元でルーカスが言うものだから私の顔は熱くなった。きっと赤くなっているに違いない。
ドットリー家へ戻ると、バネッサがヨハン・フェイス伯爵と共に応接室で待っていた。
「お姉ちゃん!リンガール王国へ行かないで!バネッサは寂しいよ。この間は意地悪な言い方してごめん!だから行かないで!」
バネッサは立ち上がると泣きながら私に抱きついてきた。
私はバネッサの頭をヨシヨシと撫でた。
「バネッサ、あなたは母になるのよ。私がいなくなるぐらいで寂しいなんて言っていてはダメよ。強い母になって、ヨハン様と幸せになりなさい。ヨハン様、バネッサをよろしくお願いします」
私はヨハン伯爵に頭を下げた。
「ローラ嬢、元の姿に戻ったのだな。私が恋焦がれた姿だ」
私をポーッと見つめるヨハン様にバネッサが軽くエルボーした。
「うっ!痛っ!いや、バネッサのことは任せてくれ。うちの母ともなかなか上手くやっているんだ。お腹が目立つ前に結婚式をするから、それにはぜひ参加して欲しい。バネッサも喜ぶだろう」
私とルーカスは顔を見合わせて頷いた。
「もちろん。参加させてもらうわ」
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それから毎日はあっという間に過ぎていよいよ明日リンガール王国へ渡る日となった。
リンガール王国での挨拶がまだなので正式な婚約者にはなっていないけど、婚約内定はしている。挨拶を済ませ正式な婚約者となったら、王宮に滞在して王妃教育が始まるらしい。
ルーカスの妃になるという事は将来の王妃になるということだ。
トントントン
「ちょっと話せるかな?」
ルーカスが部屋を訪ねてきた。
「どうぞ」
ルーカスを部屋へ招き入れた。
「ルーカスどうしたの?」
「いや、大きな木の下で君の思いを確かめてからあっという間に時間が過ぎたと思って。ローラを流れに乗せてしまったなという自覚はあるんだ。リンガール王国に来ることに迷いはない?」
ルーカスは不安そうな表情は私を真っ直ぐに見つめた。
「今更何言ってるのよ。私はわかって流れに乗ったの。迷いはないとは言わないけど、リンガール王国に来てよかったとルーカスが思わせてくれるんでしょ?」
私は不安そうなルーカスの手を取り答えた。
「ローラ」
ルーカスが私の手を握ったままスッと跪いた。
「ローラ・スピアーズ侯爵令嬢、どうかルーカス・リンガールの妻となってはくれませんか?告白はしたけど、プロポーズはしてなかったね」
「ルーカス……!」
私は突然の展開に嬉しさで涙が零れそうになった。
「返事はもらえないの?」
子犬みたいに眼をウルウルさせてルーカスが見つめていた。
「ルーカス・リンガール殿下、私を貴方の妻として下さい」
ルーカスが立ち上がって私を強く抱きしめた。
これから、リンガール王国へ向かい乗り越えなければならないことはたくさんあるかもしれない。でも、きっとルーカスと二人ならきっと乗越えていけるだろう。
これからも私たちの物語は続いていく。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
伏線回収し切れない部分もありましたが、また別の機会があればと思います。
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