第10話 大きな木の下で+ルーカス視点
店の立ち並ぶストリートを抜けると草原の中を1本の道が続いていた。そこからさらに歩いて小高い丘が現れ、その頂上に大きな木が1本とその前に2人で座るのがやっとの小さな木製のベンチが置いてある場所に着いた。
ベンチの前まで来るとルーカス様はポケットからハンカチを取り出しベンチの上に敷いてくれた。
「アメリ、いやもうローラでいいかな?ローラここに座って」
「ルーカス様、ありがとう」
私はルーカス様の敷いてくれた青いハンカチの上に座った。
ルーカス様も隣にストンと座った。表情は真剣なままだ。
「ローラ、僕の話を聞いてくれるかな?」
私は妙な緊張感に黙って頷いた。
「前にノアが言っていたこと覚えてるかな?僕が運命の出会いに憧れていたという話。ノアはちょっと勘違いをしていたんだ。僕は自分の力で伴侶を見つけたかっただけだったんだよ。最初は転生者を見つけて嬉しかった。困っている君を助けてあげたいと思っていたけど、もうその頃には君に惹かれていたんだ。ローラ、君が好きなんだ。どうか僕の国に一緒に来てくれないか」
ルーカス様は私の目を真っ直ぐに見つめて話した。
どうしよう、ドキドキする。
私……嬉しいかも。
でも魔女っ子で男爵令嬢ごときが一国の王子様とだなんて。すぐには言葉が出てこなかった。
「ローラ、僕のことどう思ってる?僕との将来のことは考えられない?」
ルーカス様は返事を聞くまで引き下がる気はないようだ。
「ルーカス様、だって私こんな姿だよ?たかが男爵令嬢だし。それに、この間婚約破棄された傷物だよ……ここは前世と違う身分差のある世界なの。〈好き〉だけじゃ済まない世界だってわかってる?」
なんだか自分で言っていて悲しくなってきた。ルーカス様のことは素敵だと思っていた。告白されて嬉しかった。きっと私もルーカス様のこと……
今までだってルーカス様のことを考えなかったわけじゃない。〈身分差のある世界〉自分でそうわかるからこそ……
私を両手をギュッと握りしめた。
「そんなのわかってる。でもそんなことでは僕は君を諦める気はないよ。君が望んでくれるなら僕は何でもする。ローラ、君の気持ちを教えて?」
ルーカス様の乞うような表情を見ると、こんなにも求められていることが嬉しい。私も勇気を出して素直になってみてもいいのかな。
「私、私もルーカス様のこと……好き。今まで自分の気持ちに気が付かないふりをしてた」
「ローラ!」
ルーカス様は私をきつく抱きしめた。
「ルーカス様、苦しい!!苦しいから!」
私はルーカス様の背中をバンバン叩いた!
「だって、こんなに嬉しいことある?この世界での初恋が叶ったんだから!」
「でも、前途多難なのは変わりないわよ」
「大丈夫だよ。僕とローラなら絶対に乗り越えていける。僕のことを信じて?」
「ルーカス様……」
私もルーカス様にギュッと抱き返した。
「2人の時は敬称はいらないよ。ルーカスでもルーでも、ルカでも好きに呼んで」
「ルーカス?」
さっそく呼んでみたらなんだか気恥ずかしい。
「もう、ローラかわいい!」
まさかこんなに幸せな時間が訪れるなんて、人生どう転ぶかわからない。あの時婚約破棄されてよかったと今なら心から言える。どんなことでもルーカスとならきっと乗越えていける!今はただこの幸せな時間を享受しよう。
ルーカスがふと私からふいに離れた。
「そうだ!ローラ、これを受け取ってくれる?」
ルーカスはポケットから小さな包みを取り出し、私の手を取り左手にポンと乗せた。
「開けてみて?」
ルーカスはニッコリと微笑んだ。
「なんかいつもルーカスにもらってばっかりなんですけど。ふふふ、でも今回は貰いっぱなしじゃないから」
私は空いている右手をポケットに入れると、小さな包みをルーカス様に渡した。
「ローラこれは?」
「まあまあ。ルーカス、〈せーの〉で開けましょう?」
「せーの!」
「せーの!」
私はルーカスからもらった包みを開けた。
中身はさっき雑貨屋さんで見た、いや私が選んだあのサファイアに猫がついたネックレスだった。
これ……もしかして私のために選んでくれたの?
ルーカスの方に目をやると、私が雑貨屋さんで買った猫の刺繍のハンカチを見て目をキラキラさせていた。
「ルーカス!ありが……」
「ローラ!!ありがとう。すごく嬉しい!大事にするから」
王子様スマイルじゃない屈託のないこの笑顔にいつもドキッとしていた。
「喜んでもらえて嬉しい。いつももらってばっかりだったから。そんなこと言ってまたもらってしまったけど、ネックレスありがとう!」
私たちはベンチでプレゼントを交換しながら笑い合っていた。
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〈ルーカス視点〉
スリープ騒ぎの時に僕はローラが好きだと自覚したんだ。それをノアに話したら
〈やっと気が付きました?甲斐甲斐しくエプロンをデザインしたり手紙を書いたり気が付かないわけがないでしょう。〉
なんて笑われてしまった。ノアは初対面のときから僕がローラに惹かれていることに気がついていたらしい。確かに転生者云々の前にローラとは話していてとても楽しかった。
自覚してからはついついローラと距離を詰めようとしてしまうことが多くなった。僕なりの愛情表現なんだけどローラも満更でもないんじゃないのかな?そうだと信じたい。
探しものをしに訪問したスピアーズ侯爵家ではローラはアンナ嬢と初対面で意気投合していた。あの時の僕の様子を見てかアンナ嬢は僕のローラへの気持ちにすぐに気がついたようだ。〈私は何なりとお手伝いしますからね〉と話しかけられ、ローラへの執着についてチクリと言われたがそれは気にしない。何かあれば協力してくれる令嬢がいるのはありがたいことだ。アンナ嬢の印象が〈肉食獣〉から〈いい人〉になった。
他国の王子である僕がこの国に居られる時間は限られている。探しものが見つかれば帰るのはもちろんたけど、見つからなくてもあとひと月の滞在がいいところだろう。
ローラに思いを伝えなくてはと思う反面、この恋は許されるのだろうかと不安になった。
「ルーカス様、ローラ嬢の鑑定は保留のままですか?」
ある日、ノアが僕に問いかけてきた。
「鑑定?ああ、チート能力を調べると言っていたことか」
チート能力?そうだ!チート能力だよ。チート能力は間違いなく国益になる。ある程度の爵位と国益、僕が選んだ人ということで妃と迎えることが出来るのではないだろうか。
ある程度の爵位はあてがあるしなんとかなる。鑑定しなければわからないがローラのチート能力は何だろう?魔法とか目に見えて結果が出るものだと周りに納得させやすいんだけど。
もしかして!!僕はあることに気がついた。