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 48 出発



 ん……


 ……シン?


 ちょっと、やめてよ。今起きるから揺すらないでよ……


 ぶるぶるぶる


「あー、もうー、起きまーす」


「んっ? 何だ―、もぅ時間か?」


 あれ……シンが僕を揺すってた訳じゃないのか?


「いてててて。動かすと身体いてーなやっぱ」


「あっ、おはようございます」


 顔を歪めながら背伸びをするユウ。

 ふぅー、目が覚めて来た。


「おはようユウ。いたたた。いきなりいてーな」


「まだ痛みますか?」


「あぁ、昨晩は痛みでなかなか寝付けないし、眠りも浅くて何度も目が覚めたよ」


「そうですか……」


 気分は悪くないって言っていたけど、完治までには大分時間がかかりそうだ……


「目覚ましで起きたのか?」


「あっ、そういえば……」


 もしかしてさっきシンに揺らされてると思ってたけど、あれが目覚ましの機能、いや魔法なのかな?


 ぶるぶる振動も感じたけど……

 このコインみたいなのが直接震える訳じゃないのか。

 ふふ、シンに教えたらガッカリしそう。


「ユウ」


「はい?」


「悪いけど、肩貸してくれないか?」


「あー、はい!」


 シンは僕の肩を掴み、支えにしてゆっくりと立ち上がる。


「いっててて」


「大丈夫?」


「ああ、昨日も言ったけど痛みだけで気分は悪くない。ただ、眩暈が残っているから、ちょっと起きたり歩くのに問題ありだなこりゃ。いてぇー」


 シンは僕の力を借りて何とかバニ室に入って行けた。

 そして、シンに携帯トイレを渡した。


 ううぅー、ズボンとパンツ降ろすだけでも痛すぎる!

 女性にならむしろお願いするけど、ユウにしてもらう訳にはいかないし気合入れて脱ぐか!


「うー、おりゃー」


 ……うんこしてるのかな?


「なー、この自転車のサドルにそっくりなのが携帯トイレか?」


 まだでしたか……


「そうだよ」


「大きめの穴があいてるな、ここにケツとチンチンを入れればいいのか?」


 朝からチンチンとか、聞きたくない単語だな……


「そうだと思います」


「へんなのー。いててて」


 うん、僕も携帯トイレを見た時、同じ事を思った。


「ユウ!」


 シンが今までとはトーンの違う声で僕を呼んだ。


「ど、どうしたの、大丈夫!?」


「俺のちんちんが長すぎて中でつっかえる!」


 もぅー、驚かせないでよ~。朝からそんな冗談聞きたくもないのに……


「これってさ、普通のトイレと同じように出したものが消えるのか?」


「はい、たぶんですけど」


「まさか、中に入れてる俺の大切な大切なちんちんまで消えてしまうなんて事はないよな!?」


「ふふふ、もしそうなるなら販売禁止になってますよ」


「そうだよな……」


「そうですよ」


「……なぁ」


「はい」


「怖いから先にユウが試してくれない?」


 何でも自分でやりたがるくせにこんな時だけ……


「今は僕には必要ないので、どうぞお先にして下さい」


「……だってさ、俺のちんちんが消えたりしたらさ、元の世界の女性もこの世界の女性も皆悲しむぜ。その点ユウなら問題ないっしょっ?」


 ……重傷だから優しくしていたのに、いきなり毒吐き出したよ。


 けど……

 ふふふ、馬鹿にされてるのに何故か嫌な感じはしない。

 逆に笑っちゃう。


「問題あります。僕だって困ります」


「だってお前使ってな……」


「あーもぅ! 早くして下さい!」


「はいはい」


 ったくー、朝から文句ばっかり言って…… ふふふ。


「なーユウ」


「今度は何ですか?」


「そんな近くに居たら出しにくいよー」


 それは……そうだ。


 シンがバニ室から出てきたら肩を貸そうと思って、ドアの前に待機してたけど、ちょっと気負い過ぎてたな。


「離れましたよー」


「わりーな」


 豪快なのか繊細なのか良く分からないなぁシンは。


「フータ」


 終わったみたいだ。


「おー、良かった! ちんちんがついているよ」


 報告いらないし……


「ついでに身体も奇麗にするから悪いけどバニ石とってくれるか?」


「はい、待っててくださいね」


 鞄からバニ石とビンツ石を取ってシンに渡した。


「うぃー、さっぱりしたよ。ありがとう」


 バニエラとビンツを終えてドアを開けたシンは、床に座っていた。

 一人だと数十秒も立っていられないみたいだ……


「なぁ?」


「どうしたの?」


「この携帯トイレがあれば、いちいち1階のトイレに行く必要は無いよな」


「そうですね。僕も同じことを思って、シャリィさんに聞きました」


「何て言ってた?」


「この携帯トイレは、かなり高価な物らしいので、持っている人も宿に泊まった時は宿のトイレを使用するそうですよ」


「へぇ~、使いすぎると壊れるのかな…… いくらするんだこれ?」


「確か10万シロンでした」


「たっけぇー」


 旅の間は公衆トイレみたいなのは無いのかな?

 それなら野糞でもいいけど、まぁシャリィは女性だし、あとこれは、動けない俺の為に買ってくれたのかもしれない。

 っていうことは、これももしかして俺の借金に……


「比較的新しい宿屋には、部屋にトイレが設置されているみたいですけど、古い宿屋は共同トイレになるみたいですね」


「なるほどねー、もしかしたら、最近の魔法技術なのかもしれないな」


「そうですね」


 魔法技術か…… 覚えないといけない事は、本当に沢山ありそうだ……


「ユウ…… 悪いけど肩かして」


「あー、ごめんなさい。ついうっかり」


「いてててて」


 シンはベッドまで時間をかけてゆっくり歩いて戻った。


「わりぃな、ユウもバニしてきて」


「そうですね」


「そういえば、今何時?」


「あっ、時計渡しますね」


「おっ、サンキュー」


 鞄から時計を取り出してシンに渡した。


「いてて」


 どうやら痛みで腕が、頭より上に挙がらないようだ……


「あっ、僕がかけますよ」


「ありがとう」


 シンの身体は、至る所が紫色になって大きく腫れあがり、傷も沢山見える……

 裸になれば、恐らく全身がこの様な感じなのかもしれない。

 普通に受け応えしてるけど、辛そうだ。


「はい、かけましたよ」


「これだけでいいの?」


「はい、何時? って言ってみて下さい」


 あれ? 今僕何時って言ったのに、時間が浮かばなかった……

 

「……なんか怖いなぁ」


「……大丈夫ですからどうぞ」


「何時だ?」


 そう口に出すと、シンの頭の中に自然と5時35分と浮かんだ。

 苦痛も何も感じる事も無く、本当に自然だった。


「おぅおぅおぅー」


「ねっ、凄いですよね」


「なんじゃこりゃー、すげーな。バニやビンツ、トイレとかもそうだけど、元の世界以上に進んでるよな」


「そうなんですよねー、凄く便利なものがありますよね」


「だなー。テンション上がったよ今」


「あっ、もう時間ないですね、バニ行ってきます」


「はいよー」


 直ぐにバニとビンツを終えて支度を始めた。

 自分とシンの荷物をまとめて、シンに肩を貸し、部屋を後にした。

 時間をかけて階段を降りて1階に着くと、僕は汗びっしょりになっていた。

 シンの体重を支えるのは本当に大変で、この時また自分の不甲斐なさを感じてしまった。


 受付まで来ると、その様子を見ていた宿屋の主人が、僕の代わりに、シンに肩を貸してくれて、アロッサリアのいつものテーブルに着くことが出来た。


「おにいさん、ありがとう」


「ありがとうございました」


「お礼なんかいりませんよ。またイプリモに来る事があったら、うちの宿を使って下さいね」


「ああ、勿論だよ」


「僕も必ずまた来ます」


 はぁ~、次にシンさんが来てくれるまで、おにいさんと呼ばれるのはさっきので最後になってしまうのか。

 残念だ、実に残念だ…… あっ!? そうだ! 

 嫁にそう呼ばせれば良いんだ。うんうん、今日からおにいさんと呼ばせよう。それがいい! そうしよう!


 宿屋の主人は、さっそくこの日から有言実行した。

 のちにそれによって遅い子宝に恵まれる事になる。

 シンの何気ない一言が、新しいの命を授ける結果となったのだ。


「さようなら」


 主人は、急ぎ走って戻って行った。


 ……トイレを我慢してたのかな?


「いらっしゃいませ」


「あ、どうも」


 あっ…… 初めて見るウェイトレスさんだ。

 この人…… 凄い美人だ。背も高く、スタイルも良い……

 それに、なんて、なんて綺麗な髪の毛……

 まるで、天使みたい……


「ユウ君、何になさいますか?」


 僕の名前を…… う、嬉しい……


「え、えーと、団子スープとパ、パ、パンを…… あと、おお、お水もお願いします」


 つい、緊張しちゃった……


 そのウェイトレスさんの圧倒的なオーラを感じて、僕は目を合わす事も出来なかった。


「俺はね」

 

 シンが注文をしようと声を出した時、そのウェイトレスさんは既にその場に居なかった。


 ……ま、まさか!?


 恐らくシンも僕と同じ事を勘付いたのであろう。首がガクッと折れ曲がり、項垂れている。


「おまたせしました。ユウ君はお水と団子スープとパン。シン君はシャリィ様から事前に注文を受けておりました。薬膳スープとお水です」


 ……やっぱりかよ!

 ……やっぱり!


「フッ、フフフ」


 笑い声を出したけど、顔は全く笑っていない。

 可哀そうだけど仕方ない……


 僕も昨日一口だけ飲んでみたけど、この薬膳スープの不味さは普通じゃない。

 まず口に入れた瞬間、とんでもない青臭さを強烈に感じる。

 そして、その直後に恐ろしいまでの苦みが襲ってくる。

 飲み込んだ後、ようやく苦みから解放されたと思ったら、今度は強制的にキス顔になるほどの酸っぱさがとどめを刺してくる。

 まるで、ジェットストリームアタックのような三重攻撃!

 恐らく、ニュータイプでなければ飲み干す事は出来ないだろう。

 

 いったい何の食材を使えばこの様な味になるのか、不思議でならない。


 シンは額に汗を浮かべ、スープを睨んでいるばかりで、手を付けない。

 何とかしてあげたい……が、僕にも無理です。ごめんなさい。


「すみませーん」


 シンは、突然ウェイトレスさんを呼んだ。


「はーい」


「あのー、お名前は?」


「えっ?」


 ……まーた始まった。


「大丈夫、妊娠したりしないからさ」


「うふ、知ってたの、私達がそんな噂話をしているのを?」


「いや知らなかったよ。勘で言ってみただけ」


「ふ~ん、随分勘が鋭いのね。私、そういう男は好みかも……」


 こ、これが、イケメンと美女の会話か!?

 メモを取っておこうかな……



「私はルーナと申します」


「ルーナ…… 今まで聞いた中で1番素敵な名前だよ」


「はいはい。そう言うのは今までで(・・・・)何度目なの? けど、ありがとう」


「本当だよ、俺嘘ついた事ないもん」


「その言葉が嘘でしょ?」


「あはは、そうだね。けどさ、ルーナの名前とルーナを(・・・・)素敵だと思ったのは、絶対嘘じゃないんだ」


 その言葉を聞いたルーナさんは、喜びと恥ずかしさが溶け合った、魅力的な笑顔を浮かべる。


「ご用は何?」


「実は……ケガをしてて、腕が上がらなくてね…… もし良かったら、そのー、スープを飲ませてくれないかな?」


「……」


 ルーナさんの表情が変わった。

 これは、断られそうだ……


「だめ?」


 シンは、まるで3、4歳の少女の様に可愛くその言葉を口にした。

 その時、表情までもが、子供の様に幼く見えたような気がした。


「……いいですよ」


「ありがとう、ルーナ」


 ルーナさんはシンの隣に座り、スプーンで不味い薬膳スープをすくい口元に運んであげた。


「実は……俺、猫舌なんだ。ふぅーふぅーしてもらっていいかな?」


 自分でやれや!


「フフッ。もう~。ふぅー、ふぅー。はい」


 小さく開いた口を軽く前に出すと、ルーナさんがスプーンを口の中に入れてあげた。

 その時、思わず僕も口を前に出してしまった……


「美味しい?」


「めちゃくちゃ美味しいです」


「フフフ、はい次ねー」


「うん」


「ふぅー、ふぅー。はいどうぞ」


「パクッ」


 ……スプーンを咥える音を声で出すな。


「あははは」


 ルーナさん笑ってるし……


「ん~、美味しい」


「じゃあ次ねー」


「うんうん」


 しかし、何と言う事でしょう。

 シンはあの激マズ薬膳スープを笑顔で飲んでいるじゃないか!?


 僕は自分に置き換えて想像してみた。

 もしコレットちゃんが同じような事をしてくれたら、恐らく溶岩ですら飲み干すだろう……


 納得だ。シンは上手い手を思いついたものだ。


 そんな調子で、5分ほどで不味い不味いスープを完食してしまった。


「おみず~」 


 ルーナさんは笑顔でジョッキを持ってシンの口に運んであげている。


 もしかして今魔法を使っているのではないだろうか?

 そう疑いたくなるほど、事が上手く進んでいる。


「ありがとう。本当に助かったよ。いつか必ずお礼をするから」


 ルーナさんはスープの入っていた食器を持ち、シンを怪しく見詰め、今までとは違う雰囲気で答えた。


「期待してるわ」


 まるで別人のような口調でそう言うと、厨房の方へと戻って行った。


 その時のルーナさんは、凄く、凄くかっこよくて、宝塚のスターの様な感じがした。


 シンに目を戻すと、口を開けてハァーハァーと大きく息をしている。

 やっぱり、不味い物は不味いよね……


「ブルゥ、ブルブルブゥ」


「ガタガタガタ」


 僕達の朝食が終わったタイミングで、店の前に馬の息遣いと、馬車が止まる音が聞こえた。


 そして、シャリィさんが店内に入って来た。 


「食事はすんだか?」


「はい、終わってます」


「おひゃよう、シャヒィ」


 どうやらスープの後遺症が現れて、舌が上手く回らないらしい……


「おはよう。料金はここに置いておく」


 ルーナさんに声をかけテーブルに銀貨4枚を置いていた。


 ……薬膳スープっていったいいくらなのだろう?

 もしかして、シンがルーナさんにスープを飲ませてくれと頼むのを分かっていたのでは!? それでチップ多めにしているのかもしれない。

 流石シャリィさん……


「二人共、忘れ物はないか?」


「はい、大丈夫です」


「ふぃあ、、らいじょうびだ」


「では行こうか……」


「はい」


 シャリィさんはシンの脇腹に手を回すと、軽々と立たせて一緒に外へ出ていった。


 僕もシンと自分の鞄を持ち、外に出ようとしたけど、何かに惹かれ出口で立ち止まり、振り返って店内を見回した。


 ……この店とも最後かぁ。次はいつ来られるのだろう。

 その時僕は、りっぱな冒険者になっているのかな……


 団子スープ、美味しかったです……

 本当にありがとうございました。


 そう思い、店内に向け一礼をした。


 うん! さぁ、行こう!




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