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 13 光り輝く者




「暗くなる前に着けたな……」


 シャリィさんが呟くようにそう言った。


「……服はあの町で売るのか?」

 

「あの町は大きな町だが、お前の服は王都まで持っていく」



 ……王都?



「そうか、じゃあそれまでは俺達は一緒って事でいいか?」


「そうだな。あの町でお前たちの服や必要な物を買う。金は私が出しておくので心配しなくて良い。勿論、後で利息を付けて返してもらうがな」


「あぁ、それでも助かるよ。もし服を売る以外に手があるなら言ってくれ」


「……分かった」


 弾正原(だんじょうばら)はずいぶん上着に拘っているな……


 その服でしばらくの保証してくれているのだから言う通り売ればいいのに。


 けど良かったぁ。当分の間はシャリィさんが一緒に居てくれるようだ。


 安心したのも束の間。この後のコレットちゃんの言葉で、僕は地獄に落ちたような気分になる。



「残念だけど、僕はあの町でお別れ~」



 えええええぇぇぇぇぇ、コレットちゃん、そんなぁ……


 終わりだ…… もう、何もかもおしまいだ。



「寂しいな。もう会えないのかコレット?」


「二人がイプリモに居るなら会えるよー」



 イプリモ…… 町の名前はイプリモっていうのか。


 僕らはいつまでイプリモに滞在するのだろう……

 後悔の無いようにコレットちゃんには、毎日でも会いたいなぁ。


「僕はとりあえず正式な冒険者にならないとね、えへへ」


 ……どうやら見習いだと自由が利かないみたいだ。



 おぉ、話をしている間に町が近づいてきたぞ!


 ……こ、これは……異世界漫画で見た町そのものだ!


 高さ10mほどの石で組まれた壁が遠くからでもハッキリと見えて来た! 


 大きな大きな入り口は、金属の門を上から下に落とす、外国のお城にある城門と同じタイプでかなり頑丈そうだ。


 入口の左右には門番が4~5人おり、剣や槍みたいな物を持っていて、防具もつけている。

 そのせいか、皆体格が良く見える。


 ……はっきり言って怖い。


 

 入口の手前で、シャリィさんが荷車から降りた。


「とりおつ~」


 コレットちゃんが覚えたての言葉で門番にあいさつをする。


「二人は私の連れだ」


 シャリィさんの一言で門番達は僕らをジロッと見ただけで、声もかけてこなかった。


 町に入るのにお金は必要無いのかな?


 もしかしたら、シャリィさんの知り合いと言う事で免除になったのかもしれない。

 それにしても、いやに簡単に通してくれたな。  

 まぁ、少なくとも荷物はないので武器を持ってないのは、分かってもらえているだろう。


 入口でコレットちゃんも荷車から降り、馬の横に立ちハミの辺りを持ち歩き始めた。


 門をくぐり、町の中に中に入ると、そこは僕の想像通り中世のヨーロッパの街並みだった!


 ……し、信じられない!? 何て素晴らしい光景! 夢…… 本当に夢の様だ。


 さっきまでの土を硬く固めた街道とは違い、地面は石畳。凹凸も少なく、実に滑らかだ。


 おおお、看板かなあれ?


 ベッドのような形になっている、宿屋かな?


 ……ポサダ、字が読めるぞ!


 隣は酒場かな?


 ジョッキから何かの柄が出ている看板に、アロッサリアと書いてある……


 店内から大きな話し声が沢山聞こえる。


 照明は……ランプ? それにしては、明るいな…… うーん、元の世界の照明と比べると暗いけど、もしかしたら、照明も魔法なのかもしれない。

 

 

 おっ、あっちの家は花を窓際に沢山置いている。街に溶け込んでいて素敵だ。


 建物は平屋や2、3階建てまでが主流みたいだけど、町の外からも見えた塔だけは10階建てぐらいありそうだったな~。


 この町は、かなり大きそうな町だ。だいぶ暗くなってるけど、街灯も等間隔であるし、人通りも多い。


 ふふふ、僕もキョロキョロしているけど、弾正原もキョロキョロしているみたいだ。


 まぁ、流石にこの街並みを見たら、気持ちを抑えられないよね。




 入口から続く大きな道を真っ直ぐ歩いていくと一際大きな建物が見えてきた。

 

 大きな道はそこで二手に分かれていた。



「二人はそこの丸い看板の店辺りで待っていてくれ」


 シャリィさんは一軒の家を指さした。


 丸い看板にアビーニスと書いてある。何の店なのだろう?


「あとでね~」


 コレットちゃんの言葉に僕らは直ぐに返事を返した。


「あぁ」 「うん」


 そして、言われた店の前まで歩いて行き、僕らは立ち止まった。


 あとでねって事はコレットちゃんは戻ってくるんだ! まだお別れじゃないぞ、やったぁー!


 シャリィさんとコレットちゃんは大きな建物に向かって歩き始め、コレットちゃんと何やら会話していたシャリィさんは建物の中に入って行った。

 一方コレットちゃんは、馬を連れて建物の裏の方に消えた。


 二人が見えなくなると、弾正原が興奮気味に話しはじめた。


「おい! ここは何だヨーロッパか!?」


 ふふふ、その興奮した気持ちは分かるよ。


「僕の知ってる異世界は、だいたいこんな街並みです」


「まぢか!? すげーな、ベッド以外の場所でこんなに興奮するなんてな」


 まーた下ネタを混ぜてくる……


「元の世界と比べると、薄暗いけど、街灯もちゃんとあるんだな」


「そうですね」


「丸いガラス…… 何が光ってるんだあれ? 蛍光灯で、電気かな?」


 ……そんな訳ないよね。たぶんだけど。


「コレットがイプなんとかって言っていたな、この町の名前」


「はい。確かイプリモって」


「イプリモかぁ。意味は分からないけど、響きが良いな~」


 うん、僕も同じこと思っていたよ。


「色々な人種がいたよな」


「うんうん、いました、いました」


「っていうかさ、字が日本語じゃん!」


「うんうん」


「とにかくすげーな。夢見てるみたいだ!?」


 分かるよー、分かるよー、本当はお前の気持ちなんて分かりたくもないけど分かるよ~。


 何処にあるのか知らないけど、シャリィさんが王都まで一緒だと保証してくれて、その一言で安心して町を観察する余裕ができた。


 しかし、改めて周囲を見回すと、人生最高の感動レベルだ。


 ベッドでの興奮は僕には分からないけど、横投ちゃんを初めて見た時の興奮と同じ…… いや、それ以上かもしれない。


 僕達はシャリィさんを待っている間、通り過ぎる人を見たり、建物を見てハシャいでいた。


 しばらくするとシャリィさんとコレットちゃんが建物から出てきて、こちらに二人で向かってくる。馬は置いてきたみたいだ……

 言った通りコレットちゃんが戻ってきてくれた、良かった。


「そこに入ろう」


 シャリィさんが待っていろと指を刺した丸い看板の店に入って行く。


 僕らも後に付いて入ると、そこはどうやら雑貨屋のようだ。


 入り口近くのカウンターの様な所に、髪の毛がハゲて小太りのオヤジが居て、こちらを見て顔をクイっとあげた。


 どうやらコレットちゃんかシャリィさんの知り合いの様だ。



 僕はその人を見て一つ思った事があった。どうやらアレ(・・)は魔法でも治らないみたいだってね。



 店内には大小様々な木箱が置いてあり、その中にフォークやスプーン、お皿やお鍋、革の袋や布生地などが種類に分かれて入っていた。


 フォークやスプーンそれに鍋も鉄製かな……


 ん? あの箱は…… 石…… 鉱石かな?

 あの辺りには、鉱石みたいな物が入った箱を沢山置いてある…… 


 その奥のテーブルには服やズボンがごちゃまぜで山積みされていた。


「選んできてくれ」


 シャリィさんに言われ、僕とあいつはその山積みの服の中を見始めた。


 勿論サイズや素材を記載しているタグなど付いてない。


 大きさや色は様々だ。


 下着を着けてなかったので、まずパンツから探したが見当たらなかった。


「パンツがないな」


「うん」


 僕が返事をした次の瞬間、弾正原はとんでもない事を口に出した!



「おいハゲ、下着はないのか?」



 は、は、は、はぁ~?


 お、お前、異世界の初対面のハゲにハゲって言うか普通!?


 女性に話しかける時との差がハゲしすぎるだろ。


 その言葉を聞いたコレットちゃんは、笑いを堪えながら、恐らく興味も無い商品を見て誤魔化してるように見えた。


 シャリィさんは目を閉じて微動だにしない。たぶん聞こえていないふりをしている……


 ねっ、お前の余計な一言で空気悪くなったよ!


 どうしてハゲにハゲなんて言うかな?


 あの人だって好きでハゲたわけじゃないと思うし、それなのにハゲのハゲを突く?


 こいつ異世界の町を初めて見た興奮からか、調子に乗っちゃってるよ。


 こういうのってほんとヤンキーの特性だよね~、あーやだやだ。




 そう呼ばれたハゲは、怒りもせず顔と目線で僕の足元の方を指した。


 ……ハゲって言われ慣れてるのかな? とりあえず怒られなくて良かった。


 テーブルの下を見ると木箱があり、その中にパンツが入っていた。

ブリーフタイプやボクサーパンツもある。


 そういえばこのような下着は元の世界でも、かなり古くから存在してたとネットで見た事があったような……


 とにかく、この下着は普通に使えそうだ。


 ただ、ウエストのゴムの部分には紐がついている。


 まぁしかたがない、異世界で贅沢は言えない。


 そう思っていると、また余計な一言が聞こえてくる。



「紐かよ、ったく」



 ……あのね、声大きいよ、うん。もうやめてお願いだから。


 ハゲに聞こえちゃうじゃん。


 ねぇ、元の世界並みの性能のゴムがあると思うこの世界に?


 まぁ、あるかもしれないけど、現状この店には無いみたいじゃん。


 何でそんなに下着に拘ってるの?


 あ~、もしかして今晩シャリィさん相手に、エッチーな事になるとでも思って勝負パンツ的な事で拘ってるのかな?


 ごめんね、僕そんな状況になった事なくて下着に気を使った事ないのだよ。


 うん、何故か自分が悪いみたいに感じてきた、もぅ二度とこいつとは買い物に来たくない。



「何枚までいいかな?」


 あいつがシャリィさんに問いかけた。


「服だけじゃなく、必要なものは好きなだけ買え、ただし……」


「分かってるよ、そちらもお好きなだけ言ってくれ」


「フッ、いいのか?」


「やっぱお手柔らかに頼む」



 ……たぶん利息の話だろう。



 弾正原はズボンと服とパンツを3着ずつ選んだので、僕も真似して同じ枚数を持った。


「荷物入れる袋いるよな?」


「そうですね……あーっとそこの箱に入ってますよ革袋!」


 あぶなっ!? こいつまた「おいハゲ、袋はどこだ?」とか言いそうだったぞ。

 

 残念ながら、箱に入ってた袋は水袋だった。


 僕らは壁に掛けられていた肩掛けの革のカバンを見つけて、そのカバンと水袋を二つ、そして新たに靴もカウンターに置いた。


「あと何がいると思う?」


 う~ん……


「タオルとか、歯ブラシとか……ですかね」


「そうだな、布はあるけど、あれがタオルの変わりなのかな? あれも買っておくか……」


「そうですね……」


 あいつは小さな声で更に話を続けた。


「俺もさっきから歯ブラシを探してたけど、見当たらないんだよな…… 河原での会話で下着あるのは分かっていたけど、この世界の事をまだ全然分かってないから下手な事は聞かない方が良いよな?」


 ……こいつ、少しは考えているみたいだ。それならハゲの事も考えて、気を使ってあげてよー。


 改めて店内の商品を見回していると、僕の目はナイフを(とら)えていた。


 この店にはナイフや短剣なども売っている。


 ……正直なところ欲しいけど、買わない方がいいかもしれない。


 今はシャリィさんと良好な関係だと思う。だから、武器になるような物を買って警戒されたくない。


 僕はそう考えながらシャリィさんを見た。


 シャリィさんはハゲと何か話しながら、僕らの方も時折見てくる……


 沢山買っても僕らはインベントリを使えないし、シャリィさんと行動を共にしてる間は、とりあえずこれらの物でいいんじゃないかな。


「今はこれぐらいでいいかなって」


「そうだな、まぁ他に必要な物があればまたシャリィを頼るしかないな。本当は女性にアレ(・・)だけどな…… まぁ、もし利息が闇金並みだったら身体で払おうっと」


 ……こいつにとって下ネタとは、生物にとっての水と同価値なのかもしれない。


 だけど、本当は女性にアレ(・・)って何だろう?




「二人でこれを頼む」


 弾正原はシャリィさんにそう言い、ハゲのいるカウンターに、無造作に置いていた品物を並べた。



「分かった、ピカル全部でいくらだ?」



 うっ!? あの人の名前ピカルって……


 ダッ……ダメだ。


 が、我慢できない! いや、我慢しろ僕!


 さっきも思ったけど、ピカルさんだって好きでハゲてるわけじゃないんだ。

 笑うなんて失礼だ……



「うぅっ、んふふっ、んふふふっ~」



 必死で我慢している僕に、何とも言えない笑い声が聞こえて来た。


 勿論、弾正原の笑い声だ。


 変な声で後ろ向いて笑ってんじゃねーよ馬鹿!


 身体が揺れすぎだよ、完全にバレてるって、誤魔化せてないっておい。


 ピカルさんが顔を上げて、時折あいつの揺れてる背中を見ている。



 どうしてねぇ? どうしていきなり異世界の最初の町で敵を作るの?


 ピカルさん何もしてないじゃん、ハゲて光り輝いているだけじゃん。


 不愛想かもしれないけど、下着の場所も教えてくれたし、良い人かもしれないじゃん。


「あっ、外見て! かっこいい馬車だ、見に行こう」


 僕はそう嘘を言い、あいつの手を引っ張って強引に店の外へ飛び出た!



「いや~、シャリィも人が悪いよな~。突然あの名前言うかよ?」


 ……どうみても人が悪いのはお前だろ! どの口が言っているんだ。


 今のところ言葉は殆ど通じてるけど、ハゲ=ピカはこの世界では成立してないのかもしれないだろ。


 こいつ河原では頼りになってたし、他のヤンキーと違うかと思ったけど、シャリィさんが先の保証をしてくれた安心感からなのか、ヤンキー特有の性質が出て来て面倒臭いな……



 シャリィさんがドアを開け僕らを呼んだ。


「何をしている。中で着替えろ」


「ほーい」 「はい、すみません」


 店内に戻っても僕はピカルさんの顔を直視できなかった。

 ピカルさんを見た弾正原がまた揺れだした…… いいかげんにしろ!




 店内の奥に、陰になっている場所があり、そこで買った下着を履いて、服も着替えた。


 服とズボンは見た目と違って着心地が良い……

 言っては悪いが、シャリィさんに借りていた服よりもずっと。

 下着も柔らかくて、何の違和感も無く快適だ。


 シャリィさんに借りていた服は、その場で返却した。

 洗わなくていいのかな、下着もつけず直で着ていたのに……


 その気遣いは、シャリィさんの言葉で吹き飛んだ。



「次は食事に行こう」



 食事!?





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