やっぱり婚約破棄といえばグリーンウェレ王子だよな
40歳以下の方には意味が分からないと思います。すいません。
ナロウ王国の王都にある居酒屋では、今日も庶民が酒を飲みながら噂話を楽しんでいた。。
この世界にはテレビもなければスマホもない。イベントと呼ばれるものも全くないため、人々の楽しみといえば冒険者の噂話や王族や貴族たちの醜聞なのだ
「今年も婚約破棄がいっぱいあったよなあ」
「今や婚約破棄はナロウ王国が誇る一大エンターテイメントになってますからね。周辺のノベラプ国やアルポリス国でも婚約破棄は発生しているみたいですが、やはり本場のナロウ王国の婚約破棄は一味違いますよ」
「そもそも何故婚約したんだ? とツッコミたくなるのは横に置いといて、婚約破棄を言い渡す男の頭の悪さは目を覆いたくなるレベルだもんな」
「今年の婚約破棄といえばやっぱりグリーンウェレ王子ですよね。ナロウ王国が誇るアホ王子の代表格ですし、婚約破棄の神様に愛された男と言っても過言ではないでしょう」
「婚約3日目にして『婚約破棄は神様のお告げ』だもんな。意味が分からなかったよ」
「まあ、相手もハリー・アントワネット公爵令嬢ですからね。いつ別れるかブックメーカーで賭けられてましたけど、30日以上持つオッズは千倍越えてました」
「賭けになってないな。彼女に『喝!』と言われて泣いた令嬢はそれこそ山のようにいるだろ」
「あと、伯爵家の放蕩息子のエーリク・ヒルマンも凄かったです。なにせ 『肩が重いから婚約破棄』ですから」
「『肩に小錦が乗っている』って意味わからねえよな。そんな理由で一度も舞踏会にも来なかったらしいし」
「ええ、小錦っていったい何だったんでしょうね」
「そういや、あいつも凄かったぞ。『ベンチがアホやから結婚でけへん』と言ったやつ」
「ああ、エーモト・トラエースですね。足が長くてスタイルはいいんですが、残念ながら口が悪かった。でも、出版した『婚約破棄を10倍楽しく見る方法』は大ベストセラーですよ」
「いや、古すぎて若い人はわからんだろ。でも、寝取る方も寝取る方だよな。可愛く生まれて何が悪い!って言ったあの女」
「あざとさ女王のミーナミ・カナカですね。彼女の上目使いに耐えられる男なんてそうはいないですよ」
「そして、あいつだよ、あいつ。悪役令嬢界の人間山脈。ナロウ界のガリバー旅行記。この国最強の令嬢。アンドレア・ザ・ジャイアント男爵令嬢」
「魔王イーノキを片手で持ち上げたときには驚きました。魔王も信じられないといった表情でしたよ」
「そして、そのアンドレアに婚約破棄を告げた恐れ知らずのビックマウス」
「『ジャイアントはシャルロッテより弱い』と言ってアンドレアを怒らせた、テツロー・カテューですね」
「もう若い読者は完全に置いてけぼりだな」
「そして、そのアンドレアからテツローを奪い取った謎の覆面令嬢。千のあざとさを持つ女。 ミル・マスカラーンですよ!」
「よく覆面かぶってる女と付き合ったよな」
「というか、婚約破棄って我々庶民の娯楽提供のためにわざとやってくれてるんじゃないですか?」
「ああ、そうかもしれん。最近では話題ランキングのほとんどが婚約破棄と悪役令嬢の話ばかりだもんな」
「昔は内政とか色んな話題がありましたもんね」
「同じ話題ばかりで飽きたと文句も多い」
「僕は好きですけどね。やっぱり分かりやすいですもん。前にあった王都の食堂の話なんて分かりにくくて」
「ああ、あの『渡る世間は魔族ばかり』の食堂だろ。あれも年寄たちには受けてたんだけど、若い連中からの支持は少なかったもんな」
「でも、あの話は好きでしたよ。ギルドをやめた冒険者が北の大地で子供たちと暮らしているという話」
「金貨に泥がついてた話は泣けたよな」
「そうそれです! 最近はそういう長編の話題が少なくなりましたね」
「ああ、短編ばかりだ。恋愛主体じゃ仕方ないな」
「また、そういう話題も出てきますかね」
「まあ、流行り廃りは世の常だ。俺たち庶民は貴族たちが提供してくれる話題を楽しむしかないのさ」
「文句があるなら自分で話題を提供しろってことですか」
「そういうことだ。まあ、そんなことを言われても、俺たち庶民は忙しいからな」
「でも、みんなに話題を提供するって凄いと思いますよ。僕も、何かやってみようかな」
「おう、やってみろ! おまえの話だったら、俺が話題にしてやるよ!」
「ほんとですか! じゃあ、頑張ってみます」
「ああ、どんなにつまらない話でも、体験した本人が一番凄いんだからな」
こんなくだらない話を読んでいただきありがとうございました。