29.回復魔法
しんみりでは終わらせない男、俺。
五匹目のホーンラビットを探していると、何やら群れの存在を感じた。
数にして十匹くらい。
ただここからは若干距離があると思う。
何故ならこの群れは気配察知で見つけたものではなく俺の体が感じ取ったものだからだ。
とはいえ、まだまだ未熟な俺が感じ取れるくらいだからゆっくり出来るほど遠いというわけではないと思っていた方がいい。
良くて百五十、悪くて八十メートルといったところだろう。
どうするか。
正直なところ勝てる自信はある。
あるが、無傷とはいかないだろう。
とりあえず相談してみるか。
「少し離れたところにホーンラビットの群れがいるみたいなんだが、どうする?」
「どれくらいいるの?」
「十匹前後ってとこだな」
「安全的には?」
「微妙だな。少し怪我するかも」
「それはまた、なんとも言えないわね……」
そう言って愛花も悩み出してしまった。
「二人はどうだ?」
「私は正直なところ怖いです……」
「私は戦ってみたいけど、回復手段がないとちょっと怖いかも」
やっぱり回復はないとダメか。
回復魔法を練習してみるか。
「回復魔法って光属性?」
「光属性です」
予想通り光属性に分類されるようだ。
それじゃ、ちょっと練習してみるか。
・~・~・~・
そもそもの怪我が治る原理としては、まず血小板や血管収縮機能が働き血を止める。
次にマクロファージと呼ばれる細胞が死んだ細胞を取り込み怪我の表面を綺麗にする。
最後に肉芽組織等が働き皮膚を元に戻す。
ここまでやって怪我が治る。
細かい部分までいくとまだあるのだろうけど大まかな話はこんなところだ。
なら回復魔法はこの動作を速くすれば出来るんじゃないか?
ただ怪我を治すというイメージだけでは表面上は治っていても内側は治っていない可能性が高い。
出血していない怪我なら簡単なイメージでもいいかもしれないが出血している場合は前者の方が確実な気がする。
とすれば。
「サーシャ。ちょっと短剣貸して」
「?はい。どうぞ」
こんな唐突に言われたら困惑するよな。
けど説明したら止められそうだから敢えて言わない。
「よっと」
ザクッ。
トロー。
ちょっと深すぎた。
痛いです。
「ご主人様!?何をしているんですか!?」
「いやなに、回復魔法を使えるかの実験だよ」
「それなら私がやります!」
「でももうやっちゃったし」
「そ、それは。そうですけど……」
頬を膨らましているサーシャだが、もう少し自分の体を大切にしろと言いたい。
俺?
俺は今までたくさん怪我してるんだから今更だな。
「お兄ちゃん、血を止めなくていいの?垂れちゃうよ?」
おっとそうだった。
それじゃさっきのやり方をイメージして、魔法を使ってみる。
「お?治ったか?」
出血していた分の血は残っているが傷口は塞がったようだ。
その証拠に、痛みも引いたし血も出てこない。
どうやら成功みたいだ。
「ほんとに治ったわね」
「自分でも驚いてる」
軽い感じで話しているがこんな一瞬で傷が治るなんて見たことが無い。
人体に興味がある俺としては結構な興奮ポイントなのだ。
場所が場所なだけに押さえてはいるが。
「ねえお兄ちゃん。治ったのはいいんだけどさ、ちょっとお話したいかな」
そう話しかけられ振り向くと、顔は笑っているのに目が笑っていないミーシャさんが。
「み、ミーシャ?なんか怒ってる?」
「怒ってる」
やっぱり怒ってた!
でもなんで!?
俺何か怒られることしたっけ?
「お兄ちゃん。お兄ちゃん達は私達にとって唯一の救いなの。この森での暮らしから外に連れ出してくれた人。痛いこともしないし、優しく接してくれる。そんな人達が傷つくのを私は見たくない。だから、自分の体を大切にして?私の体ならいくらでも使っていいから」
「そうです!そんな簡単に傷を作らないでください!」
二人ともそんな風に思ってくれていたのか。
なんというか、嬉しい、かな。
二人にうまく対応出来ているのか不安だったがこの反応を見るに間違ってはいないようだ。
ならまずはこの言葉だろう。
「二人とも、心配かけてごめんな」
二人に不安与えてしまったのなら謝らないと。
こんなにも慕ってくれているのだから。
「出来る限り怪我しないように気をつけるよ」
「……それ気をつけない奴のセリフ」
最後の言葉は無視。
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