表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

1.属性判別

「アクアリア•ホーンナイト。属性……火•水•土•風•雷のご、五属性」

「五属性? 王族の方々でも三属性だぞ」

「これがホーンナイト家か」


 水を打った様な静寂から一転して騒がしくなる教会。


 オルガ王国の慣例、属性判別式。それは今年十歳になる子供達を各街の教会に集めて生まれ持った属性を判別するという、ただそれだけのもの。王族も貴族もない、誰もが主役な行事でこれだけの注目を自然と集めてしまう私って、私ってーー


「オーホッホッホ!!」

「お嬢様、いきなりの高笑いはやめて下さい。周囲の人に迷惑です。主に私とか」

「あら、ごめんなさい。皆が私を見る視線につい優越感が……ゆ、優越感が……オーホッホッホ!!」


 我慢できずに笑うと、私専属メイドのクローディアがもう勝手にしてとばかりに肩をすくめましたわ。


 ごめんなさいね。私だって別に周りに迷惑を掛けたいわけじゃないのよ。だけど笑いたい時に笑わないとすっごく損した気分になるのよね。だから私は笑うの。腹の底から大声で。


「オーホッホッホ! オーホッホッホ!! オーホッホッホ!!!」

「姉ちゃん、スゲェ! スゲェよ!」


 自分でもドン引きするくらい笑っていたら、可愛い妹のネリアが短く切りそろえられた金髪の髪を揺らしながら駆け寄ってきましたわ。


「これくらい当然ですわ。だって私達はホーンナイト家なのですわよ?」


 ホーンナイト家。王国順列第三位のオルガ王国において王国の盾とまで謳われる名家。そんなエレガントすぎる家の長女として生まれた私にこの程度の資質が備わっているのは当然で、だからこの結果も全然嬉しくなんて……嬉しくなんてーーー


「オーホッホッホ! オーホッホッホ!」

「いいなぁ、姉ちゃんは。賢い上に五属性なんてスゲー属性まで持ってて」


 はっ!? この私としてことが、これから属性判別を受ける可愛い妹に余計なプレッシャーを掛けてしまいましたわ。


「…………コホン。変に緊張するなんて貴方らしくありませんわよ。いつものように気楽に受けてきなさいな」

「でもな~。もしも無属性だったらどうしよう。流石にショックだぜ」


 この妹にしては珍しく不安げな顔をするので、私は姉として可愛い妹の頭を撫でてあげましたわ。


「バカね。その時は最強の無属性を目指せばいいだけでしょう。どんな資質を持ってるかじゃない。今あるものをどう使うかが大切だって仁老子も言ってましたでしょう」

「姉ちゃんもそう思ってるか?」

「勿論。さぁ、行ってきなさいな」

「うん。分かったぜ姉ちゃん」


 元気を取り戻したネリアが祭壇へと駆けっていきますわ。すると隣にいたクローディアがーー


「ついさっきまで高笑いしていた人のセリフとは思えませんね」


 と、すまし顔で余計なことを言ってくる。まったくこのメイドは、優秀なんですけど一言多いのが玉に瑕ですわ。


 なんて考えている内に神父が属性判別の為のお決まりの文句を唱え終えた。果たして結果はーー


「ネリア・ホーンナイト。属性、土と炎」

「おお、二属性」


 私の時に比べれば細やかなものだけど、ネリアの判別にも小さなざわめきが起きましたわ。


「ふふん。どうですクローディア。流石私の妹とは思いませんこと?」

「仰る通りです」

「姉ちゃん、やったぜ! 二属性だ」

「見てましたわよ。さぁ帰りましょう。お父様とお母様もきっと喜んでくださるわ。今日はお祝いよ」




(では私からもお祝いを一つ)



「え?」


 それはあまりにも突然で、どうしようもなく意味不明だった。


「えっと、ここは……どこですの?」


 ついさっきまで教会の中で嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる妹に手を振っていたはずですのに、気がついたら真っ白な空間に一人で立っていますわ。


「ふふ。一人ではありませんよ」

「え? きゃっ!? あ、貴方は?」


 いつの間にかすぐ近くに黒髪を腰まで伸ばした女性が立ってますわ。


「これは失礼、実は私、こう言うものなんですよ」


 女性は丁寧に腰を折りつつ小さな紙切れを渡してきた。見ればその紙にはデカデカとした字でーー


『神です』


 と書かれてますわ。


「ああ、なるほど。よく分りましたわ」

「分かって頂けましたか」

「ええ、もちろんですわ」


 自分で言うのもなんですけど、私は今年十歳になる少女とは思ないほど聡い人間なのですわ。だから目の前の女性がどんな方なのか、紙に書かれた字を見た瞬間一発で理解できましたわ。


「えっと、私の実家はお金持ちなので、貴方さえ良ければいいお医者さんを紹介いたしますわよ。無論、費用はこちらでもちますわ」


 高貴な家に生まれた者の義務として、頭がちょっとアレな方に救いの手を差し伸べる。そしたらーー


「いえ、私の方がお金持ちですから。何せ私、神ですから」


 なんかこの自称神、メッチャ張り合ってきましたわ。


「あっ……そ、そうですの。それは失礼いたしましたわ。それではえっと、貴方は結局だ……いえ、ここはどこですの?」

「ここはですね、グランドマテリアルの第一層に貴方の自我を……いえ、夢の中と考えてください」

「夢……夢ですの? それは……しっくりくる話ですわね」


 冷静に考えれば教会からいきなりこんな所にいるはずがありませんわ。何らかの魔術攻撃の可能性もあるにはありますけど、基本教会は結界に守られていますし、あの場には多くの霊術師や私の護衛も兼ねているクローディアまでいた。いくら何でもそれら全てをすり抜けて魔術攻撃を成功させるなんて不可能としか思えませんわ。


「で? その夢の中に登場する自称神様が何のようですの?」

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。実はですね、属性判別で五属性という凄い結果を出したアクアリアさんに、お祝いとしてこのゲームをやらせてあげようと思いまして」


 女性は何やら四角い箱を取り出すとそれをこちらに渡してきた。その表面に書かれているタイトルはーー


「悪役令嬢アクアリアの奮闘記? 何ですのこれ?」

「それは貴方のこれからの人生をノベルゲーム化したものです」

「は? ノベルゲーム?」


 夢のくせに本人が理解できない言葉を使うとは、まったく持って不親切な夢ですわね。


「え~と、予知夢のようなものと言った方が分かりやすいですかね?」

「夢の中で夢を見るんですの? 流石夢、なんでもありですわね」


 早く起きないかしら。


 試しに頬をつねってみたけれど、普通に痛かった。


「さっそく遊びましょう。ほらこっちに座ってください。これコントローラーです。基本的に選択肢を選ぶだけですからアクアリアさんは物語を楽しんでくれればそれでいいですよ」


 真っ白な空間には何もなかったはずですのに、気付けば椅子が出現してますわ。言われるまま椅子に腰かけると、女性が先ほどコントローラーと呼んだ変な形のモノを押し付けてきましたわ。


「ではゲームスタートです。ふふ、きっと楽しめますよ」


 何もない空間に映像がデカデカと投影される。私は溜息を一つ付くとーー


「目が覚めるまでですわよ」


 そう言って自称神様の言う通りにボタンを押したのですわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ