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01 こんにちは新世界、さようなら旧世界

 俺はどうなったんだ・・・・・?

 死んでしまったのか・・・・・?

 最後に見た光景は、車が俺の方につっこんできて・・・・

 それで、俺は・・・どうなったんだ・・・・?

 自分の身に起こった状況が分からない。

 死んだのか?それとも医師の懸命な治療のもと、九死に一生を得たのか?

 どちらにせよ自分の安否が確認できない。

 いや、こうして考えてられているということは助かってるんじゃないか?

 でも、死人に思考が存在しないとは限らない。

 もしかしたら、死んでいるのかも?

 いくら頭を回転させても答えを導き出せない。

 それに・・・

 後輩の結婚式に泥を塗っちまったな。いや、血を塗っちまったな。

 悪いことをした。

 もし、生きていたなら土下座でもして謝りたい。

 そのためにも今の状況を早く確認すべきだ。

 だが、どうやって確認するんだ?

 車に轢かれたんだよな・・・?

 痛みは・・・・・・・ないな。

 どこにも痛みを感じない。

 あれ?これってもう答え出てるんじゃないか?

 死んだら痛みを感じないと何かで聞いたことがあった気がする。

 ということは・・・・・・死んだのか?

 いやいや、まてまて。

 結論付けるのはまだ早い。

 医師が治療して、麻酔がまだ効いてるのかもしれない。

 そもそも、そんなに大けがだったのか?

 轢かれたと思っていたが、本当は撥ねられただけで軽いけがだったのかもしれない。

 よく考えればいろんな可能性があるじゃないか。

 よし、一から情報を整理しよう。

 俺の脳内に変な声が聞こえたから結婚式を途中退席して、満開に咲く桜の木の下を眺めながら歩いていた。来年は彼女と桜を見ようと決心して。

 それでまた脳内に声が流れてきて、それで車がつっこんできたと。

 んで、そこから記憶がないわけで・・・・・・ん?

 あれ?安否を確認できる要素なくね?

 本当に俺はどうなってしまったんだ!?

 よく考えろ!何か糸口を見つけないと気が収まらない。

 それにしても、俺の気分を害したあの幻聴は何だったんだろうか。

 学生がどうとかジョブがどうとか、それに・・・・・

 あれ?

 あの時、転生とか言ってなかったか?

 いや、まさかな。

 転生は空想の話であって、現実ではありえないから。

 うん、そうそう。あの時の俺はちょっとばかり疲れていたんだ。


 ジリリリリリ


 ん?何の音だ?

 これは・・・・目覚まし時計の音か?

 病室に目覚まし時計なんてあるのか?

 入院したことがないからわからないな。

 早く止めないと、同じ病室の人間に何を言われるか。

 目は、目は開けられるのか?

 うっすらとだが目は開けられるな。

 病院だと思うが、全く見えないな。

 てか目覚ましどこだよ!

 どこにもないぞ! 

 いくら探しても目覚まし時計は見つからない。

 だが、運よく目覚まし時計の音がピタリとやんだ。

 ふう、これでとりあえず大丈夫だな。

 安堵したその時だった。


 カンカンカンカン!!!


 耳元で騒音級の音が鳴り響いた。

 突然の出来事に飛び跳ねて起きないやつはいないだろう。

 陽一も例外ではない。

 あ、やっと目がパッチリ開いた。

 一体俺はどこの病院に運び込まれたのやら。

 辺りを見渡すと、どうやら変わった病院みたいだった。

 カーテンの仕切りはなく、ベッドは一つ。

 ということはここは個室なんだろう。

 ここまでは普通のなんて事のない病室だった。

 しかし、変わっているというのはあの勉強机に籠に入った沢山のおもちゃ達だ。

 病院の病棟には入ったことはないが、間違いなく普通なら存在しない物なのは分かる。

 なあ?変わってるだろ?

 そして、ベッドの横には看護師らしき女性が突っ立っていた。

 これもまた変わった格好をしている。

 本来、身に着けているであろうナース服がなんて事のない普通の私服。

 両手にはフライパンとフライ返しを装備していた。

 何なんだ?この病院。

 どこからつっこんでいいのかわからなくなる。

 とりあえず、トイレに行きたいな。


 「あの、トイレに行ってきてもいいですか?」

 「好きに行けばいいじゃん」


 おっと!?ここでハプニング発生。

 まずトイレに好きに行けばいい?

 一応、俺けが人だよね?

 車に轢かれたか撥ねられたよね?

 すごい対応が淡泊なんだけど!?

 もしかして、俺の事故ってそんなに大したことない系?

 いや、鋼鉄の塊に轢かれたか撥ねられたかしたら、大したことあるだろ。

 大事故ですよ?大事故。

 付き添いもなしですか?

 それになんで患者相手にため口?

 普通は敬語とか丁寧語とか使うよね?

 別に謙譲語だって構わない。

 だけど、選ばれたのはため口?

 この病院は患者にため口で接するのが当たり前なの?

 入院したことないから、本当はため口使うのかどうかわからないけどさ。


 「そんなことより早く起きなさい!」


 看護師らしきその女性は、いきなり俺をベッドから引きずり出した。

 おいおい、こっちはけが人なのに。

 なんだ?その物を扱うような行動は。

 さすがに医院長に一言文句を言ってやりたいぞ?

 だが、尿意の限界はすぐそこまで来ていた。

 クレームは後だ。


 「あの、トイレは・・・」

 「何を今さら言ってるの。もう六年も使ってるんだよ?」

 「六年!?」


 いやいや、俺はこの病院に来たことないぞ?

 そもそも、もう六年使ってるって何?まるで現在進行形みたいな言い方。

 俺は今年で三十六だぞ?

 三十歳から使ってるって?

 悪いが、全くこの場所に身に覚えないぞ?

 

 「全く、ご冗談がお好きなんですね?」

 「何を言ってるの気持ち悪い・・・早く降りて行ってきなさい」


 そう言い残し、女性は部屋から出て行った。

 部屋に一人取り残された陽一は、ぼそっと呟いた。


 「トイレ・・・どこですか・・・」


 降りて行ってきなさいということはトイレは下の階にあるのか?

 とりあえず陽一は、部屋から出てみることに。

 そして部屋から出た陽一が、最初に発した言葉。

 それは・・・・


 「狭っ!」


 病院とは思えないほどの狭さだ。

 俺はこんなところに救急車で運び込まれたのか?

 おいおい、まじかよ。

 普通、大学病院とか大きい所に連れて行くだろ。

 全て救急隊のせいだ。

 大体、大けがをした人間をなんでこんな小さな病院に連れてくるんだよ。

 見てみろよ、怪我したのにサポート役もいないから、歩幅も自ずと小さくなるから全然前に進まないじゃないか。

 それになんだこの階段は。

 手すりが取り付けていない。

 バリアフリーの精神の欠片もない。

 こんなつらい思いしてるのは全て、この病院に搬送した救急隊のせいだ!

 早くトイレに行きたいというのに。

 だが文句を言っても、搬送されてしまった以上どうすることもできない。

 陽一はゆっくりと階段を下りていき、そして一回に辿り着いた。

 そして陽一はあることに気が付いた。


 「てか、トイレの案内標識がない」


 いくら天井を見渡しても案内標識は見当たらない。

 それだけではない。

 病院にあるはずのトイレ以外の標識も全てなかった。

 どうなってんだよ、この病院・・・・

 案内標識がない以上、隅から隅まで隈なく探す他なかった。


 「とりあえず、近くにある扉から探してみるか」


 まずは付近にあった扉から探ることに。

 扉は前後に開閉するタイプらしく、陽一は勢いよく扉を開けた。

 結論から言うとそこはトイレじゃなかった。

 なぜトイレじゃないと分かったのか。

 それは、生まれたてのおっさんがそこにいたからだ。

 おっさんはこちらに気が付いたらしく、気さくに挨拶を交わしてきた。


 「よお、今起きたのか」

 「よ・・・よお・・・」


 挨拶と共に陽一はゆっくりと扉を閉めた。

 しばらく、扉のドアノブを掴んでいるとやっと我に返った。

 すぐさま思いついた単語は・・・


 「誰だよ!!!!」


 入院初日から変なものを見てしまった気がする。

 いや、今のは忘れよう。

 おっさんよりも、早くトイレを探し出さないと。

 陽一は、先ほどの扉の隣にもう一つ扉があることに気が付き、今度はそっちを開けてみた。


 「ほ・・・・、今度はトイレみたいだな」


 閉まっていた洋式便器の蓋を上げ、俗に言う立ちションをする。

 ふう、これですっきり。

 このトイレは洗面所と一体化しているらしい。

 

 「そういえば俺の顔ってどうなったんだ?事故のせいで整形してたりして」


 決して整形がしたかったわけじゃない。

 仕方のなかったことだからな。

 これは事故だ。

 だからしょうがない。

 そう自分に言い聞かせた陽一は、鏡と対面した。

 鏡とは真実をありのまま映すもの。

 決して偽りの姿など映すことはない。

 だから、この整形具合には驚かされた。


 「全くの別人じゃないか!!!!」

 

 綺麗な青い瞳に透き通るような白髪。

 完全に別人だった。

 年齢よりも遥かに若く見える。

 これは終焉を迎えたモテ期が期待できそう。 

 そう、彼の今後の人生はバラ色だった。


 「よっしゃあああ!!!」


 陽一の声がトイレの中で響き渡った。

 

 


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