花びら
ひだまり童話館 開館5周年記念祭参加作品。
お題は『5の話』
好き 嫌い 好き 嫌い 好き
好き 嫌い 好き 嫌い 好き
好き 嫌い 好き 嫌い 好き
ピンクの花びらを一枚ずつちぎる。必ず「好き」が出る。花弁が5枚だからだ。そんな花を買ってきた静子はため息をついた。
「あ~あ……」
好き 嫌い 好き
「やめてくれない?」
「誰?」
静子は急に聞こえた声に驚いた。静子がいるのは自分の家の自分の部屋。周囲を見回しても誰もいない。
静子は先ほどの続きをする。
嫌い 好き
「だから、やめろよ」
今度ははっきりと静子の耳に聞こえた。
目の前の下、ちぎった花びらの上にそれはいた。ピンクの三角の帽子にピンクの服。サンタクロースのピンクバージョンのようだ。そんな全身ピンクっ子が花びらの上に立っている。花よりも少し大きな小人のように見える。
「あなた、喋った?」
「うん。もう花をちぎるのはやめてよ。せっかく綺麗に咲いたのに可哀想だろ」
静子はこんなことはおかしいと思いつつも答えた。
「ごめんなさい。どうしても試したくて……」
「何を?」
「……自分の気持ち」
小人は黙っていたが口を開いた。
「そんな占い信用できるの?」
反論出来ない静子。
「とにかくこれ以上はやめてよね」
そう言うと小人は消えた。
静子は自分の周りを改めて見た。確かに花びらだらけだ。先ほどの小人が何なのかはわからないが、ひどい有り様だった。
静子は花びらをかたづけると、ある男の子のことを思い浮かべた。
勲……。花びら占いでは「好き」。でも向こうは?
今日は寝よう、と静子は思った。先ほどの小人のことが現実だとは思えずに、忘れるために寝てしまいたかったのだ。
翌日。ごみ箱には大量の花びら。昨日の小人が現実にいたかどうかはわからないけれど、これだけの花をちぎったのかと反省した静子。
いつも通りの朝。静子はごはんを食べると高校へと向かった。幼なじみの勲……。同じクラスで嬉しいけれど、昔みたいには話せなくなっていた。嫌いになれたら楽になれる。そう思って花びら占いをした。でも静子が選んだ花の花びらは全て5枚。「嫌い」になるはずもない。
人知れずため息をつく静子。
そんな静子を見つめる目があったことを静子は気づかなかった。
学校帰り。今は期末試験の前だから部活は禁止だ。静子も勲も素直に家へと帰る。幼なじみなだけあって、静子と勲の家は近い。段々と人も減り、二人は少し距離を開けて歩いていく。その時勲は振り返った。
「なあ?……」
「え?」
勲に話しかけられると思ってなかった静子は驚いた。
「……付き合わねえ?」
「え?」
またも聞き返す静子。幻聴かと思った静子に勲は爆弾を落とした。
「お前が好きだ」
どストレートな言葉。静子はポカーンである。
「答えは?」
心なしか勲の顔は赤い。
「空耳……?」
「だから!」
焦れた勲。
そんな時だった。ピンクの花びらが飛んできて勲の頬に付いた。
(好き 嫌い 好き 嫌い 好き)
昨日のことを思い出す静子。はにかむように笑って言った。
「よろしくお願いします」
その時には既に花びらは勲の顔にはなかった。
静子はちぎった花と同じ種類の鉢植えを買って、山へと埋めに行った。ここなら根がはっても大丈夫だろう。静子はそっと花びらに触れた。
「まあ、許してやるよ」
「え?」
「どうした?」
一緒にいた勲には聞こえなかったらしい。小人の許しを得て、静子と勲は恋人同士になった。
小人はキューピッドだったのかもしれないと思いながら。