第3話 運命の岐路
「マンジョーウさん、本日もお忙しい所、ありがとうございます」
「これはこれは、神父様。ご丁寧にありがとうございます。」
「マンジョーウさんのおかげで、このフヘン村も日々の営みを送ることが出来ています。さほど珍しいものもないこの村に、定期的に通ってきてくださるのはマンジョーウさんだけです」
「いえいえ、礼には及びませんよ。それでそちらの若者をご紹介頂けませんか?」
「はい、初めましてマンジョーウさん。今年フヘン村で成人を迎えたばかりのアレンといいます。今日は神父様に無理を言って同席させて頂くことになりました。」
「私はショーヤでしがない行商を営んでいるマンジョーウです。今後とも良しなにお願いします」
「それでは、早速ですが今回の取引について教えてください」
「はい、では早速ですが、今回の行商での取引はあちらの馬車2台分になります。鹿の毛皮、狐の毛皮等こちらに私の希望する品を書き留めております」
「確認させていただきます」
そういって神父様はマンジョーウさんの出した羊皮紙に罹れた品目を確認していく。そして、教会に勤めるシスターを呼ぶと、いくつか指示を出し、書かれた物品を村をまわって集めてくるようにと指示を出した。
「集めた品物はこちらの馬車の前へお願いします。私の弟子たちがあらためますので」
その一部始終を見ていたアレンだったが、いくつか不審な点を覚えていた。まず、神父様が馬車の荷を全く確認していない事。そして、マンジョーウから要求された物品がとても貴重なものばかりだったこと。これから冬を越すために毛皮はとても有用なものだ。渡したからと言って村のすべての毛皮がなくなるほどではないが、明らかに多い。本当に馬車の荷と釣り合うのか不思議だった。馬車の荷を確認させてほしいと声を上げようかと思ったが、ビリケンさんにハリセンアタック付きで禁止されていたのを思い出し踏みとどまる。
しばらくして、村を回っていたシスターたちが神父様に物品を集め終わったことを知らせに来たので、マンジョーウと共に収集場所へ行くことにした。収集場所ではマンジョーウの弟子たちが毛皮を物色し振り分け、帰りの馬車へ積み込んでいる。
「いつもながらあわただしくお恥ずかしい限りです」
マンジョーウさんは、いかにもばつが悪そうな感じで話しかけてきた。
「いえ、冬を越すための品々をできる限り安くしていただくために、往復の日程を切り詰めて頂いているのですから、こちらがお礼を言わねばなりません。ありがとうございます」
積み込みを終えたことを確認すると、マンジョーウさんたちは足早に村を後にし帰っていった。
交渉が終わったので、アレンは幾つか神父様に聞いてみた。
「いつも荷を確認しないのですか?」
「ええ、冬を越すために交換した品々は非常に量が多くとても一日では確認しきれません。おそらく二日ほどはかかるでしょう。そうすると、道中の護衛を頼んでいる冒険者の方々に対する報酬もその分を上乗せする必要があります。そこでマンジョーウさんから提案があり、滞在をしない代わりに出来るだけ多くの物資をお持ちいただけることになっています。その物資と引き換えに要求の合ったものは可能な限り全て取りそろえるようにしているのです」
「村でも随分と貴重なものを要求されていましたが、毎年冬になる前は同じような要求になるのですか?」
「年によって少し違います。今年は寒くなりそうなこともあり、毛皮の要求が例年よりも多かったと思います」
「なるほど。勉強になります。神父様、できれば次回の交渉の際も同席させていただきたいのですが、お願いできますか?」
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます」
アレンは、ビリケンさんが口を出すなといった理由が分からなかった。なぜ、あんなに厳重に禁止する必要があったのか?多少疑問に思うところもあったが、そんな交渉自体をぶち壊すようなことはしない自信があったし、これじゃあ夢中訓練の成果を試せない。悶々としたまま、アレンは今晩の夢中訓練へと望む。
「お! きおったな。案の定眉間にしわ寄せて。今日の事にどんな意味があったのかさっぱりわからんけどなんかは気になっとるみたいやな」
「ビリケンさん、正直訳が分かりませんよ。僕が口を出すと何か不味いことでもあったんですか?」
「あるある、大有りや。アレンが質問の一つでもしてみい。あいつら次からけえへんで」
「????」
「ホンで?今日の感想は?」
「えーっと、交渉っていう話でしたけど、一方的に条件を突きつけられてて交換する品物の確認すらできない状況を納得させられてるのかな?と、あと、来るたびに馬車を入れ替えてっていうのがちょっと気になりました。完全に善意でやってくれているにしても、ちょっと行き過ぎなんじゃないかと思って・・・」
「うんうん!ええやろ。今回のところはこんなもんちゃうか?ほんなら種明かししたるさかいに、怒らんようによう聞くんやで!」
「あいつら、つぎにあったら問い詰めてやる」
ビリケンさんの種明かしを聞いたアレンは怒り心頭でおさまりがつかない様子だ。
「怒らんように聞けゆうたのに。まあ、しゃーないわな。長いことずっとやられっぱなしやったんやから」
「ビリケンさんは神様なんですよね?なんであんな奴らをのさばらしとくんですか?」
「ちょっと落ち着き。あんな悪徳商人でも、けえへんくなったらこの村はどうやって冬を越すんや?アレンには別のあてがあるんか?それに、神様は基本的に不干渉やで、よっぽどのことがない限り人の営みにケチはつけん。どっかの国に肩入れする訳にはいかんし、個人となったらなおさらや。」
「じゃあ、なんで僕にはこんな夢中訓練なんてことをしてるんですか?」
「そこはマリアナ海溝よりも深い訳があんねや。悪いけどそいつは教えてやれんわ」
「ビリケンさんは、今後もあいつらの好きなようにさせろと言うんですか?」
「まあ、ちょっと考えてみ!あいつらがココまで好き勝手出来るんはなんでやと思う?」
「何で好き勝手にできるか?・・・・」
もし、あいつらが来なくなったら冬の物資を持ち込んでくる行商人が居ない。代わりを探そうにもショーヤへ行き、頼み込む必要がある上に、見つかるかどうかも怪しい。それに、フヘン村の人たちは、自分たちがどれだけそんな取引をしているかわかっていないし、それを知る方法がないのだ。なぜなら、じぶんたちが渡している毛皮の市場価値を知らないし、そもそも数が分からない。これが釣り合うと商人に言われてしまえば、何も言い返せないのだ。
ショーヤには商業ギルドがあり、ギルドにて取引の為のルールが制定されている。それに照らし合わせ、ギルドに異議を申し立てれば、まともな交渉をする事も可能だが、文字が読めないのが致命的で、どんなルールの下で取引が認められているか、想像もできない。ただただ、言われた事を鵜呑みにするしかできない状態なのだ。そんな状態だからこそ、マンジョーウのような奴らに目を付けられてしまった。彼らにしてみれば家畜と大して変わらない。定期的にえさを与え、村で摂れる価値のあるものを二束三文で巻き上げていく。数も文字も分からないフヘン村の住人には一生気付くことが出来ない。彼らにとって理想的ともいえる村となっている。
「どうやら気づいたようやな」
「このまま、何もできないのでしょうか?私たちはずっと、あいつらのいいように扱われて、これからも気づくことのないままで」
「そいつは、アレン次第やな」
「僕次第?」
「せや、アレンが安心して旅立てるようになるためには、村の人たちがそういったことを勉強せなあかん。アレンにはワイが教えとるから、今回の交渉に立ち会ったときに違和感に気づけた。同じようにアレンが誰かに教えていく事によって、教えられた奴が気づき、自分たちでなんとかできるようにならんとな」
「僕が教える・・・」
「言うたやろ?アレンを英雄にしたるって。剣振り回すだけでも英雄にはなれる。ただ、それだけでなった奴は結局何も判断できひんまま、誰かの言うことを聞くしかない。そんなもん見る方によっては単なる害悪や。命令する誰かの為の英雄なんて英雄とちゃうわ」
「・・・」
「どうする?ここでやめてもええし、続けてもええ。やめるんなら異世界神?の援助をなくすだけや。今日の事も全て忘れさしたる。自分には身が重いと思うんなら、そないしたらええ。続けるんなら本格的にしごいたるわ」
「・・・・・明日一日、考えさせてください」
分かり切った2択で切ってしまいました。
まだ続きます