チョウチョとキンギョ 2
No.9
猫マスクの幼児がお花屋さんをやりたいといって、見ず知らずの狸マスクとフグマスクを「お客さん」にして遊んでいた。そこへチョウチョとキンギョがやってきたという。
名前を呼ぶのにチョウチョとキンギョがマスクで呼び合っているのに倣い、タヌキ、ネコ、サカナになった。
サカナは自分をフグと呼んだがネコに「ふぐちやう。しゃかなってゆーの!」っと教えられた。本人は教えてあげたと思って得意になって胸をそらしている。で、呼び方にこだわりがあるわけでもなく、サカナと呼ぶことになった。
その後は─────話を聞いていると、どうも互いに違う世界から来たらしいが、ここでは顔を隠し、何も聞かないことがルールだ。異世界など信じられない事だが、ここへ来る過程が非常識なので納得する─────どういう方法で来たのかを話す。
タヌキ曰く。
「七不思議百選っていうガイドブックに載ってたんだ。鍾乳洞で、道は三本に分かれるけど全部繋がってて迷わない。だけど、実は道に四本目があって別の洞窟に繋がっているって。」
鍾乳洞の最奥に大きな空間があり、そこの鍾乳石群は圧倒されるほどの数で観光名所になっているという。
四本目の道に入るには、顔を隠し、帰ってくるまで自分の名前を言ってはいけないし、相手の名前を聞いてもいけない。という変な決まりがあった。
最奥の大空洞まではマスクをしたり、帽子を深くかぶったりする人も多い。誰も信じちゃいないけど楽しんでる。タヌキも同じで楽しんでいた時につまずいて、両手を地面についたら雑草が生えていて、森の中だったという。
サカナ曰く。
「最近閉鎖された遊園地に変な噂があって、夜になると遊園地にないハズの迷路が現れるって。」
旬な噂に乗っかって、兄弟で遊園地に忍び込んで遊んでて、枯れた噴水の中に降りたらこの花畑の段差に足を下ろしていたという。先に噴水の中に降りたはずの兄弟はいなかった。
ネコ曰く。
「こうえんでね、ハトいーっぱいいたの!」
要領を得ない上に舌足らずで謎語を話すネコに、四人して根気よく話を聞いていくと、ママと一緒に公園へ行って、たくさんいたハトを捕まえようとハトの群れの中へ走っていたと。
たぶんその時こちらに迷い込んだのね。ネコのマスクはお祭りで買ってもらって、公園に行くときは被っていたらしい。
「公園に入口があったらかなりの子供がこっちにきてるんじゃないか?」
「マスクをかぶって公園に行く子供は滅多にいないと思うよ」
「ネコちゃんは、偶然こっちに来ちゃったのネ」
「目の前で人が消えたらびっくりするわよね。親は目撃してそう。」
四人共がネコの親の反応を想像して居た堪れない気持ちになった。
すぐにネコを帰してあげたいが出口を探さすところから始めないといけない。きっと時間がかかる。
チョウチョとキンギョ曰く。
「ずっと昔から言われている話で、その土地には子供だけが行ける不思議な場所へ続く道があって、そこには大きな宝石があり、手に入れると異能ちからが手に入るっていう。」
「今は店が建っててボロボロの空き店舗なんだけど、肝試しに忍び込んだの。壁に手を添えて歩いたら壁が消えてこちらに。この話自体は信じてなかったのよネ。」
内容に同じものはなく、タヌキに至っては今までに結構な人数の子が迷い込んでいそうだ。観光地って人が多いよね。
まとめると元の世界での噂はどこかへ繋がる入口があるというところまでしかない。
ネコのいた世界のことはわからないけど、きっと何かある気がする。
一番具体的なのはチョウチョとキンギョの話。しかし、すぐに帰れる道が見つかるような事もなさそうで、宝石を探すことで話はまとまった。
タヌキはここへ来てすぐに戻ろうと、周囲をうろうろしているうちにこの花畑にたどり着いた。途中、注意深く見ながらだったが変わったこともなかったと言うことから、タヌキが来た方向はなしで、別方向へ宝石を探しに行くことに決まった。
「かくえんぼ!かくえんぼしよう!」
状況がわかっていないネコだけが遊びの延長にいた。可愛らしい笑顔を見せてサカナの足にまとわりついている。
(ネコの面倒をみる意味を兼ねて)かくれんぼしつつ、周囲に宝石がないか探し、なければ徐々に移動することにした。三歳から七歳くらいの子供たちだけど、みんなは一番小さい幼児に優しかった。
かくれんぼなら、あちこち動くわけだし探しているのと変わらないだろうと。
不思議な世界へ迷い込んだっていうのが、ちょっと興味を惹かれて楽しみたい気持ちもあった。
───────────────
鬼は隠れてる子を見つけて捕まえて、鬼を交代する。
「つかまえたー!鬼交代!つぎはキンギョだよ」
「捕まっちゃたぁ。アハハ」
サカナからキンギョに鬼が移り隠れていた子たちが隠れていた場所から勢いよく走り出す。本気の走りで誰も手を抜かない真剣勝負。
ただし、ネコが鬼になった時は見えるように隠れてワザと捕まる。でないとネコが鬼のままで交代が無くなるから。
徐々にかくれんぼする場所を移動しているが、今のところ宝石は見つかっていない。
チョウチョは、息を切らしながら走りにくいスカートを翻し隠れられそうな場所を探す。ちょっと飛べば楽だけど、自分とキンギョ以外は羽を持っていないようだった。
聞いたりしないけど羽らしいものが付いていないから、羽のない人種なのだろうと判断し、こっそりと、キンギョと羽は使わないでおこうねと決めた。
あ、またやってしまった、夢中になってるわ。
鬼が交代するたびに、夢中になってたことに気付く。そしてまた、隠れるときには夢中になって、鬼交代の時に気付き・・・もう何回繰り返したかわからない。
キンギョと目があうと、少し困ったような顔をして笑う。
夢中なのは私だけじゃなかったみたい。
ちょっとほっとした。
時々、目的を思い出しているが、そこは子供。楽しくて遊び八割・宝石探し二割くらいになってしまっている。十割で遊んでいるネコは仕方ないが。
「もういいかぁい?」
『もういいよー』
隠れた子たちの声が見事にハモった。
鬼になったキンギョは耳がよくて、声が聞こえた内の一番近い方へ走り出す。
ここら辺に隠れてそうネ
ガッサガッサ、バッサバッサとワザと大きな音をたてて、茂みに手を突っ込み掻き分ける。
「きゃはっ」
小さな笑い声と一緒にザッと茂みが大きく揺れた。振り向くと、ネコが飛び出してキンギョに背を向けて走り出す。
「ネコちゃんみーっけ」
「きゃー」
ネコの足は短いけど意外と速い。木の根に躓きそうなおぼつかない走り方なのに思い切りがよくてギリギリでコケない。
もちろんキンギョの走りに敵うわけもなく、後ろからネコの両肩を捕まえようと手を伸ばした時、ゆらりとネコの背中がねじれ音も無く消えた。
あまりにも突然で、音も無く目の前で消えた。
スピードを落とし立ち止まるのに、消えた位置より少し過ぎた場所なってしまい、そこで立ち尽くした。
伸ばした両手は空に差し出したまま行き場を失い、前方を見ている瞳は目の前にいたはずのネコを探す。けれど見つけることは出来ず、驚きに停止した頭がじわじわと起こったことを理解しだす。
「あ、あ、消えた」
声に出してみると、呟くような小さな音しか出ず、すぐに消えて行く。行き場の無くなった両手は自分のシャツを掴みギュウっと握りしめて、そしてすぅっと息を吸い込んだ。
「消えたー!ネコちゃんが消えたぁ。みんな来てぇ!」
もう一度出した声は大きく、隠れている全員に聞こえる音量を出した。




