No.26
No.26
「もう少し!走れ走れ、もっと早く。行き過ぎよ戻って・・・る余裕はないわね。回り込むのよ違うそっちじゃないわ。あっ!ああ~・・・・・」
間延びした話し方をするハギが水の入ったコップに向かって何やら応援?している。ハギらしくない早口でしゃべりまくっていて珍しいと思っていたら頭を抱えてゴロゴロと転がりだした。持っていたコップは丁寧にテーブルに置く余裕は残していたのがちょっと笑えた。
「コップに話しかけて変だよ。どうしたんだよ?」
ゴロゴロと右へ左へと転がっていたハギが勢いよく起き上がり握りこぶしを作りながら訴えてきた。
「次代のハギよぅ。もう少しだったのに鬼山車にやられちゃったの。橋を渡るだけってトコまで来てたのに惜しかったわ~」
そうか、あれを見てたのか。コップをモニター替わりにしてるって器用すぎる。今度教えてもらおう。
「それは残念だったね。何人目だっけ?」
「覚えれる訳ないじゃないー。大量よ大量ぅ。」
言いつつハギは視線を砂時計に向ける。僕もつられて見るそれは二つ並んで砂を落としている。一つは砂がほとんど落ちていなくて、もう一つは砂がほとんどが下部に落ちていて上部にはほとんど砂が残っていない。
管理者になりたての頃、砂時計を手に取ってみようと思ったことがあった。けれど歩いても歩いても見えている砂時計の大きさは変わらなくて距離が縮まった気がしなくて諦めて引き返したのだった。きっと山のように巨大な砂時計のだとハギが言っていた。コップくらいの大きさの砂時計に見えているのに。だけどこの空間で距離を正確につかむことなんて不可能だって理解した瞬間だった。
「ハギの砂時計、ほとんど残ってないね。」
「僅かに見えるけど実際は大量よう。まだ数百年・・・ん~千年分くらいはあるかしらねぇ。」
砂時計は管理者の寿命の時間を刻んでいる。あまりにも遠すぎて落ちている砂が見えていないんだけど確実に減っている。だから次代のハギを迎えるために例の空間が開いた。
管理者になる資格があるのが十歳未満の子供って無理があると思う。ツギになっている僕が言うことじゃないかも知れないけど、最初のころはゲーム感覚で世界をいじって壊滅させた数はどれだけだったか。
偶然成功したのもあったけど消えて行く命が現実だと実感した時はいつだったか。
「ハギが死んでしまうのは悲しいな。」
「私も先代のツギが死んじゃった時に同じこと思ったよー。ツギが死ぬときには次代のハギが同じこというわよう。」
ふふふと笑って僕の頭を撫でるハギはどれだけ生きているのか。僕も同じだけ生きることになるんだろうな。病気ってないみたいだし。
とても寂しい気持ちになって今日は仕事は休みして妹が持ってきた本を読むことにした。
先に全部を読破したツギに一番笑える本を教えてもらってページをめくった。




