サカナとネコとタヌキ 9
No.24
大きな飛沫があがり二人が消えたのを確認し山車の方へ振り向く。面は外して子供らしくない疲れを滲ませた顔を晒した。目と鼻の先にピタリと動きをとめた山車がいる。
「人は全員いなくなった。戻れ」
・・・・・・・・・沈黙。
「っち、やっぱその場で止まっちゃうかー、ここにいたら逃げ道の意味ないじゃん」
池を見て一人愚痴る。サカナとタヌキが飛び込んだ池は時が止まったかのように水面が鏡のようになって、さっき飛び込んで飛沫をあげたのが嘘のようだった。
「出入口を変えるしかないか。はぁ、ユーナとマツリの約束を守り切れなかったなぁ、一人死んじゃったし三歳児は行方不明だし。勝手をしたからハギに怒られるかもだし。あーもう疲れたー」
実は山車の動向を把握し可能な限り避け続けていた。動きの止まった山車の位置把握は難しいため、気づけなくてサカナが怪我を負ってしまったのだけど。
こっそりと能力を使用し続けるのは体力精神力をガリガリと削られて目の下にクマが出来てしまっている。
「はぁ、帰ったら寝よう」
ペチペチと山車を叩き八つ当たりをした後、一歩離れるとすうっとその姿を消した。
─────────
「きゃはー!」
ザバァ・・・・・葉っぱが大量に落ちてきて首から下が埋まった。
「う!?」
突然の事に何が起きたか分からず動きがとまってしまったネコ。キョトンと回りとみると公園の端、花壇の真ん中に立っていた。
「??? きんぎょ、どこ?」
鬼だったキンギョが追いかけてきていたのにいなくなって首を傾げる。
「こんなところにのね、いきなりいなくなって!」
母親が泣きそうな顔をしてネコを抱き上げた。花壇の花を踏んでしまっているが、ハトを追いかけていたネコが突然姿を消したのだから冷静ではいられなかった。
「公園の外に行ったのかと心配したのよ。ネモロ?」
「かくれんぼしてたの。キンギョがおになのにかくれた」
「かくれんぼ?キンギョって子と遊んでいたのね。もう帰るからバイバイしようね」
ネコ──ネモロのいた場所の不可解さに気が付いていなかった。春の花壇にネモロが隠れるくらい大量の枯れ葉がある事に。短い時間とはいえ我が子を見失っていて、他の事に意識を向ける余裕などなかった。
「いや!たぬきもちょうちょもしゃかなもいるの。まだあそぶー」
だだをこねるネモロ。もっと新しくできた友達と楽しくかくれんぼをして遊んでいたくて、母の腕の中で暴れまくって家へ着く前に力尽きて寝てしまっていた。
─────────
「ただいまー」
「お帰り。ネコって子は自力で元の世界へ戻っていたわよぅ」
「見てたの!?すごい強運の三歳児だね」
「もう一つ、怒らないから安心していいわよぅ」
「・・・僕の独り言、聞いてたんだ」




