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継ぐ者 剥ぐ者  作者: しおこんぶ
23/26

サカナとネコとタヌキ 8

No.23








「よく乾燥してるからあっという間に燃えるだろうと思ってたけど・・・思った以上に早かった」




 一段飛ばしで駆け下りていくキツネとタヌキ。サカナは手摺に足をぶつけながら振り落とされないように腕をタヌキの胸にまわしてギュッとしがみ付く。




「ちょ、首!首絞めるな」




「んムウー(ごめん)」




 喋ると舌を噛みそうで口を閉じたまま謝る。螺旋階段を降りきったところで山車が大きな音と共に中庭へ落ちてきた。




「強引すぎでしょ。しかも着地成功しちゃってるし!」




 言わなくても見ればわかる。どうでもいい事を叫びながら中庭の中央に向かって走り、タヌキが続いて走る。




「むっむうむんむ!んんーんんむ(ちょっとめり込んでる!時間が稼げたね)」




 サカナが山車の状態を知らせる。もうちょっとめり込んでくれればいいのに。当然二人に伝わっていないわけだが気づいていない。




 さほど広くない中庭の中央に池があった。この廃墟に迷い込んでからホコリも植物も見なかったのに。見なかったからこそたっぷりの水を湛えた池が不自然に見えた。池の周囲にだけ申し訳程度だけど雑草が生えいるのが見えた。




「池に飛び込んで!あそこから帰れるから」




「むむう、んむむむんうむーぬむぬぬむ(山車がめり込みから脱出したよ!)」




 こんな近距離で山車に走られたら逃げ切れない。急いで!急いで!急いで!




「痛い痛い痛いって!分かったから頭を叩くな」




 焦る気持ちが無意識にタヌキの頭をペシペシと叩き急かしていた。ごめんあとで謝る!








 山車の動き始めは遅い。自重のせいで動きが鈍いくスピードを出すには障害物のない直線、それも距離が長ければ長いほどいい。曲がり角があると衝突して動きを止めるか、速度を出せないままのろのろと動くしかない。




 中庭は障害物らしいものはなく最悪だった。


 タヌキの足は速い。僕を下ろせば余裕で池に飛び込めるはずなのに、僕を背負った腕の力がますます強い。タヌキの心の強さに涙がでそうになる。山車への恐怖も何割かあるけど。




 先に池にたどり着いたキツネが叫ぶ。全力で走る背後で木っ端をパキパキと踏み砕く音がする。この感じだとまだスピードが出ていない。




「止まるな!そのまま飛び込め!」




「分かってるよっここで止まったらアホだろ!」




「んむんむ!」




 大きく踏み込んで、信じられない事に僕を背負ったままジャンプした。一瞬の浮遊感に離れまいとギュウっと抱きつくと、ぐえっという音とドボン!という音が同時に聞こえた。
















───────────────






 飛び込んだ池の水は真冬のそれのように冷たく、体が縮み上がり皮膚が冷たさに切れるような錯覚おこす。




「ぶは!はぁっ」




「げほっ」




 水面に顔を出し、伸ばした手が冷たく固くて滑らかな何かに触れた。目を開けると大きな岩に触れていた。背負ってくれていたけど、池に飛び込んだ時にそれも無くなって、今はしっかりとタヌキの襟を掴んでいた。




 出た場所は暗いが岩の向こう側が明るく、そのおこぼれの光から周囲を大岩に囲まれていて、上がれそうな場所がない事がわかった。地下の川?




「どこだここ?」




「廃墟じゃなさそうだね、夜かな」




 いまだ背中にしがみ付いているサカナは、水の冷たさに震えが止まらない。


一方タヌキは震える様子がみえない。人種の違いか僕が体を鍛えていないからなのか。




 明るい方へ、岩を伝いながらゆっくりと進む。僕は泳ぐことが出来ないから岩に手を添えて進んだ。タヌキもそれに付き合って同じように進む。水の冷たさに痛みをあまり感じないのが良かった。動けなかったら沈んでいただろう。




 ひと際大きな岩を越えると騒がしい音が聞こえてきた。多くの人がいる気配だ。廃墟から抜け出せたことに安堵し、服が纏わりついて動きにくのも構わずに進む速度を速めた。
















 そこはライトアップされた空洞、巨大な鍾乳洞だった。。僕たちが落ちたのは洞窟内の奥まったところで、向かい側にたくさんの人がいて、何人かは僕たちに気が付いてこちらに指を指して何か言っている。




 水から上がれそうな場所を見つけ、タヌキが這い上がろうとするけど滑って上がれない。僕は岩にしがみ付いているだけで怪我をした足で登るのは無理。




 観光地らしく、鍾乳石がよく見えるように橋が作られているが遠い。奥まったこちら側は巨大な鍾乳石と水を湛えた段々畑のような地面。




 徐々に騒がしくなっているけど、向こう側からしたら僕たちは鍾乳石の隙間から顔がのぞいているくらいにしか見えないだろうに、よく見つけてくれたなぁ。とまだ助かってもいないのにぼんやりと思う。




 体はガチガチと震え爪は紫に変わって、きっと唇も紫だろうし顔も血の気がひいて青ざめているだろう。




「サカナ、お前が先にあがれ」




 いきなり目の前に手を差し出され、思考が追い付かない僕の顔に?が浮かび上がっている。




「一人であがるの無理だ。疲れきる前にお前をあげる」




「それなら僕が押し上げるよ」




 踏ん張りの利かない足でタヌキを引っ張りあげるより、浮力がある分押し上げる方が出来そうな気がする。




「いいから上がれ」




 岩を片手で掴み、腕と肩を使って僕を押し上げてくれる。上半身が水面からでて、慌てて上がろうと腕に力をこめるがうまく力がでない。ズルズルと滑って落ちそうになるのを必死に岩に爪を立てて抵抗する。




「足も使え」




 落ちきる前にもう一度押し上げられ、無事な足をあげ何とか這い上がる事ができた。次はタヌキだ。動かない足は見ないほうがいいだろうな。止血も出来てないのに見ずん中に入ったから血が止まらないだろうし。


 タヌキに手を差し出すと首を横に振られた。




「お前じゃ俺を引っ張りあげるのは無理だろ。その血を止めてろ」




「どうやってだよ。物語とかドラマとかなら服を破って止血するところだけど、子供の力で敗れるような安物着てないし」




 覚えている会話はここまでだった。


























───────────────






 新しい車椅子を作ってもらった。


 古くてガタがきていた車椅子は消耗品以外は全て再利用して、DIYで作ってくれたとは思えないほどのクオリティーのものが出来上がった。おじさん器用だね。




「ありがとう、前のより安定感があって小回りがきいて座り心地がいい」




「そうだろう、そうだろう。いい仕上がりになったからな!」




 怪我をした足は後遺症が残って杖が無いと歩くのが辛くなる。少し移動距離があったり調子が悪いと車椅子がないと動けなくなってしまう。




 廃墟から逃げた先はタヌキ─アラフの世界だった。それぞれの世界に戻れるとキツネは言っていたけど、僕はアラフと一緒に彼の世界に来ていた。たぶん僕がしがみ付いていたのが原因だと思う。




 洞窟から助けられたと意識が無く一時危険な状態だったらしい。後からアラフに話を聞いたら、時間はほとんど過ぎていなくて、アラフの親からすれば息子が突然姿を消して、一瞬であり得ない場所にいたと。




 正直に噂の四本目の道に迷い込んで、戻ってくるまでを詳しく話したそうだけど信じてはもらえなかった。けれど僕たちが現れた場所へ行くには人目がありすぎてどうやって気づかれずにあそこまで行ったのかという疑問が浮かび上がった。


 その後、噂が爆発的に広がり洞窟は大人気。ついでに僕たちも有名人になったらしい。サカナとタヌキの偽名のほうで。




 助けられた僕は当たり前だけど身寄りがいない。住まう世界が違うんだから当然だ。もう一度、僕たちが現れた場所へ行く事は無理だったし。




「父ちゃん、飯が出来たってさー」




「おう今行く。車椅子が完成したとこだ」




「イイ感じに出来てんじゃん。アクー乗り心地はどうだ?」




「いいよ、軽いし安定してるし最高。おじさんのDIYはもうDIYの域を超えていると思うよ」




 アクーは僕──サカナの本名だ。もう偽名とか要らないしね。アラフが車椅子を押して家へ入って行く。退院したあと、アラフの両親が僕を引き取ってくれた。人種が違うせいでこの世界の人たちより非力で、足が悪いのもあって僕はか弱い人認定されている。これについて僕は否定も肯定もしていない。




 初めのころは家族や友達に一生会えない悲しさで心が埋め尽くされたけど、命が助かって幸運だと、嘆いてばかりは助けてくれた人達に申し訳ないから僕は切り替えた。不思議な世界へ迷い込んだのも、ここにいるのも必然だったのだと。僕の人生に意味のあるものだと。




 この経験をどう生かせばいいのかさっぱり分からないけど・・・・・




 来年は学校を卒業して働くのだけど、いまから家の近くで職場を探している。おじさんの影響と、僕は誰かに助けて貰わないと困る場面があるから、生活に便利な道具を作る仕事をしたいと考えているのだけど、まだ誰にも言っていない。


 お世話になっているおじさんおばさんに恩返しがしたい。まずは二人が喜んでくれるような道具を作りたい。




 今から卒業が待ち遠しくて仕方がない。









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