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継ぐ者 剥ぐ者  作者: しおこんぶ
22/26

サカナとネコとタヌキ 7

No.22








 靴に手を突っ込んで走る。両手が足になって走りにくい。ただ靴を両手に嵌めているだけなのにどうしてこんなに走りにくくなるんだろう。タヌキはペラペラの靴を履いていたからズボンのポケットに無理やり突っ込んでいる。見た目より大きなポケットらしく羨ましい。そしてキツネは詳しいだけのことはあって、靴紐同士を結んでさらに腰に括り付けている。紐がやたらと長いのはこの為だろうな。




 三人の中で一番運動が苦手だと思う僕が一番走りにくい状態!




 一直線の道を全力で走るが徐々に二人との距離が開く。とくにタヌキお前は速すぎ。案内のキツネを追い越してどこに行くつもり!?案の定行き過ぎたらしく、キツネに片方の靴を投げられ見事に頭に当たった。そのままもう片方の靴を勢いよく引いて飛ばした靴をキャッチ。


 ちょっとカッコイイ。




ゴトン




 はっ!音が反響した。たぶんこの道にでてきたんだ。後ろを振り返らずに精一杯走る。少し先でキツネが一軒の扉を開けて手招きしている。行き過ぎたタヌキもUターンして走っている。タヌキのほうが距離が離れているにも関わらずあっという間に扉をくぐっていた。




「急げ!」


「早く走れ!」




 音がゴトンゴトンからゴロゴロになり轟々という凄まじい音に変わるのはあっという間だった。後ろから迫る音とタヌキの表情が、僕のすぐ後ろに来ているだろう事が嫌でもわかってしまう。




 手を伸ばしている二人に僕も手を伸ばす。正確には靴を突き出す形になってるけど、手が届いたい瞬に腕がもげるかと思われるほどの力で引っ張られ、次いで真後ろで突風がおこった。山車が風を切って通り過ぎた瞬間だった。






 危機一髪!三人して倒れ込み真っ青になった顔を見合わせて────キツネだけは面をかぶったままだったけどきっと血の気が引いていたに違いない────スピードがえげつない。




「直線だめだ。やばいなんてもんじゃない」




「こういう道は通りたくなかったんだけどね。無事でよかった」




「う、迂回はできなかったの?」




「迂回しても直線の道があって、どこかで必ず直線の道を行かなきゃだめなんだ」




「・・・・・・まさか、まだこんな道を行かなきゃいけないのか?」




「大丈夫。あとは曲がり角の多い道ばかりだから。長い直線はないよ」




 良かった。こんな目には合わずにすみそう。




















 すーはーすーはー、呼吸を整えて助走のための距離をとって一気に駆け上がる!




タタタタタッタンタンッタッタ・・・・




「もう一歩頑張れ!」




「ぐぬぬ、とどけぇ・・・」




「手を伸ばして掴んで!」




 何とか半歩だけ足を前に出し、指先でキツネの靴を掴む。反対の手で靴をしっかりと持ち直し二人に引き上げてもらった。




「やっと登れた」




 挑戦五回目で。




「スロープが急すぎ、じゃなくてもう滑り台だよね。なんでこの道を選んだの?近道でも無理があるでしょ」




「まさか登れないとは思わないよ。運動苦手なんだね」




 一人通れるだけでの幅だから走って登り切れなくなったトコからは、両腕で壁を突っ張って足も幅いっぱいに広げれば登れるから。そう言われてもね、壁を両腕で突っ張っても自重に耐え切れず滑り落ちてしまうんだから。二階の屋上から作られた滑り台を逆走って・・・・・、それ以前になんで家の壁に滑り台が作り付けられてんの。普通は庭にあるでしょ!




「や、休みたい」




 これで何度めか。疲れては回復して、疲れてはちょっと回復して、疲れては疲れて・・・・・




「二軒先の中庭から帰れるからさ、休みは家に帰ってからにしない?」




「「え!?すぐそこ」」




「うん、二人はラッキーだったね。こんなに近い位置に迷い込んだんだから」




「・・・・みんなの場所、わかるのか?」




 それは僕も思った。聞くのが怖い感じがして聞く気になれなかった。




「まあ大体は」




「どうやって?」




 タヌキ突っ込んでいくね。




「覗いてて人がいたら迷子だなって。廃墟に人がいる=迷子」




 覗く?僕とタヌキが疑問に思ったのが分かったようで聞かなくても答えてくれた。




「通らなくてもさ、向こう側が見えてたでしょ?」




「あー、でもすごい明るかったのに、こっちにきたら明かりが弱くてスゲー暗い。こんなんで覗いて見えるのかよ」




「繋がってるのって一ヶ所だけじゃないしねー。でも心配しないで。ここの廃墟から通り抜けるとね必ず本人の住むトコにでるんだ」




「やけに詳しいね」




「たまに来てるからさ。分かってくることもあるよ」




 へー・・・でもこれ以上聞くと、聞いてはいけないとこまで聞いてしまいそう。キツネしか頼れないから一緒にいるけど、今は怖く無いけど、ちょっとキツネが怖いなぁって思ってたし。タヌキも黙っちゃったし、きっと本能がこれ以上聞くなっていってるんだろうと思う。こういう時はタヌキに倣う方がいい気がする。




 ゴゴゴーゴゴロロギー




 轟音が響き登ってきたばかりの滑り台の下を勢いよく山車が通り過ぎていった。瞬間遅れて強い風が巻き起こり、額から汗を流すサカナは気持ちよさに、ほーっと息がもれた。そんな場合じゃないんだけど。




ドガン。バキバキドガガガラララ・・・




「あはは、スピード出し過ぎて自爆してる」




 緩やかなカーブを曲がり切れずあれふにぶつかって横転、さらに倒壊して埋もれた。




「いやいやいや、ないだろ。もしもサカナがまだ下にいたらアレがあのスピードでぶつかっているって事だろ。怖い怖い、早く行こうぜ」




 そうかあれって僕を狙って走ってきてたのか。タヌキの言葉に思い至りゾッとした。汗が流れる程暑かったのに一気に体温が下がった。




ドン!ドドン!




「「「!?」」」




 突然の大きな揺れ。立っていられなくて三人共が屈みこみ周囲を見回す。こんな音と揺れをさせるのは山車以外に思いつかない。破壊の音は止まずビリビリと振動が下から伝わってきてタヌキは全身を粟立たせて叫ぶ。




「ここから離れろ!真下だ」




 僕たちの反応は早かったと思う。すぐさま赤ちゃんよろしく四つん這いで移動を始めた。だが、それよりも早く床は裂け山車の前面の左上の角部分が付き出してきた。突上げられた材木の破片と家の中を突き進む時に巻き込んだらしい椅子の残骸やテーブルクロスらしき布、木製のコップ。それらが巻き上げられ落ちていくが不思議とよく見えた。


 山車が現れたのはサカナのすぐ横。衝撃に巻き込まれ体が浮き上がり体は屋上からはみ出した。




「サカナ!」




「ぐえ!?」




 襟を掴まれ、自分の体重で首が絞まりカエルの鳴き声が美声に聞けるぐらい酷い声をだした。が、ツッコミをいれる余裕のあるヤツなどいない。すぐさま二人でサカナを引っ張り上げる。どうにか息の根を止められる前に屋上に戻ることが出来た。


、キツネは山車を。タヌキはサカナの無事を確認する。




「ゴホッゴホ」




 息を吸い込み過ぎて咳き込み、絞まった時に擦り剝けた首をさする。涙が勝手にでてきて止まらない。酷く痛むのは首と右足。涙で歪む視線を自分の右足に向けヒュッと息をのんだ。膝から下が血だらけだった。飛んできた床板が足を削いでしまっていた。怪我の部分に細く割れた木片が何本か刺さっていた。


 涙は止まり、自分の足のあまりの状態に衝撃を受けて痛みを忘れ、汗がどっと噴き出し、心臓が早鐘を打ち破裂しそうなほど痛い。




 普通、こんな大怪我をしたら痛みに悲鳴をあげてのたうち回るんだと思っていたのに、実際は違った。痛いより熱い。それに全身を流れる汗が尋常じゃないし息が上がるって苦しい。


 不思議と客観的に自分自身を見ている事に気が付いて、冷静なのか非常事態に頭ん中が誤作動を起こしているのか・・・・・訳が分からない。




「足が」




 声が出ない程驚いていたサカナの代わりに悲痛な声を出したのはタヌキだった。


 両手でパタパタとポケットを触り、手当に使えそうなものを持っていないか探す。おろおろとしながらも冷静な判断をしようと体が動くあたりさすがタヌキ。本能がよく働いている。でも止血できそうなのは何も見つからなかったんだね。




「二人とも、山車は床に挟まって動けないでいる。中庭へ行くまでの時間は稼げるよ、はやく・・・」




 山車の様子から当分動きそうに事を確かめキツネが、振り向きざま二人にかけた声は途中で途切れた。


 倒れたまま動けないでいるサカナをみて息をのむ。膝から下が血で真っ赤で木片と分かるそれをタヌキが慎重に抜いている。




「なんでっ、なんでいきなり現れたんだ!近づいてくる音が聞こえなかった!」




「きっと初めからそこに居たからだよ。山車って人がいなくなったらその場で動きが止まっちゃうんだ。逆に人が現れたら動きだす」




「なにそれ、訳分からない。だったら人を追いかけてこの廃墟以外の何処かに行ってもいいじゃない。なんで動きを止めるんだよ!?」




 青い顔をしながらも話はきっちり聞いている。詳しそうなキツネに持っていた僅かな警戒も吹っ飛んでいた。




「知らない。僕が初めてここに迷い込んだ時も廃墟だったし山車もいたし。分かっている事は下層になるほど建物はボロくて山車の数も少ないんだ。だから下層の方に迷い込んだ二人は運がいいんだよ。逃げやすい。」




「襲ってくるのに運がいいとか悪いとかねーだろ」




「最上階付近は最悪だよ、うじゃうじゃいるもん。」




「どの階層も見れるんだ。凄いね、キツネって僕たちからしたら得体が知れないよ・・・」




「少ないと言っても見えてればここがヤバいって分かってるだろ、お前勇気あるな。こっちは助かってるけどさ。よし全部抜いた。俺がサカナを背負っていくから前を行ってくれ」




「わかった、中庭まで走るよ。出来る?」




「余裕。サカナくらい背負ったまま走れるし」




 ふんっと鼻で笑って強気な発言にサカナとキツネが口角をあげて笑う。


 刺さった木片を慎重に抜き、負ぶった時に刺さった木片が中で折れたり、さらに深く刺さったりしないようにする。それが今思いつく手当だった。




 山車はというと、前進できず後退できず車輪だけが空回りして、ギュルギュルと耳を塞ぎたなるような甲高い音をさせていた。




「・・・なんかクサイ。焦げたような匂いが」




「焦げ?」




「あれでしょ、山車が火を起こしてる」




 会話は出来るものの、噴き出す汗を拭う余裕もないサカナが二人の背後を指さす。山車が嵌ったまま全力で車輪を動かし抜け出そう頑張っていた。


 建物は木造。


 擦れるときにでる嫌な音。


 うっすらと出ている煙。




「はぁ!?」




「あああっ直進しか出来ないバカだった!予想外だよ」




 サカナを素早く背負い、キツネが前を走る。


 ここに来るまでの走りより少し遅く走るキツネ。サカナを背負うタヌキを気遣っているのが分かる。




「中庭に続く階段がある。こっち」




 二軒先の屋上へ移ったら、中庭を囲む家々が螺旋状の外階段で繋がっていた。大人一人分の幅の、一段の幅のせまい階段だった。




「ここの住人は小柄だったのかよ」




 ッチっと舌打ちして出来るだけ階段の幅の中央を降りていく。




「痛っ」




「あ、すまん」




 手摺に怪我をした足が当たって思わず声を出してしまった。子供でも背負われた方の足が当たるほど狭い。


 足をタヌキの腹に巻き付かせればいいんだけど足を上手く動かせないでいた。




「気にしないで。僕の足が手摺に当たりまくっても構わないから」




「でも・・・・」




「手摺が当たって出来る怪我よりもずっと酷い怪我をしてるから」




 焦げ臭さがキツクなっているだよね。気のせいかも知れないけどパチパチと爆ぜるような音がするし。




「サカナの言うとおりだね。手摺にぶつけてもこれ以上酷くはならないよ」




「キツネ!お前なぁ」




 文句を言いおうとした続きの言葉は、再び起こった何かが落ちる大きな音にかき消された。




「「やっぱり!」」




「!?」




 タヌキだけ分からなかったようで、何?な顔をしている。




「走って!」




 背負ってくれているタヌキの肩を叩き急かす。火が起これば山車を挟んでいた周囲が焼け落ちる。そうなれば追ってくるのは当然な事で。なんで山車は石製なんだ、木製だったら一緒に燃えてくれるのに。


 挟まっているはずの方向をみれば煙と火の粉が見えた。











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