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継ぐ者 剥ぐ者  作者: しおこんぶ
2/26

結菜と茉莉 1

No.2








いま探検がはやっている。


二人のあいだで。




「おぼうし!」


「かぶった」


「おかし!」


「いれた」


「おみず!」


「いれた」


「ちず!」


「もった」


「かいちゅうでんとう」


「いれた!」


「ふえ!」


「うーん、ぼうしにひっかかった」




 帽子をかぶったままストラップ付の笛を首に掛けようとして上手くいかず帽子と笛を持ってウンウン唸っている。




「もー。ぼうしをさきにかぶってちゃムリなの!」




 先に帽子をかぶったか点呼しておいてそれはない。さすが四歳児。そして理不尽なことを言われても気付かない四歳児。二人してなんとか笛を首にかけ、帽子をかぶりなおしたら準備完了。




 探検セット(と二人がよんでいる)を詰め込んだリュックを背負う。


リュックも探検隊らしくお揃いにしたくて、母にねだって同じものを作ってもらったのだ。


テレビ番組に影響されたようで、毎日探検隊して遊んでいる。ほぼ同じ場所で同じことを繰り返しているのに飽きることを知らない。




 双子の結菜ユウナと茉莉マツリは大きな声で「行ってきます」と言いながら廊下を走って行く。母が「行ってらっしゃい」と声をかけたときには二人とも玄関の外へ飛び出してしまっていた。


 祖母が風邪をこじらせて寝込んでしまい、丁度夏休みだったこともあり、世話をする母と一緒に帰省している。


 今までにも田舎に来たことがあったのだが、二人は幼すぎて覚えていない。何もかもが初めての二人は毎日が発見の連続で楽しくて仕方がないのだ。


 田舎は宝の山!探検もしたくなるって。




 祖父母の家には門があり、二人には門のある家なんでテレビでしか見たことがない。


玄関と門の距離は15mほど。その直線上に3㎡ほどの面積にわさわさっと大きな葉っぱの雑草が生えている。ツタが伸びて絡まりあっていて土が見えない。


雑草はそれ以上まわりには伸びていなくて玄関と門までの道が左右にできている。


家の中へ入るのも、外へ出かけるのもそれを避けなくてはならない。




「今日はここをたんけんしよう!」


「おー!」




今まで雑草をよけて外へ出かけていたのに、思いつきで雑草の中を突っ切ることにした!




「ここ、ツタがいっぱい あつまってる。きをつけてー」


「このはっぱはジャンプでこえるの!」




たった3㎡が二人にとってはジャングルのよう。


しかも真っ直ぐには進まずわざと蛇行して遅々として進まない。




「イタッ」




 ユウナのつま先に何か固いものが当たった。


葉っぱに隠れていてよく見えない。葉っぱをのけて見ようとしたが、引っ張られたツタに別の葉っぱがかかってきて何かを隠してしまう。


それものけようと葉っぱをつかみ平泳ぎのように腕を大きく動かす。絡まっていたツタが一緒に大きく動く。


 やっぱり固い何かがよく見えない。二人とも小さな手で大きな葉っぱと絡まりあうツタを引っ張り、葉っぱをちぎり、やっと固い何かが見えた。




「ええー、スイカだ!」


「ざっそうの 中から スイカがでてきた~」




きゃはははははっ♪




「スイカはっけん!スイカはっけん!」




「ス!イ!カ!」




 意外なものが出てきて大興奮の二人。


 よく見たら、葉っぱで隠れていたスイカを何個かみつけた。




 雑草だと思っていたのはスイカの小さな畑だった。




 余談だが、それは昔、遊びに来ていた親戚の子供が玄関と門の直線上に土を掘りそこに食べたスイカの種を蒔いて(正確には口から吹き飛ばして遊んで)しまっていたのだ。それが芽を出してしまい、翌年にその子供が遊びに来た時に収穫できてしまった。子供に見せてやろうと芽を摘み取らずにいたもので(世話などしてやる程の事でもないから放置して)、売られているような形にならず歪んで小さいものだったが。


 玄関前では邪魔になるのでその子に一度だけ収穫させたら根から引き抜いて土をならして終わらせるつもりでいた。とろこが、引き抜いているところを子供が見て、知ってしまい泣いて泣いて泣き止んでくれなくて大人のほうが折れた。


それが始まりで今では小さな畑のようになって自宅で食べる用に育てられていた。


その子供も大人になり、畑はどうでもよくなったのだが・・・・・今に至る。








「ざっそうじゃなかった♪」


「なかった♪なかった♪」


「はったっけ♪」


「はったっけ♪」




 でたらめな歌をうたいながら門の外へ走っていく。道へ飛び出すなんて危なことなのだが、家は道の突きあたりにあり車は自宅の車しか通らない。


 お隣の家も門を出ただけでは見えなくて、ゆるく蛇行した舗装もされていない砂利道を50mほど行くと隣の家が見えてくる。


 家の前は見渡す限り畑。向かいの家はその畑の先に小さくみえる家だ。


 山にかこまれ、川が流れ、その川も下っていけば海に出る。


車を一時間ほど走らせれば海につく。自然豊かで家の中で天気のいい日に家の中で遊ぶ子供など近所にはいない。ふたりも近所の子と仲良くなって一日中遊びまわっている。




天然の滑り台────木々の間にできた距離の短い、傾斜がきつめの地面。(服どろどろ。)


魚釣り───────網で魚を捕って食べる。(川の近所の人に塩焼きかから揚げにしてもらう。)


かくれんぼ─────二メートル程に成長したヒマワリ畑。(時々、見つけられなくて泣く)


おやつ───────咲いてる花をとって蜜を吸う。(親に3花までと約束させられている。)


団子投げ──────泥団子を作って、木に投げつけ一番砕けないのを競う。




 他にもお手玉に、独楽に、メンコ・花札・ビー玉・あやとり・竹馬・紙飛行機・百人一首・おはじき。おじいちゃんおばあちゃんが子供の頃に遊んだと言って、おもちゃを出してくれて、遊び方も教えてくれてた。


 さすがモノを大事するおじいちゃんおばあちゃんだ。使いこまれていても十分遊べる状態のおもちゃばかりが押し入れから出てくる。近所の子供たちは当然それらを知っていたけど、どれも初めて知る事ばかりで双子のテンションは下がることなく上がりっぱなし。




 特に引っ付き虫という種がいつの間にか服についている事があると、仲良くなった子に教えてもらったけど、まだ双子には引っ付いていたことが無い。いつ付くかと楽しみにしていて毎日ワクワクがとまらなくなっている。虫なのに種なのが訳わかんなくて余計に双子をワクワクさせて、毎日母に服に付いていないか見てもらっている。














 家を出ると道はひとつしかなく、門を出て右にある。正面は畑。左側は木がたくさん生えていて道は無くなるのだ。祖父母の家は突き当たりに立っていてそこより先に道も家もない。


なのに、二人はその左側に興味をもった。


道がなくなるその先に行ってみる。


ユウナが指を口にあてて,




「し~。」




 誰かに見つかってしまわないように。ドキドキしながら。大きな声がでてしまわないように。誰かがいる訳もないのに、子供特有の素早さで脳内設定された『見つかってはいけないごっこ』遊びに早変わりした。


こっそりしようと頑張ると意味も無くおかしくなっててクスクス笑ってしまう。なにが出てきてもすぐに逃げられるように身構えながら。クスクスクス。




重ねて言うが誰もいないし道もない。










 道が木々の中へ消えてしまっているそこへたどり着いてみると、そこには木が生い茂る下りの斜面が足元にひろがっていた。




「たんけん、おわっちゃたね」




 つまんなそうに呟く結菜。




「うーん・・・あ!」




 返事をした茉莉が木々の先に何かを発見した。




「みて。あそこにいえがある。」




 7mほど下のほう、指をさした先に木々の隙間から屋根が見えた。黄色いクマのタオルを干している。


宝ものを発見したかのように二人の目が輝き、その急な斜面の木々の幹を足場にしながら、枝をつかみながら降りていく。


 まるでサルだ。さすが5歳児、危なっかしく幹へ枝へと足をかけ、手で支え時には目測をつけて少し下にある木へ滑り台の要領で滑っていく。もし、この双子の行動を大人がみたら絶叫するだろう。


 斜面を降りきって茂みからでると野原が広がっていた。




「!?」




 見えていた家がないのだ。斜面の上から見たとき木々の葉で視界が悪かったとはいえ確かに家があった。


舗装された道路もすこしだけど見えていたのに・・・


ぐるりと首をめぐらせてみるが舗装された道などない。


後ろをふりかえると降りてきた急斜面がある。さらに見上げるとそれは山。


 圧倒されるような深い山。




「・・・おじいちゃんちってこんな山の中だったけ?」




 茉莉が言う。


家の前は畑なのだ。山々に囲まれた土地とはいえ、こんなに山が近いわけがない。


なによりも降りてきたあたりの土が全く見えないほど茂みが深く、太陽の光が射さず真っ暗だった。














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