サカナとネコとタヌキ 2
No.17
女の子二人が、互いの事を被っているマスクのチョウチョとキンギョで呼び合っているからそれに習って、タヌキ、フグ、ネコと呼ぶ事にしようとしたらネコが怒った。
「ふぐちやう。しゃかなってゆーの!」
本人は教えてあげたと思って得意になって胸をそらしている。で、僕は別に呼び方にこだわりがあるわけでもなく、フグ改めサカナと呼ばれることになった。
お互いの状況、と言ってもどうやってここへ来てしまったかを話し合ったわけだが─────話を聞いていると、どうも互いに違う世界から来たらしい。キンギョとチョウチョの話ではここでは顔を隠し、互いの事を何も聞かないのがルールらしいし。
異世界など信じられないいけど、ここへ来る過程が非常識なので納得しようと思う。
あー、でもすでにお互いのこと話してるけど思うんだけどなぁ。突っ込むのはやめておこう。
タヌキ曰く。
「七不思議百選っていうガイドブックに載ってたんだ。鍾乳洞で、道は三本に分かれるけど全部繋がってて迷わない。だけど、実は道に四本目があって別の洞窟に繋がっているってね。」
鍾乳洞の最奥に大きな空間があり、そこの鍾乳石群は圧倒されるほどの数で観光名所になっているという。
四本目の道に入るには、顔を隠し、帰ってくるまで自分の名前を言ってはいけないし、相手の名前を聞いてもいけない。という変な決まりがあった。
最奥の大空洞まではマスクをしたり、帽子を深くかぶったりする人も多い。誰も信じちゃいないけど楽しんでる。タヌキも同じで楽しんでいた時につまずいて、両手を地面についたら雑草が生えていて、森の中だったという。
僕、曰く。
「最近閉鎖された遊園地に変な噂があって、夜になると遊園地にないハズの迷路が現れるって。」
旬な噂に乗っかって、兄弟で遊園地に忍び込んで遊んでて、枯れた噴水の中に降りたらこの花畑の段差に足を下ろしていたという。先に噴水の中に降りたはずの兄弟はいなかった。
森とは聞いていない。迷路だったら出ればもとの遊園地だったハズだ。
ネコ曰く。
「こうえんでね、ハトいーっぱいいたの!」
要領を得ない上に舌足らずで謎語を話すネコに、四人して根気よく話を聞いていくと、ママと一緒に公園へ行って、たくさんいたハトを捕まえようと群れの中へ走っていたと。
たぶんその時こちらに迷い込んだんだね。ネコのマスクはお祭りで買ってもらって、公園に行くときは被っていたらしい。
「公園に入口があったらかなりの子供がこっちにきてるんじゃないか?」
「マスクをかぶって公園に行く子供は滅多にいないと思うよ」
「ネコちゃんは、偶然こっちに来ちゃったのネ」
「目の前で人が消えたらびっくりするわよね。親は目撃してそう。」
四人共がネコの親の反応を想像して居た堪れない気持ちになった。
すぐにネコを帰してあげたいが出口を探さすところから始めないといけない。きっと時間がかかる。
最後にチョウチョとキンギョ曰く。
「ずっと昔から言われている話で、その土地には子供だけが行ける不思議な場所へ続く道があって、そこには大きな宝石があり、手に入れると不思議な力が手に入るっていう。今はその場所に店が建っててボロボロの空き店舗なんだけど、肝試しに忍び込んだの。壁に手を添えて歩いたら壁が消えてこちらに。この話自体は信じてなかったのよね。」
直前の行動で同じのは無いか。
一番やばいのはタヌキだよ。結構な人数の子が迷い込んでいそうだ。その観光地って行方不明者が多そう。問題にならなかったのかな?
言葉にはださずに心の中でツッコミを入れるだけにした。そんなことよりも、迷子脱出のヒントは宝石くらいかぁ。帰り道がわかる標識があればいいのに。
森の中で無駄な希望を思ってしまうサカナだった。
タヌキがこの花畑にたどり着くまでに通ってきた道には何も変わった事が無かったというから別の方向を探す。
宝石ってどれくらいの大きさなんだろ。『大きい宝石』って曖昧すぎ。指輪につける程度のサイズを基準にしたら『大きい』と言っても探すには厳しいよ。飾られてるとか、祀られてるとか、とにかく目立つところにあればいいんだけど。その辺に落ちてるのを探せとかだったら・・・・・うわ、ヤな事考えてしまった。
考えを振り落とすように顔をブンブンと左右にふる。
「かくえんぼ!かくえんぼしよう!」
状況がわかっていないネコだけが遊びの延長にいた。可愛らしい笑顔を見せてサカナの足にまとわりついている。
最初に会ったから懐いてくれている。頭を撫でるとえへへと嬉しそうに顔を僕の体に押し付けてくる。その仕草をみると自然と笑顔になる。
ネコ、僕の弟になったらいいのに。
(ネコの面倒をみる意味を兼ねて)かくれんぼしつつ、周囲に宝石がないか探し、なければ徐々に移動することにした。三歳から七歳くらいの子供たちだけど、みんなは一番小さい幼児に優しかった。
かくれんぼなら、あちこち動くわけだし探しているのと変わらないだろうと。
四人はかくれんぼしつつ宝石探しを続ける事にした。ネコのように遊んでいるうちに帰れるかもしれないから。
森を走り回るのにマスクが邪魔で、いつの間にか『顔を隠す』というのを忘れて、被らずに首に下げたり、ずらして被ったりして顔を晒していた。
途中で気が付いたけど、すでに遅く互いに顔を知ってしまっていたが、ネコが消えた時もネコ面は頭の上に乗せていたから問題ないだろう。
「何も起こってないし、こっちに来るときに隠すだけだったんじゃないかしら?」
じゃあ、いいか。
と気軽に結論をだしてかくれんぼが再開された。少しずつ移動しながらだが、あまり変わり映えしない。川が見つかるとか、大きな岩があるとか、そんな変化がまったくなかった。
サカナは一人静かに悶えていた。かくれんぼダメだ、本気で遊んでしまう。追いかけてきたら逃げたくなるし、鬼になったらなったで隠れてる子を探してしまうじゃないか!宝石を探すんじゃなくて隠れ場所を探してしまっている自分に、鬼を交代するときに気が付いて皆にバレないように悶えていた。
「もういいかーい」
「まぁーだだよ~」
正直にまだって言わなくてもいいと思うのにいってしまうし、声に反応してしまう。うう、でも楽しいんだよ。ちょっとやけ気味に茂みをザバッザバッと掻き分けて進んでいくと視界に女の子が飛び込んできた。
僕と目が合ったのは二人の女の子。顔も服装もそっくり同じ。驚いたけど向こうも驚いたようでピタリと動きを止めてしまっている。
声、かけた方がいいよな。この双子固まってるし。
一歩足を前に出すと、それが合図かのように双子が動き出した。
「「かくれんぼね!」」
目をキラキラと輝かせ、声をそろえて話しかけられた。元気の良さに押されてコクコクと頷く。
「やっぱりね!かくれんぼだとおもった」
「まつりもわかったよ。めいすいり」
近所に住む子たちかな?だったらここだどこか分かるし帰り方も!
よし、皆を呼ぼう。
茂みがザン!と大きく動ごき、サカナの背後から体当たり気味にタヌキが抱きついた。正確には、
「捕まえたぁ!鬼交代っ」
「わぁ!?」
「ん?」
呼ぶより先に鬼役のタヌキに捕まった。そして捕まえに来たタヌキが双子を見て目が見開く。ついでに口もぽかんと開いて。少しの間をあけ、大きく息を吸い込み
「すげー同じ顔!なにこいつら?」
ちょっと、首!首しめてるって。無意識なのかタヌキはがっしりとサカナの首に腕を巻き付けて、双子を珍しそうに見ている。
こっちに気付けって!苦しい。腕をパシパシ叩いてやっと腕を解いてくれた。
じーっとガン見する双子。無言に耐え切れずにタヌキが声をかけた。
「あー、・・・・・・一緒にかくれんぼするか?」
無言でコクリと頷けば、動きがおんなじ!!!!とゲラゲラ笑ってサカナの肩をバンバン叩いている。
いたい!痛いって!テンションの高いタヌキには近づかないって決めた。今今決めた!大きな声で森のどこかに隠れている友達を呼び戻し、双子をいれてかくれんぼを仕切りなおした。
当然だけどかくれんぼをする前に、双子に何処からきたのか聞いたがこの子たちも違う世界から来たのだった。木のトンネルをくぐったと言うから、そこをくぐれば僕たちも帰れるかも!と喜んだのだけどダメだった。来た道が分からない。目印を付けたっていうのも薄すぎて見分けが付くかつかないかで何本か印のある木を辿って行ったけどすぐに見失ってしまった。ジグザクに歩いてたようで方角も予想できいなくて諦めた。
双子ちゃんたち、目印はいいアイディアだけど、ほとんど見えない薄い目印はダメだ。双子は力いっぱい削って印をつけたと言っているけど、その本人たちも印を付けた木を見つけられなかった。
心の中でがっかりと肩を落として、かくれんぼの鬼決めのジャンケンをする僕。あいこがばかりで勝負がつかないままグーを連続で出し続けていた。
何回繰り返したかわからないくらいかくれんぼをし続けていい加減疲れた。
大きな木と茂みの間に体を滑り込ませて隠れて、足元に頭上に、木々の間と目を眇めて見つめては変わったナニかを探している。
本当は隠れ場所を探してる時もそうしたんだけど、つい隠れるのに夢中になってしまう。
僕はまだ子供だから仕方がないんだ、うん。仕方ない。掴まるか逃げ切るかで迷っているとキンギョの叫び声が聞こえた。
「消えたー!ネコちゃんが消えたぁ。みんな来てぇ!」
隠れている全員に聞こえる音量で疲れが吹っ飛ぶ叫びだった。




