チョウチョとキンギョ 5
No.12
これはなにかしら?
首を傾げてじーっと見つめてみる。
えーっと?
反対方向へ首を傾げてみるが、大人の平均身長くらいの高さがあり、チョウチョとキンギョが並んだよりも幅がある。
─────岩?
「すっごいよネ!これって宝石よネ!こんなに大きいと不気味ネ!赤色だし!」
赤?私にはオレンジに近い茶色に見えるんだけど・・・・光の加減かしら?
興奮して羽をパタパタさせているキンギョはさらにチョウチョの肩をベシベシ叩いている。
「本当に大きいネ。これってガーネットかな?」
太くねじれた蔦の・・・隙間というには語弊があるだろう大きな空間に、そこに見事にハマった巨大な宝石。ここまでは噂が本当だった。ということは異能が手に入るはず。なのだが、
どうやって?
また首を傾げてしまう。帰り方を見つけるために宝石を探していたのに。
異能ってなに?帰れるってことかしら。
宝石を前にして初めてそこに気が付いた。はしゃぐキンギョの声など耳に入らず、子供な頭脳をフル回転。だが、何もわからない。
─────困ったわ。
「だぁ!やっと着いた。お前らって羽があったのかよ。ずるいぞ」
茂みを掻き分け、開口一番にタヌキが叫んだ。あとに続いてサカナも叫ぶ。
「ぷはっ、たどり着けた!」
髪を葉っぱだらけにして茂みから顔を出した。二人とも顔や腕に小さなすり傷をいっぱい作っていて、服も所々が破けている。
「ひどいよ。ここって低い木が多くて真っ直ぐに進めなくて大変だったんだから!僕たちを抱えて飛んでほしかった」
上から見たんじゃ気付かなかったわ。二人は低木に阻まれて、迂回されられてばかりで前に進めなくて、最後にはキレてしまい、低木にジャンプして乗っかかり泳ぐように無理矢理ここまで来たという。
通りで傷だらけなわけだわ。気付かなくてごめんね。
二人とも一通り喚いて満足したのか、大きなため息を一つ吐いて座り込んでしばらく動かなかった。そのうちサカナの頭が揺れ始めて・・・・・・頬を引っ張た。むにー。
「ひゃ!?」
「寝ちゃダメよ。」─────よく伸びるわー、柔らかくて気持ちいいわ。
「うう、寝ないよ。」
「おう、寝るなよ。」
「言ってるタヌキも眠そうなの。」
「おう。」
「・・・・眠気がかなりきてるのネ。立とうか。」
「おう」
「寝てるでしょ?」
「おう」
「ふ。」
あ、キンギョが鼻で笑った。面白いおもちゃを見つけたって顔してるわ。でも待って、今はそれどころじゃないの。
「遊ばないの!サカナとタヌキも立って。帰る方法を見つけるのが先よ」
帰ったら皆と遊べなくなるけどね、寂しいけど帰りたいんだもの。
しぶしぶ立ち上がるタヌキは瞼が閉じたままになっている。サカナは走って疲れた感が出てるけど大丈夫そうだわ。
「うーん、でっかい宝石だなぁ。これってチョウチョとキンギョが言ってたやつだよね?」
「たぶんね。ここまで大きいなんて以外だったわ」
「キラキラして綺麗だな、夜空が宝石の中に閉じ込めらえれてるみたいだ。」
サカナの言葉に私、キンギョ、瞼を閉じたままのタヌキもつられて首を傾げる。なぜ、見ていないのに首を傾げたのが分かったのか、疑問はこのさい放置。
私はオレンジに近い茶色に見える。キンギョは赤。サカナは夜色に見ると。
「人によって色が違って見えるのかしら。タヌキは何色に見えてる?」
「んんー?」
閉じている瞼を頑張って開き、目の前の宝石を見上げる。と、これでもかってほど見開き驚きの表情に変わっていく。
「すげー、向こうがすげー明るい。眩しい。」
目を可能な限り細めている。
「「「明るい!??」」」
「これってユーナとマツリが言ってた木の根っこのトンネルだろ。帰れるな」
「待って、タヌキには何が見えてるの?宝石は見えていないの!?」
「何言ってんだ?蔦で出来たトンネルの向こうがすげー明るいじゃん。こっちが暗いから光って見えるだろ」
そう言って宝石に手を伸ばし、そのまま腕が宝石に飲まれて─────
「「「ちょっと待ったー!」」」
三人同時にタヌキの体を引き寄せ、勢いで後ろにひっくり返った。上に乗っかったタヌキを横へ転がして宝石へ走り寄って触れる。が、腕が宝石の中へ入る事もなくペタペタと冷たい表面に掌が触れるばかりだった。
「蔦のトンネルなんて私達には見えないわ。」
「光って何?腕が宝石ん中に消えたよネ。私には赤い宝石がみえるんだけど」
「へ?」
「えー!?光ってるって明るいの?夜色の宝石の中にキラキラしてるのは見えるけどさっ!」
「私はオレンジに近い茶色の宝石が埋まって見えているわ。」
「どこに宝石!?光ってるけど空洞だろ!」
「向こうってどこだよ、蔦に絡んだ宝石の後ろ側って、同じように蔦に絡んでるだけだし」
「触ってもタヌキみたく腕きえないの。どうやったの!?」
一斉に話だし、わちゃわちゃわちゃ・・・・・
──────────
タヌキが蔦に右手をかけ、
タヌキの左手をサカナの右手が繋ぎ、
サカナの左手をチョウチョが右手で繋ぎ、
チョウチョの左手をキンギョの右手が繋ぐ。
「みんないいな。行くぞ」
真剣な顔して振り向くタヌキ。サカナ、チョウチョ、キンギョも真剣な顔をして頷く。
わちゃわちゃが落ち着いてから、試しにサカナがタヌキの手を握ったまま反対の手で宝石に触れてみることにした。
するとタヌキの腕と同じで抵抗なく中へ腕が消えていったのだ。
─タヌキにしがみ付いていたら行けるのでは!
となり、縦一列に並んだ状態で今に至る。もし、直接タヌキと手を繋いでいないチョウチョとキンギョが置いて行かれそうになったら、タヌキとサカナを引きずり戻して繋ぎ方を変える予定でいる。
その場合、タヌキを中心にして三方にチョウチョ、キンギョ、サカナが掴まって行くという。これ蔦の中に入れるかどうか・・・・幅を見る限りは入れるんだけどちゃんと団子状態でどこまで歩けるか、なのよね。
「せーの!」
掛け声をあげて根を跨ぐタヌキ。続いてサカナ、チョウチョ、キンギョと根を跨いでいき、全員が宝石の中へ入った途端、ぐっと重力が増したように重みを感じ膝からぺたんと地面に座り込んでしまった。
「お、重っ」
咄嗟に繋いでいた手に力をいれたが遅かった。座り込んでしまったのはチョウチョだけで、サカナは耐えていてするりと繋いでいた手が離れてしまった。ハッとして前を向けばタヌキとサカナの姿が透けていく。
「だ、だめ。待って!」
立ち上がり手を伸ばしてサカナの手を握ろうとし、サカナも離してしまった手をこちらに向けて伸ばす。十分に届くというのに、二人の手は重なりそしてすり抜ける。
互いに掴もうとするが空を搔くばかりで実体が薄れてとうとう消えてしまった。
目の前には根の向こう側が見え、そこにタヌキとサカナの姿はなかった。
いつの間にか感じていた重みは消え明るい方へ抜け出ると森は無く、すり鉢状の大きな建物と言っていいのか、巨大な町一つがすり鉢状になっているようにも見える。とてもとても大きくて何階建てなのか、下を見るとく光が届かず暗くて見えない。見上げれば清々しいほどの青空がみえる。今、自分達がいるのは屋上に近いようでかなり明るい。日差しも入ってきて暑さを感じる。
「ここどこ?うちに帰れたようには見えないネ」
「・・・・・私達がいた場所でもさっきの場所でもないトコに出ちゃったみたい」
木造で造られた何階層あるのか分からない建物。とても静かで人が見当たらない。 後ろを振り向くと同じく木造の建物が見えるだけ。分かってたけど蔦も宝石もない。
あれだけ離さないようにって言い合っていたのに離してしまって、落ち込みまくっていたらキンギョが気にした様子も無く話しかけてくる。
「ねえ、あれって宝石に見えない?」
指をさすのは少し上。すり鉢状の中心を一本の柱が立っていて、周囲につながる橋がところどころに作られている。
その橋と橋の隙間から、柱の中心に森で見た宝石によく似た物が埋まっている。遠くて宝石かそうか怪しいしけど淡い緑色に見える。
「キンギョはあれが何色に見える?」
「薄い緑」
同じ色。ほっとした。また違った色に見えたりしてはぐれるのは心細い。その可能性があるだけに色違いは怖く感じる。
「行ってみようか。橋がある階へ行きたいけど、風が強いネ」
下から吹き上げる風がかなり強い。しかも橋が風を混ぜてしまって風向きが突然変わってしまっている。
飛べるとはいえ、まだ飛び方が拙い子供だ。この風が自分達の力量では満足に飛べないことを理解して溜息をこぼす。飛べればすぐになのに・・・俯いて、視界に同じものを見つける。
「あ、同じのが下にもあるわ」
淡い緑色をした物が柱の下のほうにもあった。その下の方にも点在して、たぶん暗くて見えないけど下層まであるみたい。上のほうは一つだけ。それ以上は柱の天辺でひと際大きな柱が四本、十字に架かっている。
階段はどこかしら。
橋は同じ高さから柱に一直線に架かっていて私達がいる階には橋がない。
キョロキョロと探して見るがここから見つけることが出来ず、背後にある家々────店といえるのか何かの施設か不思議な建物同士の連なりが途絶えた部分に、すり鉢状の中央空間より内部へ続く道をじっと見つめる。
「暗そうでなんかこわいネ」
「階段が柱の周囲にないんだもの。仕方ないわよね・・・・」
誰もいない、物音がしない、不気味な場所に自然と足音をさせないような歩き方になる。道を覗き込むと意外と明るく先まで見える。天辺に近いせいなのか、どこかで光を取り入れているのか暗すぎないことにホッとして進んでいく。
もしかしら、タヌキとサカナがここにいるかも知れない。すごく広いし手を離してしまったから出る位置がずれただけかも知れない。




