チョウチョとキンギョ 4
No.11
キンギョは俄然やる気を出していた。来るつもりのなかった双子が来てしまったのを知って、ルールに捉われない道がどこかにあると知ったから。
ネコの事もあるから、それはもう気合の入ったかくれんぼをしている
残念なのは双子がその場所を覚えていないってこと。目印に木に印を入れながら歩いてたって言うから期待して木々を見て回ったけど・・・・確かに印のある木はあったけど薄い。本人たちは力強く付けたんだろうけど、途中で見失ってしまった。
根気よく聞くとかなりジグザクに森を歩いていたようで歩いてきた方角がさっぱり分からなかった。
・・・幼馴染のこんなに真剣なかくれんぼは初めて見たわ。幼馴染が分かりやすい子なのは知ってたけど。
思わず遠い目をして微笑んでしまっているチョウチョだが、彼女は気づきもしない。
繰り返しかくれんぼをしていて、青空だったのが夕焼けに染まり始めていた。これでかくれんぼは終わりと、最後になった鬼はサカナだった。
「はーっはーっはー、最後に、鬼、に、なっちゃったよ。タヌキ、走るの、速すぎ、だ。」
鬼から逃げるのに、かなり走り続けたようで、汚れるのも構わずに寝ころんで、呼吸の合間に話す。鬼だったタヌキは、息は切らしているがまだまだ余裕がある。
「へへー。俺、走るの得意なんだ」
かくれんぼはこれで終わり、さて、宝石を探すぞ。というところで双子がいないのに気が付いた。
「双子ちゃーん、かくれんぼは終わりよ。おいでー」
チョウチョが呼びかけたが反応がない。
「まだ隠れてんのか?おーい、ユーナ、マツリー?」
タヌキの腹から出した声はそばにいると耳がいたくなるほどで、思わず耳をふさぐ。双子の反応がなくしんと静まり、風に揺れる葉が擦れあう音しかしない。
まさか。
「・・・・・もしかして見つけた?」
ぽつりと呟くサカナの声がやたらと大きく聞こえた。
「双子ちゃんが隠れたのってどのあたりかしら、誰か見た人は?」
「あっちの方へ行ったのは見た。サカナはどう?隠れた場所をみた?」
「ううん、見てない。キンギョが見たっていう辺りを探せば・・・」
「じゃあ、見つけたら絶対声を掛け合うこと。いいな!」
気合の入ったタヌキの指示に『うん!』とこちらも気合の入った返事をする。
気づかずに行ってしまうんじゃないか?と頭をよぎったけど言わないでおこう。出来れば一緒に遊んだ全員が、自分も含めて一人もかけることなく帰ってほしい。
そうしたらもう二度と会えないだろうけど、きっと誰もここでの事は忘れないわ。ネコちゃんは覚えておくのは難しいだろうけれど・・・・
ただ歩いていると知らずに通ってしまうかも知れないから、適当な長さの棒や、枝を折って、それらを自分の前につき出すようにしてゆっくりと歩いて探した。
見つけたら皆に知らせられるように、工夫として思いついたのがこの方法だった。
「あ」
間抜けな声に、何か見つけたのかと振り向けば、キンギョが口をあけて上を見ている。つられてチョウチョも見上げてみると実がなっていた。
木に巻き付いた蔓に実が三~四個ずつが一房になっている。その木の根元に蔓はなく、木の上の方の枝を伝って別の木へと延びていた。
よく見れば蔓は複数の木に絡まり周囲に延びている。枝の上の方に蔦が絡み、枝葉で見え隠れしている。かなり大きな蔓でどこから伸びているのか気になる。
「あの実って食べられるかなぁ。ネ?」
今にも涎が垂れそうなほど食べたそうにしている。同意を求めないでほしい。
「見たことないし食べない方がいいと思うけど、お腹壊してもいいなら止めないわよ。」
「チョウチョ冷たい!一緒にお腹壊そうよ。」
「お腹を壊すって決めてかかって私を巻き込もうとしないでよ。」
「ママなら食べるかなー」
「・・・・キンギョのママ、便秘が酷いって言ってたわね。」
「お土産に持って帰ろうっと」
羽を広げ地から足を浮かすとスイっと実の成っている枝まで飛んで行った。
便秘の薬じゃないのに、食べる─下痢─お腹すっきり─ママ喜ぶ。がキンギョの頭の中で出来てしまってママのために躊躇いなく実に手を伸ばす。
そこまでくると蔦の広がり具合がよく見えて、ここは蔓の端で、枝葉の上に蔦がひろがり、艶のある赤い実で埋め尽くさんばかりで、夕日に照らされてツヤツヤと光を反射している。
「ふわぁ」
「すごい、まるで絨毯のようね。」
チョウチョも木の上に飛んできて葉の緑を覆い隠してしまっている様に感嘆の声が漏れる。さらに上空へ飛び全体を見渡してみる。
蔦は木々を台にして円形に広がっていて、チョウチョとキンギョが通う学校の敷地がすっぽりと入ってしまうくらい広範囲に赤いテカテカとした光が見える。
「変わった何かって、コレは当てはまるわね。うん、呼ぼう」
「すごい、赤の範囲がすごい広いネ!でも齧ってみたら固いの。味もしないし、まだ熟していないみたい」
食べたのか・・・・・・・お腹壊しても知らないわよ。
実を一房とって地面へ降り立つ。
「みんなー、変わったのを見つけたわ!赤い実をつけた蔦があるの。下からだと蔦が見えにくいから私とキンギョは空から行くわ。目印に赤い実を落とながら飛ぶからついてきてね!」
皆に聞こえたようで返事が聞こえ、枝がガサガサとなる音が聞こえる。一応、目印に摘み取った赤い実を、ポトポトと落としていく。
彼らに、チョウチョとキンギョが空を飛べることは言っていないし、内緒にしていたがもうどうでもいいと思っている。日が傾き影が延び、森も暗くなってきている。帰りたいのは帰りたいが、それよりも暗い森にいるのはイヤだ。なんか怖い。
─────!
───ッ、─────!!
何か叫んでいるけど、きっと私達が飛んでるから驚いているんだろうな。
木の天辺から少し高く飛んでいるから何を言っているのか聞こえない。地上からはサカナとタヌキに行ってもらって、チョウチョとキンギョは赤い絨毯のように実の生る上をひらひらと飛んで、蔦の根があるはずの中心へ向かっていく。
中心には巨木があり、それに蔦が絡んで─────なかった。
てっきり木に蔦が絡んでいるんだと思っていたけど違った。中心に蔦が木のように太く、そしてねじれにねじれて周囲の木々よりも高くなっていて、その木々に覆いかぶさるように蔦が円形に広がっていた。
サカナとタヌキはまだ来ない。
木や茂みを避けて来なければならず、しかも中心に近くなるほど蔦が密集して地上は光が遮られかなり暗いはず。実はかなり多く落としていたから見失うことは無いはず。
空から地上は暗くてタヌキとサカナが何処にいるか見えないけど、地上から明るい空にいる私達を見つけるほうが簡単だからこのまま待っていたほうがいいわね。
「降りてみる?」
降りないでおこうと考えていたら、キンギョから反対の意見がでた。考えていたことを伝え、チョウチョは空に待機して、キンギョが先に降りて様子を見ることにした。
「じゃあ、ゆっくり降りるわネ。道があるかもだし」
「気をつけてね」
とてもゆっくりと降りていくキンギョを見送った。
蔦を改めて観察すると、蔦は複数の蔦が絡み合って一本の木のようになっていた。
あれ?でも・・・・
一度、競技大会を家族で見に行った時、その競技場の壁一面に蔦が這って、葉っぱの壁のようになっていたのを思い出した。
蔦って何かに巻き付いてないと地面を這うだけになっちゃうんじゃなかったけ?
「チョウチョ~、蔦の根元に隙間ができてて大きな石っぽいのが挟まってるワ!」
考えに集中しだしたところにキンギョの声が下から聞こえてきた。はっとして視線を真下に、次いでタヌキとサカナが来るだろう方角を見る。やはり木の上からでは葉に隠れて見えにくい。
まだ追いついていないようだけど、ちょっとだけ下に降りてまたすぐに木の上に飛べばいいわよね。
空のほうが、見つけやすいからチョウチョ自身が最後の目印になっていたのだけれど、キンギョの言葉に興味をそそられ我慢できずに降りていった。




