チョウチョとキンギョ 3
No.10
「ここ!このあたりでネコちゃんの背中が歪んでふっと消えたの」
消えたあたりで両手をバタバタさせて説明するが、ネコだけが行けて、すぐ後ろを走っていたキンギョは『向こう側』へ行く事なく素通りした。
消えたあたりを四人してうろうろと歩いてみても誰も消えたりしなかったし、おかしな何かを見つけることもできなかった。
「うーん・・・・もしかしてさ」
考え込んでたタヌキが、屈んで何個か石を拾い、ネコが消えた空間に投げ、茂みにあたりポソポソ軽い音をたてる。が、最後の一つは茂みに届かずに掻き消えた。
「「「「ここ!?」」」」
もう一度、石を拾い投げたらやっぱり消えた。
何度も歩いて確かめた場所だ。しかし、タヌキは屈んで低い位置へ投げている。
四人共が顔を見合わせて、タヌキが頷くと、恐る恐る手を伸ばす。指先が、続いて手首、肘と消えていく。腕をひくと、肘から指先まで欠けることなく現れた。
再び腕を突っ込み、さらに肩まで入れようとゆっくり体を傾けたらふわりと指先までが現れた。
「うお!?なんか押し出されたような感じがした。」
「身長?体の大きさ? 小さくて背の低いネコだけが行けたってことね。」
「私達じゃ行けないのネ。ネコちゃん戻れたのかなぁ。」
「来た時と同じなら帰れたんじゃんないかしら?」
「僕たちが通れるくらいの大きさがないと無理だよね。宝石を探すしかないか」
ネコが行ったこの場所は使えない。とりあえず移動していた方向へ探しながら進むことに決まった。だが、みんなが一歩二歩と足を前に出すのにサカナだけが動かない。
どうした?
三人共が顔を見合わせ頭上に?をたくさん飛ばして様子をみていると。
ネコが消えた空間を見つめて首を傾げたり、腕を組んで俯き口を富士山を連想させるような形にしたり。両手の指を頭の後ろで組んで上を向き口を尖らせる。
「どうしたんだ?」
ウンウンと唸るサカナの目の前で右手を振ってタヌキが聞くと、パッと前を向き考えていたことを思い切って口にした。
「あのさ、こっちに来るときって、それぞれの決まった方法で来ただろう?」
その通り。
タヌキは洞窟で、三本しかないのに、実は四本目の道があると。
サカナは最近噂になっている、閉園した遊園地に無いはずの迷路が現れる。
チョウチョとキンギョは昔からある話で、一年で一番夜が長い日と、一番夜が短い日の、月が出ている夜に不思議な場所へ続く道が開く。
「子供なのと、顔を隠くすっていう共通があるでしょ?帰るのにも決まった方法があるんじゃないかなと思ってさ。あとは宝石を見つける事?」
「「「それ!!!!」」
タイミングぴったりに全員が人差し指をサカナに向ける。人に指さししてはいけません。
が、咄嗟の行動は本人も止めることができないもので。
「すごいわ、よく気がついたわね」
「そうか、行きと同じようにルールか」
「ネコちゃんが消えた時ってどうだったかナ」
今度はキンギョがウンウンと唸り始めた。消えた時、ネコを追いかけていたのは自分だけで、その瞬間を見たのもキンギョだけ。
ウロウロと歩き、突然パタパタと走り出し、ブツブツと何か言って、今度は両手を前に出して少し屈んだ姿勢で走り出した。
消えた時の状況をさらに詳しく思い出そうとしているのね。
チョウチョ、サカナ、タヌキは同じことを考えながら、キンギョが落ち着くのを待った。挙動不審に見えなくもない動きがちょっと面白い。
結局、キンギョがだした情報は、
ネコは全力で走っていた。
きゃーって言って走った。
茂みに沿うように走った。
ネコ面は帽子をかぶるように頭に乗せていた。
─────それってかくれんぼ中にみんなしてたよね?
四人はかくれんぼしつつ宝石探しを続ける事にした。ネコのように遊んでいるうちに帰れるかもしれないから。
森を走り回るのにマスクが邪魔で、いつの間にか『顔を隠す』というのを忘れて、被らずに首に下げたり、ずらして被ったりして顔を晒していた。
途中で気が付いたけど、すでに遅く互いに顔を知ってしまっていたが、ネコが消えた時もネコ面は頭の上に乗せていたから問題ないだろう。
「何も起こってないし、こっちに来るときに隠すだけだったんじゃないかしら?」
じゃあ、いいか。
と気軽に結論をだしてかくれんぼが再開された。少しずつ移動しながらだが、あまり変わり映えしない。川が見つかるとか、大きな岩があるとか、そんな変化がまったくなかった。
隠れているとキンギョがこっちにやってきた。
「チョウチョ、宝石って空から探したほうが見つかりそうじゃない?」
どうもかくれんぼに飽きてきたらしい。早く見つけて帰りたそうにしている。
「森は明るいけど、飛んだ時、地面は木の葉に隠れてほとんど見えなかったわ。下からの方が見つけやすいと思うの」
「あー、そういえばハンカチ括ったとき、私達が最初に立ってたところが見えなかったネ」
あからさまにガッカリするキンギョの頭をよしよしと撫でる。チョウチョのほうは喉が乾いて水が欲しかった。次はワザと鬼に捕まって、休憩しようと皆に声を掛けよう。そして水を探そう。そう決めてキンギョから離れ、鬼が走っていた方へ移動していくと、鬼のタヌキの方から「おーい」と呼ばれた。
呼ばれて行ってみれば、戻れる道が見つかったわけでも、宝石があるわけでもなく、マスクを持っていない子が二人いた。
そっくりな顔、同じ身長。お揃いの帽子をかぶり、お揃いのリュックにシャツにズボンに靴。全部同じで見分けがつかない。ここまで似た双子は初めて見た。
チョウチョとキンギョの世界では翅脈を見れば違いが分かるのだけど。
この子たちは羽のない人種ね。背中を塞ぐ荷物の持ち方をするなんてありえないわ。
羽は個人差がハッキリしていて、どんなに似ている双子であろうとも羽は個性が出る。だから見分けがつかない二人が珍しすぎて凝視してしまう。キンギョも同じらしく二人を見比べまくって違いを見つけようとしている。
「お面が無いとここには入れないのに?なんで入れたんだろ??」
タヌキが首を傾げる。
「はいれない?でも木の根っこのトンネルあったよ。とおったらここにこれたの」
「ねー。川んことにあったよね。」
キンギョがもしかしてと、
「隠れ道でも、見ればそれと分かるような目印があったりして?」
思い付きで言ったけど、みんなの目がキラキラと輝く。特に双子が食いついた。
「それってひきょうのとおりみち!見つけたらざいほうが手にはいるヤツだ」
「ざいほっう!」
「ざっいっほっう!」
「ひきょうのざいほっほう!」
ピョンピョンはねながら、その場でくるくると回りながら即興で歌を歌いだす。双子のデタラメ歌と奇妙な踊りに引いてしまうが、ネコのように帰れるかも知れない。双子はチョウチョより背が低いが、この二人が通れたなら自分達も通れそうだ。期待に胸が膨らむ一方で、喉が乾いて辛くなってきた。
小躍りする双子が背負うリュックに、もしかして?
「ねえ、双子ちゃん、水か、飲み物持ってない?私すごく喉が渇いてて」
「おみず、あるよ!たんけんにみずはひっすなの!」
「分けてあげる。どうぞ」
リュックから水筒を出して蓋のフチまで水を注ぎ、溢さないようにプルプルしながらチョウチョに手渡した。加減をしらない注ぎ方に感激して、知らず知らずのうちに両手を胸の前で組んでいた。
溢さないように受け取って口をつけると、飲むというより、勝手に水がスーッと喉の奥に入っていった。よほど喉が渇いていたみたいだ。
お代わりが欲しいけど、みんなも水を貰ってるし無くなったら悪いわよね。
双子が持っている水筒は年齢に見合ったサイズでここにいる四人に分けたら残りは少ないだろう。二人が飲む分まで取ってしまっては可哀そうだ。
一息ついたところで、またかくれんぼが再開された。
「僕たちが通れそうな道を探しながらかくれんぼしよう!」
サカナが提案するとすぐさまかくれんぼが始まった。
もーいいーかーい?
まーだだよ~
まーだだよ~
もーいーかーい?
もういいよ~
まぁだだよー




