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継ぐ者 剥ぐ者  作者: しおこんぶ
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1

No,1







妹がまた遊びに来た。




「見てみて、これ!ラノベっていうの」




 物は持ってくるなと何度も言っているのに、また何か持ってきたのか。兄はそっとため息をつく。


この間は、ハロウィンだと言ってオオカミのマスクと手と尻尾を持ってきていた。


はろういんって何?って聞いたら、お化けの仮装をするのよ!っと。


何のために?って聞いてもいまいち要領を得ない説明で、単に楽しみたいだけのようだった。


 結局、無理矢理オオカミのマスクを被らされたが、僕には大きすぎて目の位置が合わなくて何も見えなかった。


順調に成長し14歳という年相応の身長の妹とは違って、兄は外見が七歳の子供のままで、なのに大人用のマスクを買ってきた妹の頭の中を心配した記憶は新しい。




 思い出して、いや~な顔をしながら妹の手元をみるが、見せている本人は早く読めと押し付けてくる。




「小説?」


僕、漢字読めないんだけど。




「うふふー、異世界転生と異世界召喚のラノベよ!あと魔法学校が舞台の物語!」




 なるほど、妹の言いたいことは分かった。これを参考にして欲しい訳だ。


また妹に振り回されそうな気が。参考にしたくないな・・・・・


兄の言うことは全く聞かないから押し切ってくるだろう、相棒にきっぱりと断って貰うのがいいな。うん、そうしよう。




「僕だけでは無理だよ。相棒がいるんだから小説の通りになんてできないよ」




 ちらちと相棒を見ると、にへっとゆるい笑顔を見せるだけで何も言わない。


やり取りを見て楽しんでいるようで・・・・止めてほしい。




「まずは読んで。話しはそれからでいいわ。絶対面白いから!」




 きらきらと瞳を輝かせて数冊のラノベという本を押し付ける。


うっ重い、しかも綺麗に重ねてないから落としそうだ。


面白いからと勧めてくれるってだけならいいけど、絶対読むだけじゃ終わらないんだよな。


 本から妹へ視線を上げると、肩までの髪を後ろで束ね、ジャージを着ている。家にいるときの定番スタイルだ。おおらかというか大雑把な性格をしていて、でも黙っていたらそれなりに美人な容姿だと思うんだけどな。




 ニコニコといい笑顔で僕を見下ろしている。




「分かった、読むから。今日はもう帰りなさい、お兄ちゃんは仕事中なんだよ」


漢字を飛ばして平仮名とカタカナだけ読むよ。




「いつも仕事中じゃない。今日はお兄ちゃんはラノベの勉強もしなきゃだから帰るけどさ」




 あっという間に読めから勉強に変わった。


どうしても参考にして欲しいらしい。これはアレだ、やってみてどうなるかを知りたいだけなんだな。


僕の仕事を知っているようで理解はしていない。子供特有の無邪気さで恐ろしい事をさらっと言ってくる。あと、言うのは簡単なんだよ。


 そっと溜息をつくが本人は全く気にしていない。むしろ僕が希望を叶えてくれると決めてかかっている。目をキラキラを輝かせているのがなによりの証拠だね。




「じゃあ、帰るわ。お仕事頑張ってね、次はお菓子の差し入れするわね。相棒さんの分も持ってくるから~」




「何も持ってくるなって。気をつけて帰れよ」




「あは、家までゼロ距離なのにどう気をつけるのよ」




 突然やって来て、すぐに帰っていく。


慣れたもので簡単に入口を開き潜り抜けると、瞬時に閉じて元通りの空間に変わる。




 次に来た時は、ラノベの感想を聞かれると思うからその時に言おう。僕は小学一年の途中までしが勉強してい無い事を。漢字はほとんど読めない事を。自分の名前は漢字で書けるけどね!
























──────────








 ここは優しい明るさに包まれた、色とりどりの大小様々な球体が全方向に浮かんでいる空間。足元に見えるのに、下という感覚は無く頭上にあっても上にあるという感覚もない。


ちゃんと立っているし歩ける。だが、不思議なことに地面など見えず影も無い。空間に距離感は無く、初めて来たときは気持ち悪くなった。


 宙に浮かぶ球体の大きささえ、小さいものは本当に小さいのか疑っている。本当は遥か遠くにあって巨大な球体なのではと。




 この空間は全ての世界と接しているが、簡単に行き来が出来るものではない。なのに、僕のミスで妹は自由に出入りが可能になってしまい、いつも自分の部屋からこちらへ来ていた。さすがに家族にも内緒にしているがいつバレるかと気が気ではない。


 そんなわけで相棒には沈黙をもって怒られ、その溜息は僕の心臓を締めあげた。今では時々妹が持ってくるお菓子が気に入って許してくれているけど・・・・・












 妹がいなくなると静かな空間に戻り寂しく感じる。本当は妹が会いに来てくれる事が嬉しいのだけど、それを表に出すことは無い。相棒に迷惑をかけているのが後ろめたいのだ。




 寂しさを間際らすように、押し付けられた本を開いて流し読みする。


全く読んでないと妹が怒るから、興味がなくても一応読む。漢字をとばして読むから暗号のようで、これを解読して話を理解できたら凄い探偵になれると思う。




 かっこいいな、暗号解読しちゃう探偵。そしたら妹に怒られずにすむのに・・・・・






 以前、妹が作った料理が僕の嫌いな魚だったので避けてたら無理やり食べさせられた事がある。


顎を掴んできて問答無用で口に押し込んでくる非道に、嫌いな物を食べさせられた事よりも、扱いが酷すぎて涙がでたのを覚えている。気のせいかもしれないが、その時、妹は意地悪な笑みを浮かべていた。




 非難したら、私はS気質なのよ!っと堂々と宣った。










「うふふ、相変わらず妹ちゃんは楽しいわねぇ。このラノベって結構面白いわよう」




 僕と同じく五歳の時の姿のままのハギは、大きなクッションに埋もれながらこちらに顔を向けて、手に持った本をヒラヒラさせている。




 彼女は僕に比べて体は細く、そのせいか手足がすらりと長く見え体重は驚くほど軽い。肩甲骨辺りから肘にかけて薄い大きな膜がありフリルのついた服を着ているように見える。今はクッションに埋もれているせいもあってシーツを被って寝てるみたいに見える。


 広げると蝙蝠の羽のように広がってハングライダーのように空を滑空することができる。一度外の世界へ行って飛ぶ姿を見せてもらったけど、日に透ける膜はとても神秘的で見惚れてしまうほど惹きつけられた。


 跳び方はモモンガだったけど。




 顔に対して大きな目は、濃紺の瞳の中に星空をとらえたようにきらきらと美しい光を宿す。


眠そうな話し方をするが、彼女からすれば僕の話し方は忙しなく聞こえるそうだ。互いに違う世界に生まれたのだから仕方がない。




 彼女が寝そべるクッションは、以前、あまりにも何もなさすぎるいからと妹が大きなクッションを三個くれた。二人しかいないのに?と首を傾げたら当然と言わんばかりに自分専用と言い切って置いていったのだ。


今では、妹がいないときはハギが背と足にクッションを使い埋もれた状態が常になっている。


埋もれると安心するらしい。




「こんなに色々と持ってきてくれて、ほんと良かったわねぇ。」




「そんなに面白いの?」




「違うわよう。助けてよかったわねって言ったの」




「あー、うん。ハギには迷惑かけちゃったけど」




「ふふ、いいのよ。妹ちゃんは私にもよくしてくれるしー。」




「そっか」




 ずっとハギには申し訳ないと思っていただけに、彼女の言葉に心が軽くなったのが分かった。とても嬉しくなってとびきりのいい笑顔になった。




「僕は仕事を始めるけど、ハギはゆっくりしてて」




 手をかざすと球体の一つが手元へ移動してくる。


球体のひとつひとつに、世界がひとつずつ入っている。








さぁ。仕事をはじめよう。








 ツギは世界を開き調整を始めた。








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