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第一章 冒険者 6

 予約投稿明日になってました。


 南門に、昨日見た顔が居た。ギルドの場所や睡蓮亭を教えてくれた若い門番だ。門の左に相方であろう年配の門番と、並んでいる。

 目線が合ったので、お礼を言ってしまおうと思い声をかける。



「昨日はありがとうございました。おかげさまで迷うことなくギルドに着きましたし、宿も確保できましたよ」



 こちらに気付くと、飲水に羽虫が入っていたのを見つけてしまったかのような表情をされた。

 ……俺、何かしたかな?

 その後は何事もなかったかのように無表情で前を向き、こちらを見ようともしない。

 まあ、門番の仕事にも色々とあるのだろう。

 ここは気にすることなく手続きを終え、俺たちは南門から巡季草の繁殖する森へと向かった。






     ◇





 森は街から一時間程歩いた場所にあった。村の側の山とは違い、かなり鬱蒼とした森だ。

 森の始まりの辺りには、何組か冒険者の姿があった。

 皆、同じ依頼を受けてやってきたのだろう。かなり大きめの麻袋を大量に用意している者、荷馬車を借りて意気込みを見せている者たちも居る。

 俺たちには、拡張袋があるので軽装で済んでいるが、本来ならあのような準備が必要なんだな。



 俺の横で、エルが早くも採取用の小さな鍬やスコップを用意し始めていた。



「当然だけど、結構な人数が居るな。これ、あたしたちの分って残ってるのか?」

「入ってみなきゃ分からないよ。けど、大繁殖なんて言ってるくらいだし、取り切れるような量でもないとは思うんだけど……」



 しまったな……もう少し情報を集めてから依頼を受ければ良かった。

 冒険者になれたことで浮かれて、少し先走り過ぎたかもしれない。

 旅に出る前はあれだけ長い間準備をしっかりして、何があっても良いようにと整えてきたのに、これでは台無しだ。



 少し不安を感じているところに、早くも帰り支度をした冒険者パーティーが通りがかった。良い成果が出たのだろう。メンバーと仲良さげに談笑している。

 丁度よいところに通りかかってくれたな。声を掛けてみよう。



「すみません、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」



 談笑を止め、おそらくリーダーであろう大柄な男性が応えてくれた。



「なんだ? 今からお前らも採取か? 俺たちはもう終わったから、ケンストに戻って早く一杯やりてぇんだけど」



 少し嫌そうな顔だが、一応は応えてくれるようだ。



「今から俺たち二人で巡季草の採取に行こうと思ってるんですけど、何か気を付けたほうが良いことってありますか?」

「……ああ? ギルドで何も調べてないのかよ?!」

「はい……実は、まだ冒険者に成り立てでどうも浮かれていたみたいで」

「かーっ! しかも新人かよ! さっきも一人で入ってくやつも見たし、どうなってやがる!」



 リーダーが大袈裟に首を振りながら、呆れた顔をする。

 すると、仲間の一人が何か思いついたかのように目配せをし、それを見てリーダーが、にやりとした笑みを浮かべる。



「そうだなぁ……ま、良い経験になるだろう………とりあえず俺は何も教えねえから、今日はそのまま採取に向かいな」



 どういうことだ?

 エルと顔を見合わせ、首を傾げる。

 


「お前たちは、依頼に行く前の段階で準備を怠った。そんな状態で依頼を達成することがどれだけ大変か勉強してこいってことだ。ま、この森じゃあ、馬鹿みたいに奥に突っ込まない限り死にはしねえよ」



 後はせいぜいカノジョに見捨てられないようにな、と言い残しリーダーたちは街の方へと去っていった。



「どうする、ハルト? あ、万が一、億が一にもあたしがハルトを見捨てるなんてことは無いから安心しろよな!」

「はは、ありがと、エル」



 エルは励ましてくれているのか、力こぶを作ってアピールをする。逞しく育ってくれて俺も嬉しいよ……逞しすぎる気もしないではないが。


「あの人の言うことは一理ある。今回は勉強するつもりで、無理のない範囲で、一度経験してみよう」



 そう、何事も最初から上手く行くはずがない。失敗を失敗と認めて受け止めて糧にしない限り、成長はありえないよな。



「決まったんだったら早く行こうぜ。こんな所でぼーっと鍬持って立ってたら、なんかあたしが可哀想なやつみたいだし」



 ウズウズと早く身体を動かしたそうに、エルが鋭い振りで鍬とスコップの二刀流を披露する。



「そうだね。けど、間違っても鍬とスコップはそんな使い方をすることないからね?」

「分かってるってーの。振ってみたら意外とバランスが良くてよ」

「だといいけど……それじゃ、俺が周囲の索敵、エルが巡季草の探索、採取って流れで」

「りょーかい」



 余程気に入ったのか、そのまま振り回しながら俺の後をついて来るエル。夜中に出会ったら間違いなく子供が泣そうだ。

 とにかく。

 警戒だけは怠らないように、周囲を探りながら進みますか。



 薄暗い森に、何も起こりませんようにと、せめてエルが傷つくことがないようにと願いながら入っていった。






     ◇






「っりゃあああ!」



 気合一閃、エルが採取用のスコップを振り降ろす。

 喉が捻れたような鳴き声を上げて、黒一色の鳥が地面へと叩き落された。三本ある脚が、ぴくぴくと痙攣している。

 だが、周囲にはまだまだ数えるのも嫌になるほどの鳥が押し寄せてきている。



「どーなってやがるッ! 確かに危険はないな! けど違うもんが危険になってるっつーのッ!!」

「俺も分からないよ! てか、こいつら、どうして……っ!」



 俺たちは襲いかかる鳥たちを迎え撃っていた。

 特にエルは、顔を真っ赤に、激しく抵抗している。


 採集を始めてすぐは、何も問題はなかった。むしろ、まさに大繁殖! といった具合にそこら中に生えている巡季草に俺もエルもほくほく顔だったくらいだ。



 異変が起きたのは、他よりも高い木が並んでいる辺りに近づいた時だった。

 それまで、どこを見ても視界に入ってきていた巡季草が一切見当たらなくなったのだ。更に、樹上からは何やらざわざわとした気配を感じた。

 そして、次の瞬間には頭上から一斉に鳥が、【三本足鳥】が襲い掛かってきたのだ。



 三本足鳥は、変わった姿をしているが、魔物ではなく大人しい気性の鳥……だと聞いていた。

 だが今、目の前の姿を見ると首を傾げるしかない。

 目を赤く血走らせ、クチバシはだらしなく半開きにさせて、執拗に襲いかかってくる。エルだけを集中的に、しかも身体には一切触れずに何故か装備だけを狙っている。



 もう一度言おう。装備だけを、だ。



「ハルト!! 目ぇ瞑れッ! こっち見んなぁ!」

「無茶言わないでよ! この状況でそんなの無理に決まってるじゃないか!」


 片腕で胸を押さえながら、エルが叫ぶ。

 今のエルの姿は、もはや装備を纏っているとは言い難かった。

 ベストはそれほど被害を受けていないのだが、中に着ている服はもはや布が張り付いているだけといったの様相で、下も太腿の半ば以上を露出している。

 非常に、非常に素晴らしいけど素直に喜べないよ!



 今また、俺の横をすり抜けた一羽が、エルの残り少ない守りを剥いでいった。

 剥ぎ取った獲物を、どこか恍惚とした表情で咥えているのが気に食わない。



「もうイヤーー!! 早く逃げようよハルト!!」

「分かってるよ! 分かってるけどこの数は……!」



 いくら身体には危害がないとはいえ、このままではエルの尊厳が失われてしまう。とはいえ、この囲まれた状況をどう打破すればいいのか……



 状況を打開する策を考えていると、前方の樹上から何かが三本足鳥の群れに投げ込まれた。薄い布で出来た中身入の袋、だろうか。



 その瞬間、今までの勢いは何処に消えたのかというほどぴたりと動きが止まり、どこか悟ったような表情を浮かべてから、群れは樹上へと飛び去っていった。



 一体なにが起こってるんだ……



 静まり返った森の中で、呆けた表情で俺たちは立ち尽くしていた。




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