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第一章 冒険者 5

 結局、隔日更新にしました。

 よろしくお願いします。


 翌朝。

 装備を整え、睡蓮亭の食堂で朝食を二人で食べているのだが、エルの機嫌が悪い。

 こちらをちらりと見ては、ため息を吐き、と何度も繰り返すのだ。



 前日は、部屋に入った瞬間に倒れ込むようにしてベッドに横になった俺を、エルが「身体を拭いて着替えるくらいしてから横になれよな!」と、俺の身体を強制的に座らせ、エル自ら俺の身体を拭き始めた。

 受付から水の溜まった盥を借りて、部屋に帰って来るまで凄まじい早さで、そこまで俺の身体を綺麗にしたいのか? と疑問に思ったくらいだ。

 その後、荒れた息でやたらと熱い視線を向けてゆっくりと俺の身体を拭くエルの姿までは覚えているのだが、それ以降は記憶にない。

 どうやら、途中で力尽き眠ってしまったようなのだ。

 決して身の危険を感じて狸寝入りしたわけではない。



 机の上に置かれた野菜の盛り合わせを、行儀悪くフォークで突きながらエルが愚痴る。



「疲れてたのは知ってたけどよー、あの雰囲気で寝るやつ居るか? これだからハルトは……」

「ごめん。エルが丁寧に身体を拭いてくれるから、安心したのかな?」

「まーた、適当にモノ言いやがって……良いけどよ……」



 俯きながらも、どこか嬉しそうな声色を含ませるエル。



 よし! 誤魔化せたな!



 嫁がチョロすぎて不安になる。村に置いてこなくて本当に良かったかもしれない。

 あのままの流れだと、確実に朝まで激しい夜戦を繰り広げることになっていたからな。

 流石に7日近くロクに眠れていない状態で臨むものではない。



 俺が甘みの強い果実水を飲み干すと、ちょうどエルも食べ終えたようだ。



「それじゃ、今日こそは冒険者ギルドで登録、だね」

「そうだな。少し予定は狂っちまったけど。だから今日は早めに起きたんだろ?」



 エルの言うとおり、窓から入り込む光はまだ淡く、周りは薄暗い。もう少しで雪が降り出す季節だ。隙間から吹き込む風も、乾いているが冷たい。

 昨日の混雑具合を考えて、まだ早い時間帯に登録を済ませてそのまま初仕事に挑もうというのが、今日の予定だ。



「そうだよ。流石にこの時間帯じゃ、まだ人も少ないだろうし」

「……なんだ? なんかすっげー嫌な予感しかしないんだけど」



 エルが妙な事を呟くがなんのことか分からない。



 俺たちは、まだ暗い大通りを冒険者ギルドへと向かった。





∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼





「で? 『人が少ないだろうし』だっけハルト?」

「…………はい」



 冒険者ギルド前。

 そこは前日よりも遥かな賑わいをみせていた。

 受付の前は長蛇の列で、依頼を受けようとする冒険者たちで溢れかえっていた。受付嬢の顔も笑顔ではあるが、どこか余裕のない張り付いたものとなっている。



 おかしい……俺の予想ではこうはならないはずが……



 この街は発展していると言えども、迷宮都市のように溢れるほどの仕事があるわけでは無いはず。こうも行列を成して必死になる理由があるはずなのだが……



 とりあえず、こうなっては仕方ない。列に並ぼう。

 二人で入口を潜り、受付の列の最後尾に並ぶ。

 入口を超えると、人の体温で暖められたのか、むわりとした熱気を感じ、エルが思わず顔をしかめていた。



「うへぇ……これが毎日続くのかよ。勘弁だぜ、あたしは」

「毎日じゃないぞ、お嬢ちゃん」

「……あん?」



 エルが思わずといった感じに呟いた言葉を、前に並んでいた中年になろうという年代の男の冒険者が拾う。



「今年の【寒の節】は特に寒くなりそうだからな。そんな時期に働きたいやつはいないってもんよ。だから、皆必死になるのさ」

「確かに今年は寒くなるみたいだけど、ここまで必死にならなくてもさー」



 腕を頭の後ろで組み、呆れたようにエルが溢す。

 違いない、と男が笑いながら続ける。



「割の良い依頼が出てるのさ。季節の変わり目によく生える【巡季草】ってやつが、今年は大量発生しててな。回復薬の材料として、高値で売れるんだ」



 一年は十二の月に分けられている。一月は三十日で【一の月】から【十二の月】まで。そのうち、十二の月から二の月の間を、寒の節と呼んでいる。

 他にも【風の節】【火の節】【陽の節】と色々あるのだが、それはさておき。

 巡季草は、そういった季節の変わり目のごく僅かな間に芽吹き、変わりきる前に枯れてしまうという変わった薬草だ。

 村に居たときも、たまに見つけては採取して、行商人に高値で売れたことを覚えている。

 希少だったはずだが、大量繁殖とは……運が良いのかそれとも悪いのか。



 男を見るとかなり軽装だ。

 もしかすると、と思い男に話しかける。



「その採取依頼って、俺たちみたいな登録したての新人でも受けることは可能なのですか?」

「お、なんだお前ら、新人か!」



 大きく頬を上げ、歯茎まで見せる笑みを浮かべて男は説明してくれた。



「巡季草の採取依頼は、冒険者登録したやつなら誰でもイケるぜ。街の西にある森なんだが、それほど危険はない。魔物も奥に入らなきゃ弱いのしか出ないしな。採取したいっていう街の人間の護衛ってのもあるが、それは少し難しいからまだ無理か。ま、お前らは運が良いぜ? 腐るほど巡季草が生えてやがるからな。稼ぎ時ってやつさ」



 男が、俺とエルの肩を叩きながら笑う。



「俺の名前は【マイケル】ってんだ。固定で組むことはなくて、基本的に一人で他所のパーティーを出たり入ったりしてる便利屋だな! なんかあったら気軽に声を掛けてくれ」



 うん……話したところ、悪い人ではないだろう。少しだけ暑苦しい感じもするが。

 仲良くなって損はないか。



「ありがとう、マイケルさん。俺はハルト、こっちはパーティーメンバーのエルだ」

「『嫁』のエルだ。よろしくな!」



 わざわざ言い直さなくてもいいじゃないか。



「はははっ、若いね〜…………お、もう俺の番が来たみたいだ。それじゃあな、ハルト、嫁のエルちゃん!」



 気づけば、もう最前列まで来ていた。

 情報も集められたし、出会いもあった。早く起きて正解だったってことだな!



「ハルト、絶対『早起きして正解だったわ〜俺の計画通りだわ〜』って思ってるだろ……」

「…………そんなことはない」



 次の方! と声が掛かったので、空いている受付へと向かおう。





∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼






 待たされた割には、登録自体はすぐに終わった。

 用意された書類に名前、性別、出身地、戦闘方法、などなどを記入して、提示された金額を払うだけだった。

 試験などもなく危険な冒険者にならせても良いのだろうか? と疑問に思ったのが顔に出たのか、受付嬢が『どの依頼を受けるかはあくまでも自己責任ですので』と、この辺では珍しい【方眼鏡】を指で弄りながら教えてくれた。

 更に、銅色の四角い金属の板を持ってきて、手渡してくれた。冒険者証明書だ。書類に書いたことが簡便に記されているだけの単純な物だ。


 冒険者には、階級が存在している。

 下から【低級冒険者】【初級冒険者】【中級冒険者】【上級冒険者】【特級冒険者】となっている。対応する証明書の色は、それぞれ銅、青銅、銀、金、ミスリルとなっている。

 当面は、この街で迷宮を探索する条件である【中級冒険者】を目指そうと思う。



 さて、と……



「初依頼ってやつだね。しっかり準備はしたし、頑張ろうね」



 登録後にその場で受け取った依頼票の写しをヒラヒラとさせながら、隣を歩くエルに話しかける。



「ま、場所も近いし、マイケルが言ってたとおり、魔物も大したやつは出ないみたいだしな」



 口いっぱいに串焼きを頬張りながら、器用にエルが応える。

 ギルドで並んでいる間に朝食を消化しきったのか、出てすぐ目の前の屋台で購入していた。



「そうだね。【巡季草の採取】依頼に出発! ってね」

「やたらと元気だな、ハルト……」




 なんだかんだで、俺も男だからな。

 冒険者になっての初依頼だ。張り切っていこう。








 

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