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第一章 冒険者 3

更新を週二回、水曜日と日曜日にします。

よろしくお願いします。

 森から飛び出してきたのは【ウルフ】と呼ばれる、狼型の魔物だ。

 全長70〜100cmと魔物にしてはそれほど大きな訳ではないが、集団で獲物を襲う習性から、行商人や村人からは恐れられている。

 今、目の前に見えているのは三匹。

 それほど多くはないのは幸いか。これならば、油断せずにかかればどうということはない。


 「正面の二匹は俺が受け持つ! エルは少し遅れている一匹を頼む!」

 「りょーかい! ボーッとしてると片付けちまうからな!」


 好戦的な笑みを浮かべるエルを背後に、横に準備していた矢筒を素早く背負い、矢を番え短弓を構える。


 「ふっ!」


 放たれた矢は、ウルフの胴体を狙ったのだが、狙いがズレて右前脚に当たる。

 甲高い獣特有の鳴き声をあげ、一匹が速度を落とす。

 足止めはさえ出来ればそれで良い。後は突出した一匹を叩く!

 短弓を捨て置き、片手長剣を抜き放ち走り出す。


 「はぁぁぁっ!」


 右上段から、左下段に抜ける袈裟切り。幾度となく繰り返してきた得意の型。

 皮を裂き、肉を斬る、生物を壊す独特の感触が手に伝わる。

 血を吹き倒れるウルフを蹴り飛ばし、次の攻撃に備える。

 視界の右に、光る何かが走ったと思えば、遅れていたウルフの眉間に投げナイフが突き刺さっていた。


 「真っ直ぐ突っ込むだけじゃ、イノシシ以下だぜ! 良い的だ、ってな!」


 エルの投擲した投げナイフだ。

 『当て感』というのだろうか、エルは投擲に感しては俺より優秀で、狩猟の際にも役立っていた。

 その腕前を、夜中、尚且つ魔物相手の初戦闘で発揮できるとは驚きだ。


 「さて……終演といこうか」


 残りが自分だけと気づいた、俺に前脚を矢で射抜かれたウルフは、不利を悟りたじろいでいる。

 さあ、立場が変わったぞ。狩られる覚悟はあったのだろうな?


 「エル!」

 「わかってら!」



 「『生活魔法:火(強火でササッと)』喰らいやがれ!」



 エルが短い詠唱を終え、突き出した右腕から激しい火柱が放出される。

 正面から受けたウルフは、断末魔の悲鳴を上げながら焼けた肉の臭いを残して息絶える。

 周りを素早く見渡し、耳を澄ませる。


 「敵影無し……肩慣らしにもならん……」


 血を払い、軽く布で拭き取り剣を収める。

 エルの方に目を向けると、白い歯を見せ、男前な笑みを浮かべていた。


 「ま、あたし達にかかればこんなものだろーぜ。ていうか、ちゃんと見たか、あたしの『生活魔法』! またちょっと火力が上がったんだよな〜」

 「見てたよ……相変わらず、意味が分からないけど」

 「んだよ。倒せりゃ文句ねーだろ?」


 『生活魔法』は、そもそもが家事や日常での便利性を向上させる為の、“ちょっとした”魔法であり、間違っても魔物を丸々一匹こんがりと焼き上げるようなものではない。

 少し人とは違う感性を持つエルが独自の理屈で鍛え上げた、もはや『個性(ユニーク)』の技術だ。


 「羨ましいとは思うね。だけど、詠唱はもう少ししっかりとしようよ」

 「んなこと言われてもなぁ……出るもんは出るんだし、良いんじゃね? それを言うならハルトも、何だよ『肩慣らしにもならん』とか、すかした顔で」

 「? 何のこと?」

 「……いや、何でもない」


 はぁ、と大きく溜息を吐くエル。


 「さ、早くウルフの死体を片付けよう。あまり放置して、他の魔物や獣に近づかれたら睡眠時間が減る一方だぞ」

 「そうだな」


 近くに穴を掘り、ウルフの死体を集めて土を被せる。

 魔物の有用な部位を剥ぎ取るのは、時間や安全性を考えて今回は見送ることにした。

 その後、初の戦闘の勝利に興奮したエルが見張りの時間にベタベタと甘えてきてあまり眠れず、俺が見張りの時間は睡魔との戦いだった。

 俺が見張りの時は人の膝を我が物顔で独占して熟睡ときた。

 

 可愛いやつだとは思うが、これが毎日続くのか……続かないよな?





∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼





 それから七日。

 散発的に魔物が襲ってくるが、どれも昼間の移動中の事で特に問題なく隣街の【ケンスト】の前まで辿り着くことが出来た。

 ケンストは、とりあえずの目標である【第五迷宮都市ン・ディラ】までの中間地点にある都市だ。

 人口は2万人程度の小規模な街だが、この大陸の首都である【王都アリシアス】や他の迷宮都市での生活で疲れた者、引退した冒険者達が暮らし、大陸の南西部の街では一番発展している。

 ここで、【冒険者ギルド】に登録し、ある程度の期間を本格的な活動の前の準備期間として充てることを予定している。


 入門待ちの列が終わりに近づいてきた。

 くぅ〜、と猫のような声を上げてエルは身体を伸ばし、俺に話しかける。


 「やーっと着いたな。早く宿屋のベッドでぐっすりと眠りたいぜ〜」

 「ああ、そうだな。それには深く、非常に、心から賛成するよ……」

 「どうした? 最近疲れてるじゃないか。悩みがあったら言えよ? 嫁に隠し事は無しだぜ?」

 「お前のせいだよ! お、ま、え、の!!」


 何いきなり叫んでいるんだ? とばかりに首を傾げるエル。

 結局、終始機嫌よく騒ぎ立てるエルに翻弄され、野営では常時張り付かれて、ろくな睡眠を取れずにここまで歩いてきたのだ。

 甘えてくる時はとことん可愛いエルに流され、強く言えなかった俺にも否はあるだろうが、疲れは限界に達していた。


 俺の嫁が可愛すぎて辛い……


 「そこのお二人さん、街に入るのなら早くしてくれないか? 後ろも詰まっているし、あまり目の前でイチャイチャとされちゃ目に毒だってんだ…………チッ」


 気づけば、列の先頭に着いていたようだ。

 ガッチリとした、よく鍛えられていることが鎧の上からでも分かる、茶髪の若い門番が、こちらに心底不愉快だと言わんばかりに目をやり声をかけてくる。


 「ああ、すまない。エルが少し騒がしかったな」

 「あたしのせいかよハルト!」

 「チッ……末永く爆発しろ……入門は一人1000neニーだ。銀貨1枚だな。さっさとしてくれ」


 腕を組み、肘の辺りを指で忙しなく叩きながら門番が言う。


 「わかった。彼女の分も払うよ」


 拡張袋から銀貨を2枚取り出し、門番へ支払う。

 10neが銅貨1枚。以降100枚毎に銀貨、金貨、白金貨となる。

 村では行商人にしか使う機会が無かったが、旅に出る少し前に青年商人にまとまった額を狩猟や採取で得た物と交換しておいたのだ。


 「ケッ……ここは俺が払うよ、ってか? 男前だなぁおい。後は軽く面談するから、門の横に併設されてる小屋に行くんだな」

 「……おい、ハルト。こいつなんか感じ悪くないか?」


 俺の脇を肘で小突きながら、エルが門番に聞こえないように聞いてくる。


 「気にするなって……ありがとう、しばらくこの街に滞在するから、また会うときもよろしくな」

 「ハッ……よろしくするのはそっちの彼女とだけにしてな」


 顎をしゃくり、鼻で笑う門番。


 「見たところ、お前らは冒険者だろ? 冒険者ギルドならこの南門から入って大通りをしばらく真っ直ぐ進んで右側だ。デカイ剣と魔物の看板が目印だから、イチャつきながら歩いててもすぐ分かるだろ。あと、宿屋はギルドから路地二本ほど北に進んだところを右に入った【睡蓮亭】がオススメだ。名物の『【三本足鳥】の丸焼き』はボリュームもあるし、安い。尚且つ防犯もしっかりとしている。あんまり治安の悪い所で泊まって、夜によろしくやってる時に襲われるのはイヤだろーからな」


 一息でここまで言い切ると、門番は、後は何も言うことはないとばかりに、手を往復して払い小屋へと促した。


 エルが口を開き、呆気に取られた顔をしている。

 癖が強い門番だが、悪い奴ではなさそうだな。


 俺はなかなか元に戻らないエルの手を引き、小屋へと向かった。





リア充はバクハツシサン、インガオホー!


慈悲はない

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