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第一章 冒険者 11


 「ちゃうちゃう! せっかく付与魔法覚えとるのに、そんなん勿体無いで。魔力の無駄遣いや」



 リリーテルが指を振りながら、俺に駄目出しをしてくる。



 「もっと薄くて良いし、ぐにゃぐにゃしてるわ。淀みなく、素早く、全体に巡らせるのが大事やで」

 「くっ……なかなか難しいよこれ……」



 あれから十日ほど経った午後。中庭でリリーテルに付与魔法について教わっていた。本人は魔法を使えないのだが、獣拳術は身体魔力を使って動きを補助するらしく、付与魔法と似た感覚なのでコツを教えることが出来るそうだ。

 武器を使っての動きは、あまり教えることができないらしい。

 リリーテルは「この拳があれば十分や!」とか言うくらいだからな。その割には弓も普通に使うのだから分からないやつだ。



 苦戦する俺の横では、エルがジリジリと地面に置かれた二本の木剣間を往復していた。自然体で肩幅で立っているだけに見えるが、よく見ると動いている。

 エルも思ったようにいかないのか、焦れたようにリリーテルに声を掛ける。



 「なぁ、これいつまでやればいいんだよ……」

 「ん〜、もっとはよ動けへん?」

 「無茶言うなよ! 地面を蹴らずに移動するとか、どうやれってんだ!」

 「蹴るなとは言っとらんよ。それを周りに悟らせるなってだけやで」



 見本やで〜、と左右に素早く動いてみせるリリーテルだが、なんというかその……凄く気持ち悪い。

 身体をぶれさせることなく地面の上を滑るように移動するのだ。近くで見ていても、いつ動いたのか分からない。

 リリーテルが何人もいるように錯覚してしまいそうだ。



 「ああああ! 本当にむかつく! あんたに出来てあたしに出来ないわけないんだ! やってやるよ!」

 「頑張りや〜」



 声を張り上げ威勢よく啖呵を切るエルだが、動きはジリジリとしたままだ。面白いけど、笑うとエル怒るだろうな。



 と、集中集中。

 目を瞑り、自分の身体に意識を向け詠唱する。



 「……【付与魔法:自己】」



 身体の中で、河の流れのように魔力が波打つのを感じる。だが、一向に静まる気配はない。

 リリーテルの言うように、淀みなく薄く静かになどまだまだ無理だろうな。俺もまだまだってことか。



 もう少し具体的に魔力の流れが分かればなぁ。例えば、直接見れたりしたら捗るんだけど…………ん?



 「なぁ、リリーテル」

 「どないしたん? ついにウチに告白するんか?」

 「しないよ。いや、リリーテルはさっき俺の魔力が『ぐにゃぐにゃしてる』って言ってたけど、どうして分かるんだ?」



 通常、純粋な魔力は人の目では見る事ができない。人の身体や、特別な道具を介して魔法として発動させなければ分からないはずだ。

 そんなことが出来たら、大陸の北の果てにある【研究都市ガーデミア】の研究者が黙っちゃいないだろうし。



 リリーテルが頬に手を当て、思案する。



 「ん〜、適当や」

 「……そうなんだ」



 こいつに何を期待していたのかと少し前の俺が情けなくなってくる。



 「まあ、なんとなくでも分かるのは分かるねん。信用してぇや。今までも外したことないで!」

 「そんなふわふわとした理屈で教えられるこっちの身にもなれよな」

 「大丈夫! ウチの指導はバッチリやで!」



 リリーテルが髪をかきあげ、得意げな顔で拳を突き出し宣言する。

 知識は確かにすごいとは思うし教え方も分かりやすいけど、実技になると、途端に分かりづらくなるな。

 感性で生きてるって感じがひしひしと伝わってくる。意外とエルと相性が良いかもしれない。



 「おい! いつまでハルトとくっついてんだよ! あたしの方もちゃんと見てくれよ!」

 「ん〜、まだまだ。もっとすーっとしてさっさって感じや」

 「そんなんで分かるかってんだ! ちくしょー!」



 未だに、俺とリリーテルの距離が近いとヤキモチをやくエル。

 ていうか、リリーテルの教え方が俺のときより酷い。ワザとか?

 でも、さっきよりかは動きが良くなるエルもエルだな。あれで理解できてるのがすごい。



 「ほら、ハルトもぼーっとしとらんで、はよ練習しぃや!」

 「わかってるよ」



 リリーテルは、俺たちと一緒に行動しだしてからは終始笑顔だ。よほど人との関わりに飢えていたのだろう。

 本人は人見知りなんて言っていたけど、本当かどうか怪しいくらいに笑顔だ……変なこと言わなきゃほんと美人だな、こいつ。



 考えを切り上げ、俺は自分の鍛錬に集中しだした。






     ◇






 

 リリーテルに指導してもらい始めて一月が経った。

 リリーテルが言うところの『お勉強』は、とりあえずのところ二人共合格をもらうことができた……宿屋で泣きついてきたエルの補習に付き合ったかいがあったよ。

 せっかく指導してくれる立場の人間がいるのに、何故俺に? と尋ねたけれど、エルは「あいつに情けないとこ見せるなんて、負けたみたいじゃねーか!」と言って聞かなかった。どうやらエルの中では最初の模擬戦は無かったことになっているらしい。



 鍛錬の方にも、成果があった。



 俺は付与魔法の扱いにやっと慣れてきたし、エルはあの妙な動き(リリーテルは【地走り】と呼んでいた)を短時間なら出来るようになった。

 とは言え、リリーテルからしたら俺たちはまだまだらしい。こちらは一応の合格、とのことだ。



 付与魔法のスキル欄にも変化があったのになぁ……



 確かに、俺は他の付与魔法を使うやつらと違って、【付与魔法:他者】を使えない。けれど、自分に使うのなら十分だと思うけど。



 そうしたこともあって、今日はあれから受けていなかった依頼を三人で受けてみようということで、いつものギルドの食堂カウンター席で三人集まっている。

 俺とエルは宿屋で朝食を取ってきたので果実水を、リリーテルは山盛りの肉とパン、スープにサラダ。朝から何考えてんだこいつ。



 「ん〜、二人共何か食べへんの? 冒険者は身体が資本やで?」

 「俺たちは宿屋で食べてきたからね。遠慮しとくよ。それに……蓄えもそろそろ厳しいからね」

 「あぁ、せやったな。そういえばそんなん言っとったなぁ」



 一月働かずに勉強と訓練だけしかしてなかったからね。



 エルが呆れた顔で、肉の固まりを頬張るリリーテルを見て呟く。


 

 「そうでなくてもそんなに食わねぇよ……太るぞ」

 「え〜、ウチ、いくら食べても太らへんしぃ?」

 「……ぶくぶくと膨れたもんつけてるじゃねーか……」

 「ごめんなぁ、エルちゃん。あげれるんやったらあげたいんやけどなぁ」



 リリーテルが、ローブの上からでもはっきりと分かる二つの山に手を当てにやにやとエルに見せつけるようにする。



 無駄な肉だ素晴らしい。



 「大丈夫だよ。エルは今のままで十分に綺麗だよ。ほら、そんなことより、依頼だよ依頼」

 「そ、そうだな。最近寒いから身体を動かす依頼がいいな!」

 「……か〜っ、ここだけアツいわぁ…………せやな。今日はあの森に行こか。もう巡季草はないやろけど、手頃な採取の依頼やったらあるやろ。三本足鳥に借りを返すええ機会ちゃう? あれの肉は美味いからなぁ、常時依頼があったはずやで」



 眉根を寄せ、嫌なものを見たといった顔でリリーテルが提案する。

 そんな顔をするくらいなら、エルを煽るな。宥めるのは俺だぞ。



 「お! お前にしちゃ良い案じゃねーか。あの鳥野郎、待ってやがれよ!」



 拳を手のひらに打ち付け、エルが好戦的な笑みを浮かべる。



 俺もあの時の借りはしっかり返さないとって思ってたんだ。ちょうどいい。



 「俺も賛成かな。それじゃ、三本足鳥には肉になってもらいますか!」

 「お、やる気やん。ウチはまたエルちゃんの恥ずかしい姿に期待しとるでぇ?」

 「なんねーよ!」



 ほんと仲良いな二人共。



 俺は、乾いた笑いをあげながら、依頼を受けるために受付の列に加わることにした。




 ハルト 男 21才


生命力160↑

魔力70↑

力4

守3

素早さ5

運7


スキル 【付与魔法】4 ↑




エリューシカ 女 21才

生命力100 ↑

魔力140 ↑

力3

守3

素早さ8 ↑

運1


スキル 【隠遁】1 new

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