そして僕は胃薬を追加する
人一人が腕を伸ばして突っ伏せる程度の横幅と腕を伸ばすことのできる縦幅。要するにまあまあ大きな机だ。
広くも狭くもないそのスペースに、民間で親しまれている本─子供への読み聞かせから大人が読む本まで、様々な世代に向け作られたおとぎ話─の写しが乱雑に置かれる。
この中から三作品を選び、感想・論評をレポート用紙に綴り提出する。というのが学院から出された課題。
他の課題は片付けたが、積まれた本のページをめくる気力はまあない。明日提出など知らない。
薄い本なら良かったのだがまあ厚い。読む気が失せる。厚い本が何冊も並んでいるのを見ると胃の辺りがキリキリしてくる。
やめろ。今吐いたら吐瀉物が本にかかってしまう。
変人教授たちに土下座するのも嫌だしなじられるのもごめんだ。
しかし本を開けばそれこそ吐いてしまう自信がある。
今の体調では文字酔いしてしまう。
腱鞘炎が悪化する。地味に続いている痛みがこれ以上酷くなってたまるか。
「──現実逃避したい」
ため息すら出ない。無理だ。疲れ過ぎた。
一度寝て回復をはかろう。
机に頬を押し付けて目を閉じて……
ああ、オルゴールの音色が心地いい。
変人教授から贈られた当初は色々気持ち悪かったが、この旋律自体は酷く綺麗で心に染みる。いい眠りが得られそうだ。
「キース!!ねえ、いる!?」
……なんでのこのタイミングで来るんだよ。
ほんとよく通る声だな。お願いだから寝かせてくれよ。
ドアノブをそんなに激しく回すんじゃない。僕の家のドアは頑丈じゃ……ああ、なんかカチャって音がした。壊されなかったのはいいが鍵開けしやがった。幼馴染みの家だからって遠慮しなさすぎだろう。
あいつと顔を突き合わせるとロクなことがない。
盗賊稼業に狩り出される前に寝たフリを決め込もう……
「キース。口に出てるわよ。バレバレ」
「……どこから」
「なんでこのタイミングで来るんだよ。から」
うわ。今とんでもなく頬が引き攣っている気がする。
セフィーのことだろうからニヤニヤしてそう。顔見たらムカつく自信しかないから目を逸らそう。
やめろ顔を覗き込もうとするな。
「課題は終わった?」
セフィーの一言で胃が一層悲鳴をあげた。