はじめのおわり
無残に崩れ落ちた空。辛うじて残った真っ黒な空の欠片の隅に、夕陽のごとく真っ赤に燃え上がる月。
星はみな、闇の中へと身を潜め、一切光が射さぬ湖底へと溺れていった。
水面には、ひとりの少女が横たわる。
世界をあるべき姿へ戻そうと、孤独に歌い願いを捧げ、願いが叶った直後力尽き事切れてしまった。
彼女の最期に間に合わなかった者が、動かなくなった少女を抱えてわんわんと泣いていた。
「ねえ、アサお願い。目を覚まして」
少女の髪と全く同じ色の髪の少年が、嗚咽混じりに嘆き、少女の体を何度も揺さぶる。
当然のごとく、少女は目覚めないまま。
二人の近くにもう一つ波紋が広がる。彼らより頭の高い青年がじっと二人を見下ろし問うた。
「──アサは?」
青年は酷く緊張した様子で恐る恐る少年に問う。少年は虚ろげな表情で青年を見上げ、ぐちゃぐちゃな笑顔で答える。
「──死んじゃった」
「……なんだよ、それ」
ポロポロと涙を零し俯く少年。青年は彼の腕の中の少女をみやる。青年が少女の体に触れようと手を伸ばしたのとほぼ同時に、少女の体は蛍光と化しゆるり空へと浮かび出す。
少年が「いかないで」と悲痛な声をあげるもそれらはどんどんはるか空へと遠ざかる。青年は呆然と空を仰ぎながら途切れ途切れに呟いた。
「──傍にいるって誓ったのに」
ざぁぁと強い風が吹く。
風は光を攫って、湖面を撫でて森を駆け抜ける。
青年の声は木々のざわめきに呑まれて、彼自身の耳にすら届かなかった。