『私』視点
※8/28 ご指摘のあった表現の一部分を訂正しています。内容に変更などは一切ありません。この場を借りて、ご指摘していただいた方にお礼を申し上げます。
小説を読もうを発見、閲覧し、無謀にも自分も投稿しちゃえーな初投稿作品です
ある程度読み漁った後なので、俗にいう『被っちゃヤーヨ?』的なモノはないと思ってはいます・・・
初めてなので、呼称なし・・・なんかごめんなさい的な文章ですが読んでいただけると嬉しいです
気付いたら知らない場所にいた
今まで『私』が存在していた場所とは明らかに違う何処かに
人間、キャパを超えた驚愕と恐怖を体験した場合、取り乱す訳でも泣きわめく訳でもなく、ただ茫然と立ち尽くすしかできないのか?と、ぼんやりとした頭で考えたりしていた
一体、どれだけの間そうしていたのだろうか?
ふと周囲を見渡せば、あんなに明るかった空が茜色に染まり
そして、少し離れたその場所で、私を心配そうに見つめる複数の目があったのだ
知らない場所・・・もう『世界』で、初めに目にした『人』は、私の知るアメリカ大陸やヨーロッパ大陸に似た色彩を纏っていると同時に・・・
私の世界では絶対にありえない『色彩を纏う』と同時に私の世界においては『空想上の生物』をも連れていた
言葉は通じるのだろうか?
『この世界』の『異分子』たる自分は、同じ『人』として認めてもらえるのだろうか?
元の世界では愛読していた、異世界ファンタジー
それがこの身に起こることで、本の主人公達は鋼の精神を持っていたのだなと見当違いの事を思ったりと現実逃避をしていたのだが
このままでは埒が明かないと判断したのだろう、ゆっくりと私に向かって足を踏み出す気配を感じた
驚いて顔を上げると同時に、瞬間的に沸き上がった恐怖にようやく私の声帯と表情筋が最悪の方向で働いてくれた
つまり・・・顔面蒼白の上に「ヒッ」と誰が聞いても恐怖しか感じていないであろう叫びをあげてしまったのだ
その瞬間、足を踏み出した人が驚いたように立ち止まり・・・そして、おもむろに私からかなり離れた場所に片膝をついて座った
容姿は極上、身に纏う服もまたさりげなくだが確実に贅をつくした物、そう・・・まるでおとぎ話の騎士や王子様のような『男』が『ただの一般庶民の女』に
そしてその人が座り込んだ瞬間、他の人達もまた同じように座り込んだ瞬間は本当に驚いた
ファーストアクションの恐怖満載に引き続きのセカンドアクションが唖然と「へ?」という間抜けにも程がある私は、あきらかにヒロインポジションではなくモブポジションだ
なんだかもう色々本当ごめんなさい。と一体誰に言っていいのかすら、果たして今このセリフって私が言うべきことなの?などとグルグル思考だけが無駄に回転する
そんな私のナチュラルな混乱具合を知るはずもなく、最初に座り込んだ人が口を開いた
「怯えないでください、異界の乙女。我らは決して貴女様を害する事などございません。神より遣わされた尊い御身・・・どうか、私に貴女様に触れ護ることをお許しいただけませんか?」
「・・・・・・・え・・・・?」
言葉が通じた!と言う歓喜よりも、目の前の人の言葉に唖然とした
彼は・・・彼らは私が『異世界人』と言うことを知っているのだ
神より遣わされた?そんなはずは無い。私は普通のOLなのだから
尊い御身?元の世界ではありふれた一般人、何をどう好意的に解釈しても、そんな事はありえない
人違いなのだ確実に、だから必死で否定した
人違いなのだと、別人なのだと
それでも彼等はそれを認めようとはしなかった、だからこそ・・・私は恐怖したのだ
保護・・・それは正直ありがたい
けれども、『神』から『遣わされた』『尊い御身』である事が大前提だと言うことで
保護され、安全を確保され・・・警戒を不安をようやく解消できたその瞬間に、人違いだとわかった時は?
保護の全てをはく奪されたら?
自分が、帰還方法や・・・最悪この地で生きていかねばならない場合、最低限の常識や理を理解する前に放り出されたら?
元の世界では一般的な能力と常識を持つ私でも、この世界では赤子同然で
身一つで放逐される恐怖はあるにしても、拠り所を見つけてしまった後の放逐はきっと耐えられるはずがなくて
自分勝手な、相手の事を何一つ考えてない思考回路なのは嫌でも自覚してる
けれども、今の私に他者を思いやるような余裕はない、なんの覚悟も使命も説明もなく全てから切り離された私にできる精一杯の抵抗は『全てを恐怖し拒絶する事』だったのだから
結局、恐慌状態だった私の意識を無理矢理落とし彼らは私を連れ帰った
意識を取り戻し、そこで受けた説明に、ようやく私は納得し・・・そして突然の別離を受け入れるしか道がないのだと知った
この世界には一定周期で『異界の乙女』という異世界人が降り立つ
その『異界の乙女』が降り立つのは、世界が疲弊しきった時
神がどういった基準で選ぶのかは不明だが・・・神から選ばれた『異界の乙女』が世界を渡る力で、そして存在する事で世界を癒すと
「もう・・・二度と帰れない・・・家族に、友人に・・・大切な人達に会えない・・・」
口にする事で、私のその表情を見て申し訳なさそうに頭を下げる人達を見ることでコレが現実なのだと理解する
「わかり・・・ました・・・けど、お願いです・・・お願いですから・・・ほんの少しで良いから、一人にしてください・・・お願い・・・」
思いっきり泣けば気持ちを切り替えるから、そんなみっともない姿を見られたくなんてないから
この世界で、私の安全は保障されている
庇護を受けて生活を続けるも、自立をするのも私の意思を尊重してくれると確約してくれた
この世界は、この世界を存続させるために『異界の乙女』を無下に扱わない、それだけが独りになった私にとって救いだった
誰も居なくなった部屋で、触り心地のいいクッションに顔を埋めて大声を上げて泣き叫ぶ
泣き疲れて眠ってしまって、目が覚めたら自分の部屋のベットの上ならいいと、願いながら
私のチッポケな願望はもちろん神様に通じることも、叶うわけもなく、どんなに泣いて泣き疲れて寝ても、目が覚めて私が存在する場所は変わらなかった
立ち直り、開き直るまでに約1週間
もう一生分嘆いて恨んで悲しんだ、これ以上は時間と体力の無駄だと思いこの世界で生きていける知識を欲した
元の世界でできていたように、この世界でも自立した生活を送り一人でも生きていく
自分という存在をこの世界の片隅に植え付けるように
そう願った私に、場所と時間を提供してくれたのは・・・私が最初にこの世界で目にした彼だった
「異界の乙女・・・いえ、貴女の力になりたいのです。どうぞ私の手をとっていただけませんか?」
23歳である私よりも2歳年上の彼は、この国の近衛騎士隊長だった
そんな人の時間を割く訳にはいかないと固辞するも、何故だかこの国の最高権力者までもにGOサインをだされてしまい
気付けば、彼の自宅(もちろん私の世界の城レベル)でお世話になることになった
屋敷ぐるみで全てを学び・・・時折実践を交えながら、この世界を知っていく
私の知識が常識が増えるたびに、彼はそして彼の屋敷の人達は自分の事のように喜んでくれた
突然放り出された場所で最初の庇護者・・・そしてそれが素敵な異性であるならば、そしてその異性が自分をそういった感情で見ていてくれてると知ってしまえば、そんな彼に惹かれてしまうのは仕方のない流れだろう
屋敷の人達も、私を彼の伴侶のように扱ってくれる
自分が好意を寄せる相手に・・・そしてその家族のような存在に受け入れられる、これほどの幸福があるだろうか?
けれども、ふと気付く
私は『異界の乙女』というだけの、この身一つしかないちっぽけなただの女でしかない
彼はこの国を背負う、国でも重要すぎるポジションにある人で
さらに知った事実は、臣籍に下った王弟
彼にはもっと相応しい人がいるだろう、この国を一緒に支え歩いていく相応しい人が、彼の立場をより盤石のモノとすることができる人が
私がどんなに彼を愛おしく思っていても、自分の事にいっぱいいっぱいで、他人を思い遣る余裕の欠片も、身分も何もない私が『異界の乙女』を盾に彼を縛り付けていいはずなどはない
「私は貴女だけが愛おしいのです」
そう言い続けてくれる彼に、素直に返事を返すことができない
私では役者不足だとわかっているから、彼の伴侶になってもその重責を背負うだけの力量も何もないから
けれども彼は私に愛を告げ続けてくれる、私はそれに答えを返すことができない
そんな彼から逃げるために、コッソリ屋敷を抜け出そうとした事もあった、部屋に籠城した事もあった
けれども、彼は決して私を逃がしてなんてくれなかった、気付けば必ず捕まえられてしまっていた
好きで好きでどうしようもないのに、それに答える事が出来ないから苦しい
なのに、逃げる事さえ許されない
そんな追い詰められた私に、そっと降り注いだ月光を見て閃くものがあった
私の世界で有名な言葉、『貴方を愛しています』を『月が綺麗ですね』と翻訳した有名な言葉を
だから私は月の光が差し込む夜だけ、貴方に自分の気持ちを伝えよう
正直になれない、けれども私の心からの貴方を想う心を
「月が綺麗ですね」
私のこの言葉に、彼が息を飲む音が聞こえた
元の世界であれば、この言葉の意味を知っているかもしれないと挙動不審になるのだが、幸いここは異世界で
だからきっと彼は今まで沈黙を貫いてきた私の突拍子もないこの発言に驚いただけだろう
ならば、もう一度言ってもいいだろうか?今まで彼が私に対して伝えてくれた言葉の返事を
月夜の輝くこの下の時だけ・・・正直に伝え続けよう
「・・・本当に『月が綺麗ですね』・・・」
「・・・・・・・・えぇ、本当に『月が綺麗ですね』・・・・・」
まったく同じ言葉を返してくれた事が嬉しくて、彼はきっとその言葉の意味を知らなくてもこの瞬間だけは相思相愛なのだと思えて・・・
私はそっと微笑むのだ