天使の初体験
翌朝、アンヘルに貰ったバレッタを着け、ぽむとぽこを起こし、しばらくもふもふを楽しんだ後、ぽむとぽこの為に魔力糸を出してから自分の為の朝食を取る。
ぽむとぽこに先にご飯を食べさせないとパンとか齧られちゃうのよね……。
「うーん、今日は何をしようか……。お豆腐とか作りたいけれどにがりもないし、醤油もないのよねぇ。ゴレムスなら簡単にできそうだけれど」
食後のお茶を飲みながら、しばしボーッとする。
「ぽ、ぽ!」
「ぷ、ぷ!」
「え? 街へ行くのはどうだって? ……そうねぇ。羊皮紙も買いにいかなくちゃだし、お留守番頼める? ぽむ、ぽこ」
「ぽ!」
「ぷ!」
解ったと言わんばかりにコクコクと頷く二匹。そうと決まったら用意をしなくちゃね。
レインを入れた鞄を背負い、箒を持って日除けの魔術をかけ、外に出て、トレントに挨拶をする。
「おはよう、トレント」
「やぁ、おはようリン。お出かけかい?」
「うん、ちょっと街に行こうかと思って」
「うーん、それは少し待った方が良いね。アンヘルがどうやらこっちに向かって来ているようだよ」
え、何でまた。二日続けて来て、家の方は大丈夫なのかな。
「ほっほっほ。どうやら彼は彼で頑張って家の仕事を早く終わらせているようだよ」
私の心を読んだのか、トレントが笑う。
「そっか。家のお仕事きちんと終わらせているなら安心ね。でもトレントは普段何やっているの?」
アンヘルがこちらに到着するまでもうしばらくかかるだろう。
なので私はふとした疑問をトレントに投げかけて見ることにした。
「うーん、色々だねぇ。世界中の樹木と私が繋がっているのは知っているね? 神木と呼ばれる樹に祈りを捧げられた時なんかはそちらに意識を向けて、花や実をつけるのを早めたりとか、知っている香り……。例えばアンヘルやリンやあの吸血鬼……は滅多に昼間に外へ出ないから置いておくとして、そういう存在があれば木々が教えてくれるんだよ。あぁ、リンが王都へ行っている時も木々が教えてくれたよ。宮殿はの灯りが明るくて寝られなかったと王宮の木々達はぼやいていたけれどねぇ。木々達から聞くのも良いけれどリンからはどう映ったんだい? 良ければ教えてくれないかな?」
トレントの言葉に私はしばらく考える。
「うーん……。キラキラ? 今思い出すと宝石の様な時間だったかなぁ。トレント風に言い表すと一夜しか咲かない月見草の花畑に居たような感覚だったよ」
忙しかったけれどね。とはつけくわないでおく。
襲われた事もトレントは知っているだろうけれど、あえて聞かないのは私の楽しかった記憶に傷をつけまいとしているんだろう。
少し、その優しさに感謝をする。
その後、しばらくトレントと談笑しているとアンヘルがやって来た。
「おはよう、アンヘル。今日はどうしたの?」
「あぁ、街へ行くんなら案内してやれってアンネがな。それに色々と世話になってるからな。俺にも良いところを見させてくれよ。それと……その……バレッタ似合っている。……可愛いぞ」
「……うん、ありがとう。それじゃいこっか」
うわぁ、顔熱い!平静を装っているけれど熱い!
なんでアンヘルも赤いのよー!もー!
「……どうやっていく? 牧場まで行けばロバがいるぜ。ウチの自慢のロバだから人の一人や二人は余裕で乗せられるぞ」
顔を赤くしたアンヘルの言葉に首を振る。
ロバよりももっと早いものがあるでしょ。
取り乱さないようにニコリと笑みを浮かべて、アンヘルに聞いて見る。
「アンヘル、空を飛びたいと思った事はない?」
「そりゃああるけど……ってまさか!?」
「はい、そのまさかでーす。今日は私の箒で行こ? 多分楽しいと思うよ、速いし」
私は箒の先の方に横向きに腰掛け、ポンポンと柄を叩く。
「お、おじゃまします……」
アンヘルが意を決した様に箒に跨ってくる。
「あー、アンヘル。その座り方だとお尻が痛いよ。見た事あるかもしれないけれど、その箒の乗り方をするなら太股でしっかり挟み込まないといけないから。大体そういう乗り方をする人は少しでもスピードを出す為だから。私と同じように座って?」
私が注意するとアンヘルが見よう見まねで私と同じような姿勢をし、箒に腰掛けた。
……なんだか端からみたら公園のベンチに恋人同士が座っているみたいね……。
そんな変な事を考えてしまい、顔が再び熱くなった。
いけないいけない、集中を乱したら大事故に繋がるんだから。
「アンヘル? 大丈夫? 怖くない?」
「あぁ、大丈夫だ。ってホントに浮いているんだな。スゲー!」
もし怖いって言うなら私の腰を抱いていてもらうつもりだったけれど、どうやら杞憂に終わったようだ。
アンヘルはしっかりと箒の柄を両手で掴んで安定させている。
「それじゃ行くね。あんまり高い所やスピードは出さないつもりだけれど、怖くなったらいつでも言ってね」
「おう、いつでもいいぜ」
……どちらかと言うと、空を飛ぶのが楽しみでしょうがないと言ったアンヘル。
それじゃあ、と私はトンと地面を足で蹴った。
フワリと上空に浮かぶ箒にアンヘルは片手でおへその辺りを押さえている。
「どうしたの? アンヘル、やっぱ怖い?」
「いや、なんていうかこう……ヘソの辺りがヒュンとした。でもおもしれー! リン、早く行こうぜ!」
私にとっては慣れている感覚だけれど、アンヘルにしたら初めての経験だもんね。
でも怖いと感じてくれてなくてよかった。
あ、ゴレムスが手を振ってくれてる。
行ってらっしゃいって言ってるつもりなのかな。
私はキラキラと光る大晶壁の周りをぐるりと慣らしも兼ねて回ると、街に向けて出発した。
「すっげー! キラキラしてる! 湖も! リンの家も!」
……それは大晶壁のせいだよ。
というかアンヘル、君の瞳の方がキラキラしているよ。それはもう眩しいくらいに。
私はその様子に笑みを浮かべると前を向き、ゆるやかに加速していった。
読んでいただいてありがとうございます。




