アンネローゼの驚愕
「ねー、アンヘル。これ絶対アンタさんだけの知恵じゃないでしょー」
アンネが私の髪に付いているバレッタを見て、面白そうに問う。
「うっ……。バレたか……。そうだよ、父さんにアドバイスしてもらったんだ」
なんでもアンヘルの父、アポロさんに様子が変な事を問い詰められたらしい。
そして白状すると、怒られて、すぐに街のアクセサリー露天に連れて行かれたそうだ。
何でも『目をつけた女は自分の匂い(贈り物)をつけておかないとすぐに逃げられる』だそうで。犬か!犬なのか!
そうやってアンヘルのお母さんも射止めたそうだ。
……アンヘルのお父さんって結構グイグイ押す人だったのね。まぁゼルスさんの息子なんだからなんとなく想像つくけれど。
「なぁ、リン。そのー、さ、もしよければ今度街を歩かないか? 色々案内してやるよ」
「え、いいの? 実はあまり街に出られなくて詳しくないんだよね。案内してくれるとすごく助かるかも!」
赤くなったアンヘルの表情が気になるけど、アルカードさんのお屋敷に行っていた時は街に出る事は本当に少なかったんだよね。
これで魔術用具や羊皮紙も買い込めるかも!
嬉しくてニンマリと笑みが零れる。
「おやおや、デートですか。純粋異性交遊はチューまでですよー」
アンネが私とアンヘルを見て、これまたニンマリとしている。
えーっと……。
事故チューだけどチューはもうしちゃったんだよね……。
再び顔が熱くなって、アンヘルを上目使いに見上げる。
うわ、アンヘルも思い出したのか顔が赤い!どうするのこれ!
「おや、もしかしてチュー済みですか。アンタさん方もやりますねー」
アンネがからかう様に笑う。
「ば、馬鹿アンネ! そ、そんなんじゃねーよ……」
アンヘル、尻すぼみになって抗議したって逆効果だよ……。
「あらあら、楽しそうねぇ」
クスクスと笑い声が聞こえ、玄関を見るとウンディーネが立っていた。
「あ、ウンディーネ。えーっと……、ただいま?」
「おかえりなさい、リン。随分と賑やかそうだから遊びに来てしまいました」
突然の来訪者に、どうにか落ち着きを取り戻そうとして、結果的にそれは上手くいったようだ。
「そちらの貴女は初めまして、よね。ウンディーネと申します。どうぞよしなに」
ウンディーネがアンネに挨拶している。
対するアンネは口をあんぐりと開けて固まっている。
うわ、なんかすっごく面白い反応かも。
アンヘルも珍しい物を見たと言わんばかりにアンネに視線を送っている。
「ウンディーネ……? いや、まさか……。でもこの魔力量は……」
アンネがブツブツと呟いている。驚きすぎて素に戻っているよ、アンネ……。
いつまでもアンネの独り言が続きそうだったので私が代わりに紹介してあげる事にした。
「ウンディーネ。その子はアンネローゼ。アンヘルの従兄妹だよ」
「まぁ。そういえば髪の色がよく似ていますわね。こんにちは、小さな魔術師見習いさん。……属性は火かしら。性格的にサラマンダーが気に入りそうな子ね」
「えっ! あっ、はい。確かに私の属性は火です。……ってリン! アンタさんどーして原初の精霊と知り合いのように軽く話してやがるんですか!」
あ、アンネが正気に戻った。私に詰め寄ってくるアンネをどうどうと押し留めて、説明する。
「ウンディーネはお友達だよ。私の魂の形が恋人に似てるんですって。まぁ私はそこらへんはよく解んないんだけれどね」
アンネにサラリと説明する。
「あら、リン。私はリンと契りたいですわ。それを友達だなんて、私悲しくて泣いてしまいそうですわ」
ウンディーネがよよよと袖を目に当て、泣く。
いや、それ絶対嘘泣きでしょう!ジロリと見つめると舌をペロリと出して笑顔になった。
うぅ、そんな事しても懐柔なんてされないんだから!……美人って得だなぁ……。
「原初の精霊を友達扱い……。しかも精霊側からは契っても良いだなんて……。リン、アンタさん一体何者ですか……」
なんとなくグッタリしている様子のアンネ。
うーん、私は普通の魔術師見習いなんですが……。
どう答えたものか考えていると、ウンディーネが更なる爆弾を投下した。
「あ、そうそう。ノームがお菓子が美味しかったと嬉しそうに話していましたわ。ノームまで懐柔するなんて随分とやりますのね、リン」
うわ、それをここで言いますか、ウンディーネさん。
アンネの様子を恐る恐る見上げると顎が外れそうなほど口を開いている。
……ゴレムスの口くらい?私の手がスポッと入りそうだなー。……後が怖いからやらないけど。
「原初の精霊……。ウンディーネに加えて、ノームまで……? ありえない……。とんでもねーですね……。アンヘル、ちょっと来なせー。作戦を練る必要があるでごぜーます。あ、リンさん。今日は帰ります。ついでにアンヘルも帰らせますんで。見送りはいーです」
そう言うとアンネはアンヘルの手を引っ張り連れて行った。あぁ、子牛が売られてゆーくーよー。
「おい!? アンネ!? ちょっ! 待てよ!」
「うるせーでごぜーます。今のアンタさんじゃ勝ち目が無いし心配なので私が計画立ててあげます」
ぎゃいぎゃいと騒ぐアンネに連れ去られて行ったアンヘル。
……計画ってなんだろう。デートの計画かな。
そういえばデートって何気に初めての経験かも。
うわ、やっぱり顔が熱い!
「楽しそうですわね、リン」
ウンディーネがたおやかな様子で笑いかけてくれる。
おかげで少し落ち着いた。
「あ、ごめんね。ウンディーネ。今飲み物出すから待ってて」
そう言って、コップにフルーツ牛乳を注ぐ。
「はい、どうぞ」
「あら、牛の乳と……ネクタルですのね。トレントに実をつけてもらったのかしら」
コップを手に取り、コクリと飲む。その仕草も優雅で様になっていた。
「うん、ネクタルの実をつけて貰ったんだけれど、その魔力を感知した金斬虫が襲ってきてね。大変だったんだ。でも、今はアルカードさんが大晶壁を張ってくれたから外に魔力が漏れる事も無いし、安心だよ」
私の言葉に何か考える様子のウンディーネ。
しばらく無言の時間が続いたけれど、口を開いたのはウンディーネだった。
「リン、色々と流れていたけれど、やっぱり錬金魔術を教えますわ。貴女には絶望的に攻撃の素養が無いです。なので、錬金魔術で補える箇所は補い、補強すべきですわ」
うっ、まぁ前世が日本人だから何かを攻撃するっていうのはやっぱり苦手なんだよね。
金斬虫との戦闘もほぼレイン任せだったし……。
「とりあえず魔方陣を刻む羊皮紙が必要ですわね。今度街へ行った時買ってらっしゃい」
そういえばアンヘルが街を案内してくれるって言ってたっけ。
その時にでも期待しよう。
「はい、羊皮紙を手に入れたら是非お願いします。ウンディーネ先生」
「あら、ふふふ。こんな可愛い生徒ができるなら大歓迎ですわ。それと、この飲み物は美味しかったです。授業料という事で先に貰っておきますわね」
パチリとウインクをしたウンディーネ。
……私がただ教えてもらうだけじゃなくて対価を求める事によって、立場を対等にしたいのね。
そんなに気を使えるなんてずるいなぁ。
でもまぁ、ここはウンディーネに甘えておこう。
多分、きっと教えられる時はスパルタなのだろうから。
私は期待半分、恐ろしさ半分と言った気持ちで、ウンディーネとの穏やかな会話の時間を楽しむのだった。
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