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ぽむぽこりん -異世界で魔術師見習いやってます!-  作者: 春川ミナ
第一章:ソルデュオルナの魔術師見習い
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ダンスがすんで……

 くるりくるりと踊るアルカードさんと私。

 曲はスローテンポで激しい動きじゃないのだけれど、ターンが多いせいでどうしてもトレントの魔力が具現化したネクタルの香りが辺りに漂う。

 何故か私達の周囲には人は居ない。

 遠巻きに見守られてはいるけれど。


「リン、そのコサージュだが、どのような魔力を込めた?」


 アルカードさんが踊りながら小声で聞いてくる。


「えーっと……。本当は花弁を星の魔力にしたかったんですけれど、迷惑がかかっちゃうので花弁は無の魔力。おしべや子房の部分は太陽の魔力にするとアルカードさんがきつそうなので月の魔力。蔓上に巻いている部分は木の魔力です」


「だからか……。リン。その組み合わせだとな『一度しか会えない』という効果を持った魔方陣の意味に近い効果がある。最も、意識して組み合わせてないからこそ効果は弱いが……」


 アルカードさんが少し困ったような苦笑を浮かべ、顎で先を指す。


「見ろ、あちらのご婦人方はまるでこれから戦争が起きて離れ離れになる二人、と言った感情を持っているようだし、あちらの殿方についてはリンの姿を一分一秒でも逃すまいとしている。フッ……。さしづめリンは月夜の一夜にしか咲かない月見草と思われているだろうよ」


 アルカードさんが「そんなリンを独占できているのは気分が良いと続ける。

 いや、あのですね。別に私は独占されたいわけじゃなくて、その、できれば束縛も強いほうでは無いのが……。

 言い訳をしようとするとまた耳元に甘い蜂蜜の様な声を落とされた。


「大人しくパートナーは私にしておけ、でなければ一夜だけ、今日だけ咲いている華を我が物とせんと男共がリンに群がるぞ。私から離れると言う事はそういうことだ。さっきも牽制はしていたのだがな。……気付いていなかったのか?」


 婚約者だって言った事かな?はい、気付いていませんでした。……すみません。


「でもどうしてこのコサージュは持ち込めたんですか? 人心を意のままに操る系統の魔術や魔方陣は入り口で身につけていると弾かれて入れないはず……」


 勉強中に聞いた知識だ。

 昔魔術で何代か前の王様を暗殺しようとした人がいたらしい。

 その人は魔方陣と魔術で王を暗殺しようとしたため、以降厳重な警備体制になったとか。実は私達が通ってきた門には魔術陣が組まれていて武器や魔方陣、魔術陣の類は一時預かりされるのだ。

 例えそれが装飾品であっても。なので装飾品に魔術をかけて王都の夜会へ出席する人は少ない。

 当たり前だろう。没収されると分かっていてそれでも着けて来たがる人がいるだろうか。普通は居ないよね。


「だからリンの魔力は危険なのだ。黒き翼(ニゲル・アーラ)の婚約者として庇護をしなければ、これに気付いた有象無象の者達が悪用する事も考えられる。考えても見ろ。星の魔力で編んだお前の糸を珍しい東方伝来の糸ですと偽り、王や殿下に献上する。そして火の魔術でも落とせばどうなる?」


「……大爆発……」


 サーッと私の顔が青くなる。


「そうだ、そうならないように私が護ってやる。何を敵に回してもな」


「……ありがとうございます」


 アルカードさんが力強く笑みを浮かべる。

 その笑顔に少しだけ見惚れてしまうけれど、紅い瞳がチラリと映る。

 そういえば魅了の魔眼があるんだっけ、精神へ干渉する魔術はアルカードさんと言えども不味いんじゃないのかな?

 あれ?でもアルカードさんと目を合わせていても何ともない……。何故だろう。


「魅了の魔眼について心配してくれているのか? 問題ない。魔力封じの水晶片を瞳にかぶせてある」


 あぁ、コンタクトレンズみたいなものなのね。


「本当はコレを入れると目が落ち着かなくて嫌なのだがな。なにやら違和感があるというか……。しかし、着けない事にはこういう場には入れないからな。致し方ない」


 ……私の星の魔力も大概だけれど、目を合わせただけで魅了するアルカードさんも気苦労が耐えないんだなぁ……。

 少しだけ同情する。


「だが良いこともある」


「えっ?」


 私の声にグッとトーンを落とし、抱き寄せられ、耳元で囁かれる。


「今はリンの瞳に私だけが映る事ができるからな」


「--……ッ!」


 その言葉に顔が赤くなるのが判る。

 熱いよ!落ち着け私!


「あぁ、可愛いな。リン。真っ赤になって。……ちょうど曲も終わったところだ。休憩でも入れようか」


 アルカードさんが私を輪の中心から連れ出し、給仕人からオレンジジュースが入ったコップを受け取る。


「ほら、リン。これでも飲むと良い」


「あ、ありがとうございます……」


 ていうかアルカードさん、わざと私の心拍数あげようとしているでしょう!

 桃やリンゴのジュースもあったのに敢えて気分が高揚するようなジュースを選んだのは何かしらの意図があるとしか思えないんですけど。

 今更要らないとは言えないので飲むけど!飲むけれども!

 チビリチビリとコップに口をつける。

 ……確かオレンジには気分を上向きにさせてくれる効果があった筈。だからお酒とかにも相性が良いんだよね。確かスクリュードライバーとかソルティードッグなんかのカクテルは飲みやすいので所謂お持ち帰り用によく使われるって担任の先生が笑ってたっけ。……あの先生、アラサーだったけれどもう12年も経ってるなら結婚できてるといいなぁ。月曜日がくる度に『男なんてー!』とか嘆いていたけれど。

 思い出してフフと笑う。


「気に入ったのか? 王城に卸される果物は厳選に吟味されているからな。甘味も強いだろう」


 アルカードさんもニコリと笑う。

 私の笑顔を勘違いしたらしい。

 ……あまり考えると郷愁で涙が出て来そうなので笑みを深めて頷いておいた。

 空になったコップに氷が残る。

 それは私の心情を表すようにカランと乾いた音を立てて響いた。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。

感想などもお待ちしております。

ブクマ・お気に入り等もありがとうございます。

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