破天荒な王様
タイトルが誤字だったので書き換えました1/20
2016/02/13:少し文を修正
王宮でひろかれる夜会場に到着し、レイミーさん、アルカードさん、次いで私の順番に馬車から降りる。私が身分が一番下なのだからと一番最初に降りるようにしなくちゃと駄々をこなえたら、これが一番安全なのだと引き止められたのだ。
衛兵らしき人にアルカードさんが懐から羊皮紙が巻かれた招待文を見せる、
簡単な魔術がかかっているのだろうか、衛兵さんが何事か呟くと、王家の紋章が浮かび上がった。
「結構です。お通り下さい」
二人の衛兵さんが礼をし、道を開けてくれた。レイミーさんとセバスチャンさんはここで一時のお別れだ。子供同士のパーティでは無いので、使用人達が使う控えの場が別に用意されているらしい。
良いなぁ、ぶっちゃけ女子トークとかそっちのほうが花が咲きそうで羨ましいんですけれど。
アルカードさんに連れられ、衛兵さんの後ろに広がるのは王宮へと続く道。
中央に噴水があって、そこかしこに季節の花が飾ってある。
「ここには薔薇の迷宮と呼ばれている庭園があるんだよ」
アルカードさんがポツリと教えてくれる。
何でも庭園の迷路で迷って足をくじいてしまって近くにいた男性に助けを求めたところ、それが今の王様とお妃様なのだとか。
そしてこの迷路は貴族の間では恋を叶える迷路として神聖視されているらしい。
あー、思い出すなぁ。紡時代に大迷路の柵の下くぐりまくってショートカットして一等賞スタンプ貰ったんだっけ。あれはやっぱズルだよねぇ。
どこか遠い目をした私に勘違いをしたのか、「今度一緒に廻ろう」とアルカードさんは声をかけてくれた。
だから耳元で喋らないで下さいっては!
……あれ?アルカードさんから独特の匂いがしない。
「アルカードさん、タバコ止めたんですか?」
そうなのだ、相変わらず麝香の香りはするが、タバコの薫煙の香りは無い。
「あぁ、ウンディーネと話した時に少しな。リンのような子のような、未だ成熟していない娘にとっては毒だそうだ。すまなかったな」
それって副流煙かなにかだろうか。でもタバコって百害あって一理無しとも言うし、歯は黄ばむし、本とか家具にとっても大敵だし止めてくれるんなら嬉しい。ウンディーネよくやった!今度お菓子を差し入れしよう。
微笑みながら考え事をしていると広間についた。
「まずは王に挨拶せねばな……。あの人は破天荒でいきなり人を脅かすような人だ。リンも驚くんじゃないぞ?」
「は、はい……キャッ!」
いきなり目の前が暗くなった。
目に当たるのはサラサラとした絹のような感触と人肌。
あれ、これって俗に言う『だーれだ?』をされているの?
その私の困惑を知ってか知らずか、楽しそうに後頭部の上らへんから声がかかる。
「やぁ伯爵、久しぶりだね。今回もパートナー連れずに来ると思っていたから私の方で何人か用意していたのに、それを全部断ってこの子を連れてくるなんて。確かに可愛いけれど、そんなに大事かい?」
大事と聞かれた部分にアルカードさんが私を握る手にギュッと力が篭ったような感覚を覚えた。
「……王子、冗談がお過ぎです。その方は私の大切なパートナーなので」
王子……ね。いきなり淑女に目隠しをするなんてどんな輩かしら。
アルカードさんと繋いでいない方の手で両目を塞がれた手を片手ずつ落とす。
シャンデリアの灯りがチクチクしたけれど、この不審者の顔を一目見てやら無いと気が済まない。
そういえば古代では手で庇を作って王族の人を直接見ないようにする風習があるとかあったっけ。
でもそんなものこの世界にはないし、別に良いよね。
精一杯睨み付けてやった。
「あっはっは、王子と知られても尚こんな視線をぶつけられるとは。面白いな」
「当たり前です。パートナーがいる女性に勝手に触れるなどあまりお行儀が良いとは言えませんよ?」
アルカードさんはどうしたものかと苦笑を浮かべている。
目の前の自称王子は13歳くらいだろうか。明るい金髪とアクアマリンの様な透明感のある瞳。少しやんちゃな部分が見え隠れしているが、どこかカリスマ性を感じさせるのと周囲の視線がチラチラとこちらに向いてくるのを感じれば、嘘ではないんだろう。
……今のうちに矯正せねば。
「王子、私の婚約者は貴方の性格をどうやって矯正しようかと思っているらしいですよ」
「何っ!? 不敬であろう!」
クツクツと笑うアルカードさんが私の耳元に顔を寄せる。「腹芸も出来ていないのにあまり余計な事を考えるな。こちらの肝が冷える」と。……だからね、アルカードさん、そんなバリトンボイスで囁かないで下さい!腰が!腰が砕けるから!
そして何時の間にかサラッと婚約者に格上げされたよ!?何時の間に!?
今なら魔法少女になれるよ!とか言う猫だか犬だか解らない白っぽい色の動物のマスコットもびっくりだよ!
「クァハハハハ! 随分面白い事になっておるの。アルカード」
「父上!」
「王……!」
後ろから響いたドラゴンが笑ったかのような威圧感が走る。
慌ててアルカードさんが片膝をつき、臣下の礼を取ろうとしたが、王様はそれを片手で遮り、止めた。王子と同じく明るい金髪と少しだけ濃い青の瞳とよく日に焼けたガッシリとした体躯は日本に伝わる北欧のヴァイキングのイメージを彷彿とさせた。
「簡素で良い。ましてやここは玉座でもないのでな。アルカード、久しぶりだな。よく来てくれた。ところでそちらの素敵なお嬢さんも紹介してくれるとありがたいのだがな。聞けば婚約者というではないか」
うわ、王様まで聞こえていたよ。どうしようかな、私はまだそういう事考えてないんだけれど……。それに年を考えるとアンヘルの方が……。とか考えて、どうしたものかとアルカードさんを見上げるとニコリとこれ以上ないくらいの笑顔をした。
……決めた。ドアノブに太陽の魔力を織り込んだドアノブカバー屋敷中のドアに仕掛けてやる。
「アルカードの婚約者よ、名はなんという?」
私が小さい復讐心に燃えていると、王様が腰を屈めて私の目をじっと見つめていた。
「リ、……リン・リーリウムです」
「爵位持ちではないのだな……。アルカードよ、苦労するぞ?」
その瞳に負けないように真っ直ぐに見つめ返し、名乗ると、どこか哀しそうな色を瞳に浮かべ、アルカードさんに向き直る王。
「……承知の上です……!」
「さて、自己紹介がまだだったな。お嬢さん。私はこの国の王、レガリオ・デュオ・アルビオン。あちらの息子がレガリスだ。今宵は存分に楽しんで言ってくれると嬉しい。ではな、リン、アルカード」
どうやら無礼講に近い席のようだ。……だって王様自分の腕くらいのロブスターと格闘してるし……。食べたかったのかな?アルカードさんの破天荒と言った意味がわかった気がした。
「さて、リンお嬢様。私めと一曲踊っては下さりませんでしょうか」
アルカードさんが腰を折り、手を差し出してくる。
私はその手を上に乗せることで了承の返事をしたのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。
感想などもお待ちしております。
ブクマ・お気に入り等もありがとうございます。




