いざ、王都へ!
夜会当日、私はレイミーさんのノックの音で目が覚めた。
「リン様、おはようございます。今日も良い天気ですよ。まるでリン様を祝福しているようです」
いや、天気一つで大袈裟だからね!?
相変わらずこんな調子で大丈夫かしら……。
「朝食の為にお着替えをしましょうか」
レイミーさんが普段着用のドレスをいくつか見繕ってくれる。
すっかりこちらも慣れたので、そのまま着せ替え人形の様に動きをあわせる。
着替え終わり、食堂へ向かうと、朝食の準備が出来ておりセバスチャンさんが居た。
「リン様、食べながらで構いませんので今日の予定を申し上げます」
コクリと頷く。定規を差されたくないので食べ物が口に入っている時は喋っちゃだめ、絶対。
「まずはスレイプニルで王都までの転移門がある所まで向かいます。そして王都の宿の一室を借りていますのでそこで着替え等を行っていただきます。護衛には私とレイミーが付きますので御安心を」
そうよね、王都まで普通は7日くらいかかるのにどうしてこんなにゆったり構えていられるのか不思議に思ってたけれど、どうやら転移門という存在があると教えられた。
これは一種のワープ装置で通行税を払えば犯罪者以外は誰でも使えるらしい。あ、この世界の犯罪者というのは罪の重さによって特殊な刺青が入れられたり、装身具を着けさせられたりする。だからそれが反応すると通れない、とそういうわけだ。
「使い魔のぽむとぽこは残念ながら留守番と言った形になりますが、よろしいですか? それからドールも置いて行って貰わなければなりません。人形遣いとは言え、抱いたままだとダンスも踊れませんし、武器と見做される事もありますからな。用心の為です」
「……わかりました」
口に入っているものを飲み込み返事をする。
「もし、私が帰れない状況、若しくはアルカードさんも私も帰れない状況になったら、私の家にネクタルが生っています。それを一日一つずつ食べさせてやってください。まぁまだ魔力糸のストックはありますので1週間くらいは大丈夫だと思いますが……」
そうなのだ、寝る前にフラフラになるまで星の魔力を出し続ける修行で何とか外に魔力を出さずに留めておけるコツは掴んだ。
副産物として大量に星の魔力のみでできた綿飴状の糸が出来たけれど、これはアルシェさんにでも頼んでおけば大丈夫かな。他の人だと精神耐性かけていても心配だし。理性が負けて悪用でもされたら目も当てられない状況になる。それに私が魔力の糸を出せるのを知っているはアルシェさん、アルカードさん、レイミーさん、セバスチャンさんしかいないしね。
「畏まりました。ではアルシェに頼んでおきます」
「ありがとうございます」
食事を終え、口元をナプキンで拭き、お礼を言う。これで一安心だ。
「リン様、では準備が整い次第向かいましょう。使い魔に挨拶をしてこられると良いと思います。私はスレイプニルの馬車を用意して参りますので」
セバスチャンさんがスッと一礼をすると音も無く出て行った。
さて、私もぽむとぽこ、後レインにしばしのお別れをしなくっちゃ。……何事も無ければ明日には帰れると思うけれどね。
宛がわれた自室に向かい、ぽむとぽこを見る。
相変わらず二匹ともベッドでゴロンゴロンしてるけれど……太るわよ。
「ぽむ、ぽこ、私今夜のパーティに出席する為にお出かけしなくちゃいけないの。お留守番、できる?」
二匹のお腹をワシャワシャと撫でながら聞いて見る。
「ぷ、ぷー!」
「ぽ、ぽー!」
二匹ともコクコクと頷く。ありがとう、帰って来たらいっぱいお土産話聞かせてあげるからね。
「レインも今回は連れて行くことが出来ないの。ごめんね」
気にするな、と言った風に首をコクリと頷くような動作をする。
そういえば半ゴーレム化してるってアルシェさんが言ってたよね。
帰ったら人形のままがいいか完全にブラッドゴーレムとして自立したいのかレインに聞いてみよう。
……意思のある人形ならできるはずだ。
でもゴーレムはゴレムスが居るし、仕事を取っちゃうのもなぁ。
まぁいっか。それは後で考えよう。今はセバスチャンさんが用意してくれたスレイプニルの馬車に向かうのが優先だ。
「リン様? 準備ができました」
コンコンとノックの音が響き、レイミーさんの声がする。
ドアを開けると大きな旅行鞄を持ったレイミーさんが立っていた。
「うわ、重そうですけれど大丈夫ですか?」
「これは全てリン様のお召し物とお化粧品、アクセサリーなんです。リン様の為の物が重いだなんてそんな事は万に一つもありません」
ニコリと微笑まれ、私は顔が赤くなる。
「あ、ありがとうございます」
うあぁ、どもるな私!
その様子にクスリと笑みを漏らしたレイミーさんは「行きましょうか」と声をかけて先導する。
玄関ホールに行くと少ないながらも使用人さん達が勢ぞろいしていた。
『行ってらっしゃいませ、リン様』
皆が私に向かって声をかけて礼をする。
突然の事であわあわとする私だったけれど、レイミーさんがコソッとどうすれば良いか耳打ちしてくれた。
「行ってきます! 皆さん色々とお世話になりました! ありがとうございます!」
ニコリと微笑み、使用人さん達の前を通る。
ドアをレイミーさんが閉めると「天使だ!」とか「理想の妹だ!」とか
「妹ハスハスペロペロ」だとか聞こえて来たけれど最後のは何だろう……。
ま、まぁ気にしたら負けよね、うん。
玄関の前に止まっていたスレイプニルの馬車にセバスチャンさんが手を引いて乗せてくれる。今回はセバスチャンさんが御車台に座るらしい。馬車の中にはレイミーさんと私だけだ。
「それでは出発いたします」
「はい!」
緩やかにフワリと浮き上がり、スレイプニルの馬車は転移門のある場所へ向かうのだった。
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