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ぽむぽこりん -異世界で魔術師見習いやってます!-  作者: 春川ミナ
第一章:ソルデュオルナの魔術師見習い
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わたしのおうちはどこですか?

タイトルのネタは、どこかのわんこのお巡りさんからです。

 湖から少しだけ離れた平地に移動した。

 湖のすぐ傍に建てないのは大雨の時の氾濫が恐いからだ。

 地面に置いたリュックから種を取り出す。

 一際大きいその種は地球で採れるクルミの実を何倍にも大きくしたくらい。

 赤ちゃんの頭サイズはある。

 ぽむとぽこがキラキラした瞳で種を見つめている。


「だめ! これは食べ物じゃないからね!」


 叱ったら二匹がショボンとした。

 少し可哀想だけれど、この種はとってもお高いのだ。

 私が雨に濡れたがらなかったのも、これに理由がある。

 ドールを動かして剣で土を掘る。

 この種が埋められるくらい。

 ……なんか必殺技名とかつけても良いかもしれない。

 んー……。

 農耕地裂斬!とかグラウンドアースシェイカー!とか……。

 やめよう、うん。

 ザクザクと掘り進むドールがなんだか悲しげな表情を浮かべたように見えたからだ。

 表情は変わらないので私の気のせいなのだけれど。

 種が埋まるくらいまで穴を掘ったドールが此方を向いて額の汗を腕で拭う仕草をする。

 まるで褒めて欲しそうにしていたので、ありがとうと声をかけたら剣を地面に突き刺し敬礼した。


 ……たまにドールに意識が宿っているのかと疑う時がある。

 昔、ママに相談したら、おそらく無意識で動かしている部分が人間っぽい仕草をさせていると教えてくれた。

 一級と呼ばれる人形遣いじゃないと辿り着けない部分だとも。

 ドールをリュックの傍まで下がらせて種を埋める。

 さて、ここからは失敗できない。

 ハンドルを置き、ドールとのつながりを一旦カットする。

 集中し、体中の魔力を声に乗せ、気合を入れて詠唱を始める。


粒選(つぶよ)りの土、(つづ)れ、土に爪弾(つまび)け、(ことわり)を……我が羽根休める一時の止まり木とならん!」


 詠唱が終わると種を埋めた地面から光が溢れ出す。

 相当な魔力が持っていかれたようで、倦怠感に襲われぐったりと座り込んだ。


「ぷー!」


「ぽー!」


 リュックの影に隠れていたぽことぽむが飛び出して光に近づく。


「あ、ちょっと! 危ないわよ!?」


 しかし詠唱のせいで種に魔力を吸い上げられて動けないのが現状だ。

 みょんみょんと二匹が飛び跳ねて光の周りを踊っているのを見つめる。

 種を植えた上に乗らなきゃ大丈夫そうね……。

 今植えたものがどんなものかと言うと、種が芽吹くとそこに大きな木が育つ。

 育った木の中腹にツリーハウスが出来るのだ。

 この種にはある程度魔力が込められていて、割ったり水没したりさせなければ大抵は無事に発芽する。

 木を大きくするには自分の魔力を詠唱と共に注ぎ込む。

 あれ……そういえば私かなりぽむとぽこに魔力を食べさせてあげたよね……?

 それならあんまり大きくは育たないかもしれないかなぁ……。

 少しだけ残念な気持ちになってしょげてしまう。

 いつもなら慰めてくれるドールも魔力をほとんど使ってしまった為、今は封印だ。

 せめてドールについた土を落とそうと手を伸ばしたら何やらカタカタと音を立てて震えていた。


「あれ? 私ハンドルは握ってないのに……」


 ハンドルを握らなければドールは動かない。

 自立制御のゴーレムとしては作っていない為、自動的には動かない作りだ。

 なのに動いている……。

 いや、違う!私も震えている!?

 遠くの湖をみるとさざなみが立っている……まさか!

 慌ててぽむとぽこを見ると種を植えた場所が目も開けられないほどに光を放っていた。


「え!? ちょっと!? そこ危ないから離れ……!!」


 言い終わるより早く地面が低い音を立てて振動する。少し遠くに見える森から一斉に鳥達が羽ばたいた。


「あわわわわわわわ!?」


 歯の根が振動で合わず、慌てて地面に伏せる。

 相変わらずぽむとぽこは光の中で踊りまわっている。

 魔力切れがどうとか言う問題じゃない!ドールを使ってぽむとぽこを引き戻そうとハンドルに手を伸ばした時、地面が割れ、轟音と共に緑色の噴流が沸き起こった。


「ぽーーーーーー!?」


「ぷーーーーーー!?」


 緑色の噴流の天辺、ぽむとぽこの悲鳴がドップラー効果を響かせながら小さくなっていく。


「ぽむ! ぽこーー!」


 地面に足を取られ、四つん這いの状態では、ぐんぐんと上に昇って行くぽむとぽこの名前を叫ぶしかできなかった……。


 凄まじい勢いで幹と葉が伸びていく。

 しかもまだ成長は止まっておらず、根元からニョキニョキと更に太く、高くなり続けている。

 地震は収まったけれど、これほっとくと宇宙まで行くんじゃないかしら。

 あ、もしかしてぽむとぽこはそれを利用して宇宙に帰っちゃうとか?

 でもそれならわざわざ卵に乗ってここに降りて来たりしないだろうし……。

 それにぽむとぽこはほとんど重さを感じなかったので高いところから落ちても大丈夫かもしれない。


 そもそも私の家、どうするの……。

 種は値段が高いから一つしか持たせてくれないし、すぐに家に帰っても修行失敗と取られて、この先魔術に関わる事は一切できなくなっちゃう。

 最悪、街でバイトでも探そうかなぁ……。

 色々考えて、やがて考えるネタが無くなり、今夜の晩御飯は何にしようかなと思っていると木の生長が穏やかになってきた。

 幹の太さも落ち着いてきている。


 ……あれ?根元に妙な膨らみがある……。

 じーっと注視すると小さな窓らしきものとドア。だんだん大きくなっている気がして目を擦るとやっぱり大きくなっている。


「でっかくなっちゃったよ!?」


 思わず声が漏れた。

 いや、違う!

 此処に居たら潰される!?

 慌ててドールとリュックを引っつかんで木から離れる。

 先ほど座って体を休めていたので少しだが体力自体は回復している。

 とりあえず此処まで来れば安全かな、といった所まで退避した。

 ……ゼイハアと肩で息をしているのはご愛嬌だけれど。

 先ほどのドアや窓がある部分が、ぐももももと夏の入道雲のように広がり、家の形状になってようやく木の生長も止まった。


「……何これ……。こんなの見た事ないよ」


 そうなのだ。大抵ツリーハウスの種、家の種と呼ばれているが普通は2階か3階あたりの高さに家が出来る。

 居住空間が高い位置になるのは害獣対策も兼ねているらしいけど、今目の前に在るのは木に埋もれた二階建ての様な形だ。

 強いて言うならログハウスだ。地面から少し高い場所に玄関のドアがあり、正面と側面の3方向から、そこに続く5段ほどの階段がある。

 ドアを中心として左右対称に窓があり、2階部分には1階と同じような形状でベランダとドアと窓が見える。

 三角屋根からは煙突が生えているが、屋根の一部が木の幹と同化しているみたいだ。

 聳え立つ木さえなければ紡時代に泊まったスキー場のロッジかコテージと言われても気付かないかもしれない。


「……こういうのは割りと憧れていたけれど……。狼とか熊とか入って来なければいいなぁ……」


 不安に思うけれど、住む所が出来たのは嬉しい。

 家の種は家の形状さえ出来れば、家具も自動的にある程度設置される。

 少なくともベッドには寝られる筈だ。

 でもその前にぽむとぽこを探しに行かないと。

 家の中にリュックを置いてからかな。食べ物とか入ってるし、獣が寄ってこないとも限らない。


「よいしょっ……と!」


 リュックを掛け声と共に背負う。

 種の分、重さが消えたとは言え調理器具も入っているので重いものは重い。

 ……体もヘロヘロだしね。

 自分から一番近い側面側の階段から玄関に入ろうと思い、手すりに手をかけようとしたけれど足元の根っこに躓いてしまった。


「わ! きゃ! わ! わ!」


 たたらを踏んでぐるうりとターンしてしまった。

 後ろ向きにバランスを崩し、転ぶ!と思い、目をぎゅっと閉じたら木の幹に背中のリュックが当たって転ばずに済んだ。

 リュックの中の鍋が立てた音だろうか、金属質な音が耳に残り、響いている。

 ほぅと安堵の溜息を漏らして、そのまま幹にもたれる。


「おや、これは小さなお嬢さん。重そうだねぇ」


「えぇ、生活用品が入っていますから……って……え?」


 誰だろう、声が聞こえた。

 あ、もしかしてこんな高い木がイキナリ出来たから誰かが見に来たのかも知れない。

 ……友好的な人だと良いんだけれど。

 今の私はほぼ魔力がゼロの状態なので襲われたらひとたまりも無い。それこそ赤子の手に三回ほど人と書いて舐めまわすよりも簡単だろう。

 少しドキドキしながら辺りをキョロキョロと伺うと、また声をかけられた。


「あぁ、警戒しなくとも大丈夫だよ。私は手も足も無いからね」


 手も足も無いって事は何かの使い魔か水晶玉を飛ばしているのかな。

と、いう事はかなり腕が良い魔術師かもしれない。


「魔術師では無いんだがなぁ。君が大きな音を立てたから驚いて起きてしまったんだよ」


 魔術師ではないなら、この辺りに住んでた人だろうか……。それなら謝らないと。


「す、すみません! 私もこんなに大きく育つとは思ってなくて!」


 平謝りに謝る。もし家畜の巡回コースを私が邪魔してしまったなら何かでお詫びしないと……。


「人でも無いんだよ、小さなお嬢さん。ほら、後ろだよ。後ろ」


 後ろと言われたら人間振り向きますよね、どう考えても。

 最初に目に付いたのは大きなコブとウロ……かと思ったらそこが動いて大きな目が開いた。


「わひゃいっ!?」


 慌てて飛びのくと根っこに躓いて尻餅をついてしまった……。


「あいたたたた……」


 お尻を擦りながら改めて見るとどうやら顔?のようだ。

 少し離れて見たから気付けたのだと思う。


「おや、大丈夫かい。小さなお嬢さん」


「……もしかして……トレント……?」


 コブだと思った目が此方を捉え、ウロだと思った穴が口のように動いて言葉を語る。

 その口はとても大きくて、私なんて丸呑みにされそう……。


「その名前で呼ばれるのは久方ぶりだ……。まさか小さなお嬢さんの様な子が私を起こすとはなぁ……」


 トレントが大きな欠伸をし、頭の上の方で葉擦れの音がわさわさと聞こえた。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。

感想などもお待ちしております。

ブクマ・お気に入りありがとうございます。

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