いつもニコニコ這いよる半吸血鬼
「ぷ! ぷ!」
「ぽ! ぽ!」
「……んぅ……?」
ぽむとぽこが両側で身を捩りながら鳴く。
どうしたんだろう、夜泣きかな?いつもはこんな事無いのに。
眠い目を擦りながら身を起こし、ベッドサイドに置いてある灯り用の星石……所謂ランプ代わりのものに魔力を通す。
すると薄ぼんやりとした中に誰かが立っているのが解った。
「……レイミーさん?」
見慣れたメイド服によく尽くしてくれる人の姿かと思い、寝ぼけ眼で呼びかける。
「違いますよ」
しかし、その人影は一歩近づいて否定の言葉を発した。
まるで私が出せる星の魔力で紡いだ糸のような髪を持つ、メイド服の少女が光に照らされる。
「アルシェ……さん?」
「はい、アルシェですよー。いつもニコニコ這いよるダンピール、アルシェです」
……そんなキラッ☆とか効果音がつきそうなポーズで決められても……。
いや、そもそも這いよられても困るんですが。
「ぷ! ぷー!」
「ぽ! ぽー!」
ぽむとぽこが警戒しているような声を出す。
アルシェさんに敵意や害意はないんだろうけれど……。もし私の血を吸うつもりならすでに襲い掛かっているだろうし。
「何か御用ですか?」
ぽむとぽこの逆立った毛を撫でながら、落ち着かせるためにできるだけ静かに聞いてみる。
「あぁ、うん。単刀直入に言いますけれど、王家に来るつもりはありませんか?」
アルシェさんの紅くなった瞳がスゥと細められる。昼に見たときはここまで紅い色をしてたっけ……?
「何故ですか?」
「そりゃあ魔力を物理的に形に残せるなんて珍しいですしね。しかも多属性を自由に操れる。これは王家にとっても危険ですからねー」
何を言っているんだろうと思ったけれど、原因はお昼にレイミーさんと二人で作っていた造花だ。
サイドテーブルの上には私が魔力の糸で編んだレインリリーのコサージュと、普通の布で作った百合のコサージュが1輪ずつ置いてある。
アルシェさんはそれを見てサイドテーブルの近づくと、ちょんちょんとレインリリーを指先でつついている。
「どうして、解ったんです? まさかレイミーさんか、セバスチャンさんが……?」
考えたくは無かったけれど、あの二人が王家の監視役というアルシェさんにバラしてしまったのかと、少しだけ悲しくなった。
「それはないですよ。ボクはダンピールですからね。聴覚もヴァンパイア並みなんです。レイミーさんも消音結界を張っていたようですけど、バッチリ聞こえていました」
二人が誰かに話してないことに少し安堵した私。けれど同時に疑ってしまった事が恥ずかしくなって下を向く。ていうか消音結界なんて張っていたんだ、レイミーさん。全く気付かなかった。あの人も化け物か。
アルシェさんはレインリリーをそっと摘み、クンクンと匂いを嗅いで「いい匂い」とか言っている。
「……王都に連れて行かれたら貴族に一生飼い殺しにされるんですよね……? それは嫌です」
「え? そんな事は……」
アルシェさんが何か言おうとしたけれど、私は枕の下に隠していたハンドルに魔力を通し、詠唱を始める。
「契れ、知者の血、我に誓え……ムグッ!」
レインを操る詠唱を始めた瞬間片手で口を塞がれる。
「ちょっと待って下さいよ。ボクはそんな非人道的な事……おっと」
ヒュンと音を立てて私とアルシェさんの間にレインが割り込み、手刀を落とす。そういえば剣を直して無かったんだっけ。いやそれよりも詠唱完了してないのに動いた!?何で!?
私が驚いていると、レインはコクリと私にスカートの裾を摘み礼をする。
それはまるでお姫様か貴族のようで随分と様になっていた。
アルシェさんに相対し、両手を広げ、私を庇う様な仕草をしている。
え……?私そんな動作をするような命令していないのに。
その様子をアルシェさんは興味深そうに見つめている。
「主人の魔力が変質したから? それとも……? いや、魂で繋がっているような糸が見えますね。どうやら半分ゴーレム化しているみたいですね」
確かに私の魔力は変質しているけれど、いやそもそも半分ゴーレム化って……!
私が驚愕の表情を浮かべていると、アルシェさんが敵意は無いと言った風に両手を挙げる。
「どうやら血の契約をしたブラッドゴーレムに近いですね。術者が受けた傷を人形に移し変えたり、またその逆もできます。この人形に自分の血を飲ませた事があるんじゃないですか?」
アルシェさんの言葉に、私はハッとする。
そういえば思い当たる事がある
ずっと前に服を直していた時に針で指をさしてしまい、その血がレインの口に……。
洗ったはずなのに、もうその時に契約の下地が出来てしまっていたのね。
「思い当たる節があるようですね。……それで、一応言っておきますが無理矢理攫おうとか一生飼い殺しとかそういう事はしません。ただ、雇われている都合上、王家に報告はしなければいけません。アルカードさんは黒き翼ですが、首輪が必要なんですよ。それがボクです」
それでも王家に行ったらぽむとぽこと離れ離れになっちゃうかもしれない。
そうなってしまったら最悪消滅しちゃう。それだけは避けないと!
私はぽむとぽこを抱き上げ、抱きしめる。
ふわふわもこもこの毛並みと不安そうに見つめる二対の瞳は私の中の決心を固めた。
「それでも、王都には行けません。この子達を護るためには、私は手段を選びません」
キッパリとぽむとぽこを見つめ、続いてアルシェさんの紅い瞳に合わせ言い切る。
自分の中で、明日の夜会に誘ってくれたアルカードさんへの罪悪感も湧き出すけれど、王都に行けばそのまま軟禁される事だってあるかもしれないのだ。いくらアルカードさんが側についていても万能ではありえないのだから。
「……そうですか。じゃあ残念ですけど……」
アルシェさんの口がまるで死刑宣告を告げる様に開き、溜めが入る。
しかしその次に出てきたのは予想もしない言葉だった。
「黙っておくことにしましょう」
人差し指を口に当て、ウィンクしながら少し楽しそうに、けれど悪戯っぽく笑うアルシェさん。
「へぁっ!?」
私の口から変な声が漏れた……。
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