咲き誇る薔薇と百合
サイズ確認の為に着たドレスを脱がされ、ティアラも外される。
依然コルセットはつけたままだけれど、別のドレスに着替えた。
次にそれらを身につけるのは夜会の日だそうだ……と言っても明日だけれど。
そして今は何をしているかと言うとレイミーさんや手の空いたメイドさん達を集めて、造花の講習会をしている。
いらない布切れや、古着等をチョキチョキ切って、私が作ったのはバラと百合。
可愛らしいピンクのバラが私の手であっという間に編まれるのを見て、メイドさん達がウットリとしている。
……星の魔力はいままでの訓練で抑え切れている筈……だよね。ちょっと心配になったけれど、構わず続けることにした。
懐かしいな、女子校時代には後輩や同級生にもこうやって作り方教えたっけ。
……目の前にいるのは今の私より年上の人達ばかりなんですけれどね。
「リン様、ここのつなぎ合わせ方はどうするんです?」
「あ、そこはね、縫い目が目立たないように一度裏返してから縫うと良いですよ。そうすると直した時にボリュームもアップするんです」
メイドさんの一人にコツを教えるとまた別のメイドさんから声がかかる。
「リン様、ここの花弁なんですが、どうやってもへたれてしまうんです。どうしてでしょう?」
「あ、そこは少し絞るようにして、それでもだめなら最初に折り目をつけてきつく縛るように縫ってください」
まるで先生みたいだ。
「うふふ、リン様はさすがなんです。念のために全員に精神耐性の魔術をかけていますが、星の魔力が全く感じられなくても皆の心を掴んでしまうなんて」
レイミーさんが自分のエプロンドレスの胸元に私がお手本として最初に編んであげたピンクのバラを縫い付けている。
白にピンクのバラがついていて、レイミーさんの髪色と相まって、とてもよく似合いそうだ。
あまりゴテゴテとつけると、エプロンの意味を成さない為、胸元に一つまで!とメイド長のレイミーさんの鶴の一声がかかったのだ。
でもお休みの日に街へ出るときの私服や、髪飾り用につける時は好きなようにつけて良いらしい。
「えっと、バラについてですが、淡い色と濃い色を組み合わせることによって、グラデーションをつけることができます。例えばこういう風に」
皆が単色しか使わないため、色が偏って使われなくなった布切れを合わせて外側を白、中心に行くにしたがってピンク、赤となるように編んでいく。
メイドさん達が「わぁ」と感嘆の溜息を漏らす。
「清純さの中にも意思の強さを感じさせる色使いですね、まるでリン様みたいです」
「リン様は頭の回転が私どもとは違うんですね。これは普通の花にはできない事です! 私達は考えも及びませんでした」
やめて!あんまり褒め称えないで!前世の知識だから!私が考えたものじゃないから!
それに清純さの中にも意志の強さって……。私はただ流され体質の持ち主なだけなんですぅ……。そんなキラキラした視線を向けないで下さい!
居たたまれなくなって、私は目線を手元に落とし、自分で編むのは二本目の百合をチクチクと編む。
うん、少し落ち着いた。
「えーっとですね。街へ出かけるなら香油や香水をふりかけるのも有りです。それとバラについてですが、色や本数にも意味がありまして、もしどなたかに贈られるなら意味もお教えしますけれど」
私の言葉にメイドさん達が色めき立つ。
「確かに。生花のコサージュなら下手な香水や香油をふりかけると枯れてしまいますね。けれどこれなら絶対に枯れませんから安心ですね」
「それよりもバラの色や本数の意味ってどんな意味なんです?」
うわぁ、またメイドさんの瞳がキラキラしてるよ。私期待に答えられるかな。
「はい、まずはピンクのバラですが、温かい心、恋の誓い、と言った意味があります。赤は言わずもがな、愛の花ですね。白は純潔や尊敬と言った意味を含みます。黄色は……平和や友情と言った意味合いを持ちますが、異性に贈るには不貞や嫉妬と言った意味合いを持つので注意が必要です。青は神の祝福や奇跡と言った意味ですね」
うわぁ、メイドさん達が私の言葉に敏感に反応して思い思いの色の布切れをキープし始めたよ!バーゲンセールのおばちゃんみたいだなぁ……。
「リン様、本数の意味も知りたいんです」
誰よりも多くの色を確保したレイミーさんが次の言葉を早く、と瞳をキラキラさせている。……レイミーさん、こんな所で能力発揮しないで下さい。 他のメイドさん涙目になってますから……。
「本数の意味についてですが一本は『あなただけ』二本は『世界に二人だけ』三本は……」
本数の意味について続けていく。とメイドさん達の瞳が更にキラキラしていく
「じゃ、じゃあ異性に贈るときはこれで編んだ11本のバラを贈れば『永遠に枯れない愛の意味』となるんですね! キャー! ロマンチックです!」
メイドさんの一人が感極まったようにウットリと自分が編んだであろう真紅のバラを胸に抱いてほぅと温度の高い溜息をつく。
それに続いて他のメイドさんも騒ぎ出す。収拾がつかなくなりそうだったのでチラリとメイド長であるレイミーさんを見ると、「温かい心、恋の誓い……私だけ……うふふ……」となにやらぶつぶつと呟いていた。
……しまった。レイミーさんにピンクのバラを私が一番最初にあげたんだっけ……。
妙な勘違いされてないといいなぁ。……はぁ……。
この騒動はセバスチャンさんが注意しに来るまで続き、後にアルカード・フォン・ドラクリッド伯爵家から権利の一部を委譲されたレドネット商会と伯爵家が莫大な富を得るのはまた別のお話。
***
深夜、リンに宛がわれた寝室の前に影が落ちる。
月夜に照らされた髪は輝くような銀髪。肌は白く、白磁の陶器のように誰もが目を見張る事だろう。そして異質なのは暗闇でも尚紅く輝く瞳。それは鳩の血と呼ばれる最高級のルビーにも似た輝きだった。
アルカードはすでに黒き翼の仕事で屋敷から離れている。
ノックもせず、ドアも開けずに霧となり、一人の少女が部屋に入り込む。
「おじゃましまーす」
誰にも聞こえないように呟かれた声はやはり誰の耳にも届かない。
彼女の名はアルシェント・ダンピール。吸血鬼を殺す吸血鬼。
そのまま少女は主人の客が寝ているベッドに足音も立てずに近づいて行くのだった……。
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