偽物の価値
「ダンピールって……」
確か聞いた事ある。
吸血鬼と人間や亜人種との混血で、日光の中でも生きられるし、親の特性を色濃く受け継ぐ。
そして吸血鬼を殺す能力を持っているとか。
あれ?そういえば混血ってアルカードさんの子供?
確かアルカードさんママ一人だけを好きだったから他の人と子作りなんてしてない筈?あれ?あれ?
「んふふー、ボクはアルカード様の隠し子ですよー」
アルシェさんがサラッと告げる。
「え……」
私の口から困惑と落胆の声が漏れる。
アルカードさんママだけって言っていたのに私には嘘をついていたのかな。
少しだけ悲しくなった。
「アルシェ! 嘘を言ってリン様を悲しませるのは止めなさい!」
レイミーさんが怒気をはらんだ声で叱る。
あぁ嘘だったのね。良かった、残念吸血鬼から詐欺師吸血鬼にクラスアップするところだったかも。
「くふ、ごめんなさい。久しぶりに美味しそうな子の精気をもらったから気分が高揚しちゃって」
「全く……。リン様? 申し訳ありません。素行は問題ですが、腕は良いですし、王家から遣わされているので無碍に解雇するわけにもいかないので。どうぞ御気を悪くなさらないで下さい」
レイミーさんがグイとアルシェさんの頭を下げ、自分も腰をかがめ、謝る。
「むむう、ごめんなさい」
少し気だるげに謝るアルシェさんを見て、私も頭を下げる。
「いえ、傷痕を消してくれたのは確かですし、悪意を持った嘘じゃ無い事が解れば十分です。こちらこそありがとうございました」
「うわぁ、良い子だ……」
アルシェさんの言葉にレイミーさんがフフンと鼻を得意気に鳴らす。
「そうでしょう! なんといったって私の『妹』ですからね! 嘘を吐かれても寛容に許す器の広さ! そして類まれなる純真さ! アルシェが吸って判った様に極上の精気! あぁ、天は二物も三物も与えたのです! 私の『妹』に!」
なんだろう、レイミーさんがまた暴走している。嫌だなぁ、なんだかリン様を崇める教とか妙な宗教興しそうで。
その様子に辟易しながら、アルシェさんが切るように言葉を放つ。
「あー、ハイハイ。じゃあボクはお昼寝してきますね。精気も貰ったし満足満足。あぁ、リンちゃん。良ければ今度血を吸わせて下さいねー」
手をヒラヒラと振り、レイミーさんの横をすり抜けてドアから出て行ってしまったアルシェさん。
……なんだか変な事を言われた様な気がするけれどまぁいっか。
たぶん無理矢理に血を吸うような人にも見えなかったし。
……精気を抜かれて少し倦怠感は残っているけれど。
もしかしてアルシェさんの父親ってインキュバスなのかなぁ。
私の妄想はレイミーさんの一言で遮られた。
「ふふ、リン様と二人っきりになれたんです。でも大丈夫です、このレイミー、きちんと正気を保っておりますので」
ドレスを着せられ、先ほどアルシェさんに梳かされた髪をアップで纏められ、ティアラを着けられる。
あまりの手際の良さに少々驚いている所だった。
「後はネックレスですね。リン様、ちょっと冷たいかもしれませんが直に慣れますので」
レイミーさんがグリフォンをモチーフにした白銀のネックレスをかけてくれる。
「はい、これで出来上がりです。本当はお化粧もしたいのですけれど、リン様は水の魔術を昼の間常時纏っていらっしゃるのでお肌もつやつやで唇もぷるぷるです。夜会の時は気合を入れてお化粧させていただきますので」
「あ、あんまりゴテゴテにしないで下さいね?」
レイミーさんの本気と聞いて、ドールのレインにメイクをした時の事を思い出す。
そういえば上手にメイクをしてあげたら何故か反応速度があがったっけ。今度研究してみよう。
とと、私はお人形じゃないやい。
気を取り直して鏡の中のレイミーさんと私をじっと見る。
どこぞのお嬢様?としか見えない私の肩にレイミーさんが手を置いている。
確かに可愛い……かも。
もしここでレイミーさんに変な事を言えば野獣と化したレイミーさんに押し倒されるんだろうな。
そんな薄氷を踏み抜く事はしたくないので黙っておこう。
でもこれなら白い花が似合いそう。
試しにレイミーさんに聞いて見る事にした。
「レイミーさん、コサージュを着けてもいいですか?」
「いいですけれどどのような花を? 聞かせていただければ夜会に間に合わせるように手配しますので」
「いえ、生花でつくるのではありません。私の魔力を込めた糸で編もうと思います」
「えっ?」
不思議そうな顔をしたレイミーさんに十本の指から無の魔力を込め、糸を布状に編んでいく。
茎は木の魔力の為緑色だ。フワリとネクタルの果実の香りが拡がる。
「……」
呆気にとられたレイミーさんの様子が少しだけ面白い。
「レイミーさん、縫い針を貸していただけますか?」
「あ、は、はい! どうぞ! リン様!」
ポケットから木箱に入ったソーイングセットをレイミーさんが出してくれた。
……本当なら自分の針を使いたいけれど、使う事はないかと思って家に置いてきちゃったんだよね。
私の大好きな花、そしてママがローブにもあしらってくれた意匠。レインリリーをさっき造った花弁状の布と無の魔力で出した糸で編む。
花粉の黄色い部分は太陽の魔力……はアルカードさんが居るから使えないので月の魔力を込めて中に加護を込めた魔術陣を入れて編む。少し寒々しい印象を与えるけれど。星の魔力?銀色だし、フェロモン体質になっちゃうから問題外。
昔はこんな事できなかったけれど、糸の形を自在に操れるようになったぽむとぽこに感謝だ。
綿飴糸出し修行は無駄ではなかった。エッヘン!
……何に威張っているんだろう私。
とにかくイメージをすれば布の状態で編める事が解ったのだ。
……どんどん蜘蛛みたいになっていくなぁ。
それに十本の指から出しているので魔力の消費量が半端じゃない。冗談抜きで50cm四方も出せば魔力切れで倒れるだろうなぁ。
今回は花びらに見える5cmほどの布を6枚と、加護を縫い合わせた状態の子房の部分、茎の木の魔力の部分。
これだけで良い。
それをチクチクと縫い合わせていくとあっと言う間に布のレインリリーが出来た。
「どう? レイミーさん」
「す、すごいんです! まさか布で花を造るなんて! リン様は天才なんです!」
私が作った造花をそっと壊れ物でも扱うかのように手の平に乗せたレイミーさんがもの凄く興奮している。
「造花って無いんですか?」
「造花……と言うんですね。ええ、聞いた事がありません。それに布で花を造るなんて……。枯れる事も無いですし、アクセサリーの一種としてでも流行りますよ。まずは貴族がつけ、そして安価で作れる事から庶民にも広がっていくでしょうね」
フリルやレースはあるのに造花が無かったなんて……。
あぁ、また商人のバスチアーノさんに目をつけられる……。
私がしばらく頭を抱えてレイミーさんに心配されるのはまた別のお話。
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