吸血鬼の処刑人
とある方から許可を頂いて似たような名前、設定のキャラを出しております。
いつもの様に本を頭の上から落とさないように歩きながらの姿勢矯正訓練を施されているある日、商人さんが屋敷にやってきたとメイドさんの一人がノックをし、セバスチャンさんに声をかける。
「ほう、もう出来ましたか。予定より早いですな。」
「良い仕事をなさいますね、あそこは」
「えぇ、本当に。さ、リン様もご一緒に」
何のことがかわからず、セバスチャンさんに付いて行くと、応接間に大事そうな木箱を抱えた商人さんの護衛らしき人がそっと降ろす。
「ご注文通りのドレスができました。当店で最高の職人が最優先で仕立て上げましたので、ご満足いただけると思います」
「ご苦労様でした。では確認させていただきます」
セバスチャンさんは箱の蓋を開け、王絹で編まれた淡い水色のドレスを取り出す。
「ふむ、確かに嘘はないようですな。記憶感応の魔術を使っても皆よく働いてくれたようです。これはその分上乗せさせていただきます」
え、記憶感応って何時の間に……。そもそも詠唱破棄して魔術って使えるものなの?
……私はあまり魔力が無いから詠唱破棄なんて使えないけれども。それに精霊から無理矢理力を引き出すって節があるからあなまりした事ないんだよね……。
「ありがとうございます。うちの職人どもも喜ぶでしょう」
対して商人さんは嬉しそうだ。にこにこと揉み手をしている。
「それでは報酬の件についてお話を伺いましょうか。おっと、その前に、レイミーはリン様にこのドレスを着せて問題が無いか確認してください」
「わかりました。この間のアクセサリーも使っても?」
「勿論です。ただし絶対にアルカード様には見せぬよう鍵をかけた部屋で、メイドをもう一人つけなさい。貴女が暴走すると手に負えませんからね」
暴走と聞いて少々ゾクリとする。
鍵をかけられた密室でレイミーさんと二人きり……。しかも私はベッドに倒れていて、両手両足を合わせたレイミーさんが所謂ル○ンダイヴを行い、私に襲い掛かる図。
うん、ありえそうで怖い。
「リン様? 今なにか失礼なことを考えませんでしたか?」
「いいいいいえ、何でもないです! なんでも!」
私の考えが読まれていたのか、レイミーさんが少々冷たい声を出す。
その迫力にちょっとタジタジになってしまった。
「大丈夫なんです、天井の染みを数えている間に終わりますから」
まるで鈴が転がるような声で凶悪な一言を落とす。
「あの……。レイミーさん、ドレスとアクセサリーを着せてもらうだけですよね?」
「? そのつもりですが?」
だったら何でそんな不穏な響き発してるの!?
その様子に業を煮やしたらしいセバスチャンさんがレイミーさんと私を追い出しにかかる。
「ほら、早く行きなさい。時間は有限なんですよ。あぁ、それからアルシェ、貴女がレイミーの補佐と監視役についてください」
「畏まりました」
アルシェと呼ばれたメイドさんは銀髪に少し赤味がかかった茶色の瞳をしている。
いいなぁ、まっさらな銀髪って。
私は光源によって色々と色が変わっちゃうから銀とも金とも言えないのよね。
「それではメイド長、リン様。お部屋に向かいましょうか」
無表情で淡々とした口調で促すアルシェさん。
……なんだか冷たい感じがするけれど、クールビューティってやつなんだろうか。それともツンデレ?
私に宛がわれている寝室に通され、早速お着替えが始まる。
「リン様はまるでお人形みたいですね。肌もこんなに白くて、髪も櫛通りが良くて……。羨ましいです」
アルシェさんの声が私の髪を梳りながら囁いてくれる。
「アルシェさんこそ綺麗ですよ。その銀色の髪も、太陽に当たれば紅く燃えるような瞳も。そして少女にも大人にも見えるような不思議な雰囲気がミステリアスで、興味を惹かれます」
その様子を黙ってみていたレイミーさん。少し残念そうなのは判るけれど、どうして警戒しているの?緊張がピリピリ走ってるよ?
もうすでに星の魔力はほとんど外に出ていないし、かなり制御できているはず。
だからそんなに心配しなくても……。と思ったけれどレイミーさんの心配はいつもの事だから仕方ないよね。
「フフ、他人に興味を持たれるのはとても嬉しいですね。特にリン様のような可愛らしい方なら特に」
……社交辞令で返されちゃった。
私そんなに可愛くも無いとおもうんだけれどな。
レイミーさんをチラリトみると何故か唇を噛んで、拳を握っている。
いや、手伝ってくれてもいいのに。
もしかしてアルシェさんと仲悪い?
「ではこちらが夜会用のドレスですね。着付けをしますので少々お待ちを」
もうコルセットにも慣れたものでぐいぐい締め上げられるのもなんだか癖になりそう。
それに悪いことばかりじゃなくて、コルセットで締め上げられたお肉がちょっと胸の方に行くので少しだけ大きくなる事がわかったのだ。えぇ、本当にすこしだけですけれどね、いじいじ。
「……まだアルカード様に血を吸われた痕がほんの少し残っていますね。このドレスはフリルで肩口まで覆われるタイプのものですが、リン様が興奮なされたときや、なんらかの理由で赤くなられたときには目立つかもしれません。私で宜しければ治療しますが?」
アルシェさんが言ってくれる、私はありがたくその申し出を受けることにした。
「アルシェ、解っているとは思いますが、その方はアルカード様の大切なお客さまです。もしなにかあれば……」
「あー、大丈夫ですよー。吸ったりしませんから」
なんだろう、吸ったりって。あ!もしかしてウンディーネと同じく水属性の治癒魔術でも使ってくれるのかな?
そう考えて楽にしていると正面からアルシェさんの顔が近づく。綺麗だなぁ、まるでお人形さんみたい。
と、ボーっと考えていると首筋に吸い付かれた。
「きゃうん!」
「じっとしててください。結構集中力使うんですから」
「は、はい」
ペロペロと舐められくすぐったさと羞恥心と動揺がごちゃ混ぜになった感覚が余計に全身の五感を刺激する。
ペチャペチャと音がし、その音が耳に響き、脳に達し足に力が入らなくなる直前まで続けられた。
「はぁ……」
「リン様!」
腰砕けになって倒れかける私をレイミーさんが支えてくれた。
「ご馳走様。はい、これ鏡。傷痕、消えてるでしょ?」
アルシェさんが手鏡を手渡してくれた、震える手でそれを受け取り、鏡の中の自分を覗く。
「はふぅ。は、はい……確かに消えてます。すごい……」
鏡の中には上気して瞳が潤んだ私が映っている。肩口をみると確かにアルカードさんに血を吸われた二本の牙の痕は消えていた。
「アルシェさん……。アナタは一体……?」
「ん? ボクはダンピール。アルカード様のお目付け役、兼処刑人ですよ」
なんだかサラッととんでもない事を言われたような気がする……。
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