可燃物注意報
決意を新たにしているとアクセサリー屋さんについた。
今日は店主さん自らが店番らしい。……暇なのかしら。
「これはこれはセバスチャン様、ようこそいらっしゃいました。こちらが例のものです」
店主さんが恭しく差し出してくれたその二つは木箱に入って、絹らしき布に包まれている。
セバスチャンさんが一つずつ確かめる。
まずはティアラだ。白銀をおしげも無く使い、小粒のダイヤがあちこちにと言ってもそれは芸術的なほどのシンメトリーで散りばめられている。
思わず『ほぅ』と溜息が出てしまった。
「着けてみられますかな? ちょうど今のリン様の髪はアップで纏められていますし」
アップというかシニヨンとマーガレットの中間なんだけれどね……。
レイミーさんの髪型がアルメリアだとしたら私はなんだろう?シロツメクサ辺りでいいや、うん。
シロツメクサの花言葉ってなんだったっけ……。可愛いものだと良いな。
「リン様?」
またボーっと物思いに耽っていた私にセバスチャンさんの声がかかる。
「は、はい! ごめんなさい!」
「……リン様は時折何かを考え込む仕草をしておられますな。その考えの深遠は私どもには計りかねますが、私どもやアルカード様を思っての事だと思います。お心遣い痛み入ります」
いや、ちょっと待って!?私そんな風な事一言も思ってないからね!?強引に良い方に解釈しないで!
「レイミー、リン様にこちらのティアラとネックレスを着けて差し上げなさい」
「はい、畏まりました」
いつのまにか箱から出されていたネックレスは白銀の鎖とペンダントトップにグリフォンをあしらった彫刻、それを守るように大粒のサファイアが揺らめいている。
「御領主様の家紋のグリフォンを意匠に、意思を司ると言った意味を持つ石、サファイアを護るようなデザインにさせました。宝玉を護るドラゴンのように、民や、これをつける女性を護る領主様、と言った意味を込めてあります」
「ふむ、女性がつけるのにも全く問題がない出来栄えですな。普通これほどまでの意匠ならばもっとゴテゴテしいモノを想像しておりましたが」
「それはもう、私どもの工房の技術の粋をこらしましたので」
セバスチャンさんは満足そうだ。
私はと言えば、レイミーさんが私の胸元にネックレスを当てて見たり、ティアラをつけて姿見の前に連れて来られたりしている。
「ふわぁ……」
サファイアのネックレスとティアラをつけた私はまるで童話の中の王女様みたいだ。
思わず感嘆の溜息が出てしまった。
「ミスリルは着用者の魔力で更に輝きを増します。お嬢様、どうでしょうか、試されてみては?」
店主さんが進言してくれる。私はレイミーさんとセバスチャンさんを見ると二人とも頷いてくれた。
……星の魔力を出さないようにしないとね……。
そう願いながら、体内の魔力を循環させ、練り上げ、ティアラとネックレスに魔力が篭るように少しずつ解き放つ。
すると白金色と白銀色にめまぐるしく色を変え、姿見の中の私が驚いた表情を浮かべる。
驚いたのは私だけでは無く、店主さんも同様だった。
「こ、これは……。太陽の魔力と月の魔力!? そんな馬鹿な!? 魔力量は少し低い気がしますが、それでも前代未聞ですぞ!」
「……驚きましたな……。星の魔力だけでは無かったのですか……」
「当然です。リン様はすごいのですから!」
三者三様の驚きと賛辞を受け、私も驚いている。
太陽の魔力と月の魔力って……。
あー……。アンヘルとアルカードさんとぽむとぽこが原因だ。
ずっと側にいたからいつの間にか私にも魔力が移ってしまったのね。
ちょっと整理しよう。私が得意だったのは元々土の魔力。それと無の魔力。
つまり無の魔力の部分が真っ白なキャンバスに色を垂らすようにどんどん身近な人や精霊の魔力を吸収して行ったって事かな?
試しにウンディーネを思い出しながら魔力を込めると淡い銀青色に光り、周りの空気がひんやりと、だけれど清められた清廉の水のようなまるで神殿に居るような感覚が拡がる。
そしてトレントを思い出すと銀緑に光り、辺りには微かに草花の香り、続いて下品にならない程度のネクタルのような芳香が漂った。
ノームは……。うん、やめておいた。これ以上やると店主さんがぶっ倒れそうな真っ青な顔をしていたからだ。それにノームとはそこまでまだ交流してないしね。ウンディーネは抱きしめられたり、心臓に魔力を通されたりしたから簡単に思い出せるけれど。
「こ、これは……! 多重元素使い!? しかもこれほどの濃い魔力をかもし出せるなど……」
店主さんが真っ青になりながら、ブルブルと震えている。
いやいや、濃いというか私の魔力量少ないってアナタさっき言ってたじゃないですか。
あ、そっか。魔力を具現化するつもりで装飾品に力を込めたから濃密になっちゃったのか。
でもこれ面白い。でも星の魔力をこれに込めたらどうなっちゃうんだろう。
逆ハーレムみたいなものが出来ちゃうのかな、いやいや、下手したら国家転覆罪で重罪人として処刑か一生幽閉で実験材料にされちゃいそうだ。絶対にやめておこう。
「リン様、お考えの通りです。星の魔力は決して表にださらぬように」
セバスチャンさんが耳元で囁いてくる。
あぅ、また考えている事を読まれたみたい。でも耳元で囁くのは止めて下さいね?私男性にあまり免疫が無いですから。
首筋と耳元にゾワリとした感覚に少し顔を赤くしながらも、コクコクと頷く。
それを見て安心したのかセバスチャンさんは私から離れ、店主さんに何か輝くものを握らせた。
「は、ははははく白金貨!? セバスチャン様! いくらなんでも多すぎます!」
店主さんの顔が悲鳴と共にもはや真っ白な蝋燭の様になっている。
うわぁ、白金貨なんてはじめてみたよ。
「口止め料も入っております。良いですね? もし他に漏れたら私は真っ先にアナタを疑いますのでそのつもりで」
壮絶な笑顔を浮かべ、店主さんにしっかりと白金貨1枚を握らせる。
もはやカクカクと壊れた人形の様に頷く店主さん。
あうぅ、ごめんなさい。でも今度はセバスチャンさんの前に出たくない。
何故って?怖いからに決まってるでしょ。あんな恐ろしい笑顔を正面に見せられたら私なんかじゃ絶対に腰が抜ける自信がある。
一方のレイミーさんはと言うと……。
「リン様、とても美味しそうな匂いがするんです……。一口齧らせてくださいませ」
私の肩を抱き、首筋にクンクンと鼻を寄せている。
ちょ、恥ずかしいんですけど!?
……あ、しまった。レイミーさんが何故こうなったか解っちゃった……。 私トレントの魔力出しっぱなしだった……。
木の魔力も火と相性良いんだよね……。
よく萌える、いや、よく燃えるから。
萌えているレイミーさんをどうやって引き剥がすか考えながら、私は一つ溜息をついた。
私これからどうなっちゃうんだろう……。
読んで頂いてありがとうございます。
誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。
感想などもお待ちしております。
ブクマ・お気に入り等もありがとうございます。




