ベーコンチーズパンケーキ
馬車に乗り、ゴトゴトと揺られ、アクセサリー屋さんに向かう。
ぽむとぽこは今回もお留守番だ。
最近は寝る前に星の魔力でできた糸を限界まで出し尽くしているので、空腹になるまで比較的余裕があるようだ。食い溜めできるっていいな。
飢える事はしばらくないだろうと思う。
なので、今日はドールのレインだけを片腕に乗せている。
屋台通りに着くと、色々な果物や屋台が目に入る。
「相変わらず活気がありますね、ここは」
「ホッホッホ。そうですな、降りて見てみますかな?」
「え、良いんですか?」
「勿論ですとも」
セバスチャンさんの言葉に甘え、馬車から降りる。
「うわぁ……」
この間は見れなかった屋台の喧騒に思わず声が出る。
パンケーキに肉と野菜を挟んだものや、花、果物、肉の串焼き……様々なものについキョロキョロと見回してしまう。
「お姉ちゃん!」
ふと声をかけられる。
目の前にはふわふわとした栗色の髪を持つ鳶色の目をした少年。
「……マルテ?」
記憶を引っ張り出し、名前を思い出す。
「やっぱり人形遣いのお姉ちゃんだ!」
嬉しそうな声色だったけれど、急にシュンとしてしまう。
「……あの、ごめんなさい。僕のママを探してもらう為にあんな事になっちゃって……。僕、次会えたら謝ろうと……」
俯き、肩を震わせる少年。
恐らく自分が迷子になったせいで、護衛としてのセバスチャンさんを離れさせてしまい、結果として悪漢に私が攫われた事を気にしているのだ。
「大丈夫よ、マルテ。こうして私は無事なんですもの。今日はお母さんと一緒に?」
「ううん、パパ……じゃない。父様と一緒に来てるんだ! 父様!」
マルテが声をかけると眼鏡をかけた壮年の男性が前に出る。
マルテと同じような栗色の髪と黒に近い目をしている。きっとこの人がマルテのお父さんなんだろう。
マルテのお父さんは一礼し、口を開く。
「私はバスチアーノ・レドネットと申します。お嬢様、その節はうちの愚息が御迷惑をおかけしたこと面目次第もございません。償いになるかは解りませんが我がレドネット商会を御利用の際は最優先で承らせていただきます」
「ほう、レドネット商会ですか……。最近事業拡大が目覚しいと噂になっておりますね」
セバスチャンさんが間に入ってくれ、言葉を交わす。
「はい、その節はどうぞよろしくお願い致します」
切れ長の瞳をスッと細め、ニコリと笑う。
……アルカードさんとはまた別な魅力があるなぁ……。
なんだっけ、女子校時代の友人が言ってたっけ……。
確か物理の教師が鬼畜っぽくて眼鏡かけてて……。
あの人課題出し忘れると笑顔で倍の課題出す人だったよなぁ……。
あぁ、そうだ鬼畜眼鏡!
そんな腐った友人が言っていた表現がピッタリ来る人だ。
「お嬢様、私の顔に何か?」
見惚れていたせいでマルテのお父さんに言葉をかけられる。
「い、いや、何でもありません。ごめんなさい」
不味い不味い、連日の魔力限界消費のせいで思考があっちこっちにいっちゃうな。気をつけないと。
「お姉ちゃん! この先にすっごく美味しいものを出す屋台があるんだ! 僕、案内してあげるよ!」
グイグイとマルテに引っ張られる。
「わ、ちょっ……」
セバスチャンさんとレイミーさんを振り返るとニコニコとしながらも頷いてくれた。
後ろから付いて来てくれる心積もりらしい。
まぁ治安も改善されたって言っていたから信用はしているのだけれど。
「マルテ、私も屋台も逃げないから大丈夫よ。それでどんなお店なの?」
ヒールが高い為、あまり早くは歩けないのでマルテを落ち着かせるために声をかけた。
「うん! パンケーキの中にチーズとベーコンが挟んであってね! チーズが濃厚ですっごく美味しいんだ!」
「じゃあエスコートはお任せするね、マルテ」
ちょっと貴族風の物言いに変えた言い回しを使ってみる。
マルテもそこは商人の息子なのか、「か、かしこまりました、お嬢様」なんて返してくれた。
……少しだけ噛んだのは気にしないでいてあげよう。
少し歩き、屋台に着くと鉄板から生地とベーコンの焼ける良い香りが漂ってきた。
「ここだよ……じゃない。ここです、お嬢様」
噛みながらも敬語に言い換えたマルテに苦笑する。
「私はお嬢様なんかじゃないから何時も通りで大丈夫よ。普段のマルテの方が良いな」
ニコリと微笑むとマルテは顔を赤くしてしまった。
うー、可愛い。その栗色の髪をわしゃわしゃ撫でてあげたい!
でも左手はレインを抱いてるし、右手はマルテに繋がれているから出来ないのよね。残念。
「お、いらっしゃい。マルテ坊、今日はどこぞのお貴族様のエスコートかい?」
目当ての屋台の店員さんらしき人が声をかけてくる。
腕を捲り上げているが、その腕はまるで丸太の様に太く、体格も鍛えられているのが解る。いかにも筋肉の塊という感じだ。
この人一人で馬車くらい牽けるんじゃないかと言うとどれほどか解りやすいかもしれない。
頭には黒いバンダナ。そこから覗く髪は少しくすんだ金髪で黒と緑、どちらとも取れる瞳の色をしている。
「うん! いつものやつ二つ頂戴!」
マルテはポケットから大銅貨二枚をパチリと店先に置く。
「あいよ、今作るから少々待ってな!」
そう言うとガチムチマッチョな店員さんは鉄板に生地を垂らし、ベーコンを乗せていく。
さっきマルテはパンケーキと言ったけれど、これはお好み焼きに近いかもしれない。
小麦粉とベーコンが焼ける匂いが食欲をそそる。
あぁ、マヨネーズとソースが欲しい!後キャベツも入れて!
割かし切実に見つめているとあっという間に焼きあがってくるパンケーキ。
チーズを挟み、しばらく焼くと、溶けたチーズの香りが漂ってきた。
「はいよ、出来たぞ。マルテ、お嬢ちゃん、熱いから気をつけてな」
油紙に挟み、マルテと私に渡してくれる店員さん。
「ありがとうございます」
「ありがとう、おじちゃん!」
「お兄さんと呼べ、お兄さんと!」
マルテの言葉に店員さんが笑いながら怒る。……20代後半に見えるけれど微妙なお年頃なのね……。
マルテと共に、屋台に並べてあった椅子に座り、一口齧る。
「……美味しい……!」
さきほどのソースとマヨネーズはなんとやら。
それ以上にチーズが濃厚なのだ。
「だろう? ウチの牧場の特製チーズだからな!
何といっても搾りたての牛乳を使っているから、新鮮度バツグンだ!」
ワハハと厳つい店員さんが笑う。
ん?牧場?
何かが私の中でひっかかったけれど、目の前のお好み焼きもどきが美味しくてそれは何処かに行ってしまった。
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