相性が良すぎると爆発します
「リン様、おはようございます。朝ですよ」
レイミーさんの声で優しく起こされる。
あぁ、なんだか良いな。こういうの。
弟のジグに叩き起こされるのでも無く、パパのお髭ジョリジョリで起こされるのでも無く、声をかけられて起こされる。
しかも慈愛の笑みをたたえたレイミーさんに。
なんだか女子寮時代に同室の下級生から起こされた記憶が蘇る。
「おはようございます、レイミーさん」
レイミーさんの笑顔に私もしっかりと笑顔で返す。
あ、なんだか自分の頬が少し赤くなっちゃったのが解る。
少し熱い。
その様子を見ていたレイミーさんも少し眉尻が下がり、頬がほんのり赤くなっている。
「あの、精神耐性効いてます? 大丈夫です?」
心配になってレイミーさんに声をかける。
「大丈夫です。しっかりかけてあるのでお気になさらずに」
それを聞いて少し安心した。
……これは純粋に好意を寄せられているだけなんだ、そうなんだ。
と、自分に言い聞かせる。
「朝のお食事も食堂で、とセバスチャン様に言われております。コルセットはつけませんので御安心を」
良かった……。正直あの苦しさは耐えがたい物がある。
簡素なドレスに着替えさせられている途中でふと気になった事をレイミーさんに聞いて見ることにした。
「レイミーさん、一つ聞いても良いですか?」
「はい、なんでしょう?」
「レイミーさんの属性って何ですか?」
「あぁ、私は火の属性なんです。たまに給仕もしますから皆からは便利がられていますね」
やっぱりかー!
……星の魔力と火の魔力、これは禁忌とされる組み合わせで相性が良すぎるが故に離して使うのが理想的と言われている。
それはもう、冗談抜きで近づけると爆発するくらい。
隕石が飛来して大損害を与えるとイメージして貰えればどういう事か解りやすいかもしれない。
……レイミーさんが火の属性だと知っている筈のセバスチャンさんが私につけるのは、暗に『さっさと星の魔力を抑えられるようにならないと大変な事になりますよ』と考えているようで怖い。
違うよね?そうであって欲しいな。お願いしますね、セバスチャンさん。
レイミーさんに連れられ、食堂へ向かう。
少しヒールが高い靴は履きなれていないせいか、いつもより静々と歩いて、いや、歩かざるを得ない。
「まだ姿勢が揺れてますね」
「ひゃんっ!?」
後ろから突然声をかけられ、ビックリして振り返る。
案の定セバスチャンさんだった。
「すみません、あまりヒールの高い靴は履きなれてなくて……」
「今日はその辺りと、ダンスの練習をしましょうか」
ニコリとセバスチャンさんが笑うけれど、この後はスパルタなんだろうなぁと思い、ため息をついた。
食堂へ着くとやっぱりアルカードさんは居なかった。
この間が特別だったんだよね。
でも昼に会えないとやっぱり人間のお店とかは行った事ないんだなぁと少し考える。
ウンディーネに教えてもらった日除けの魔術を改良すれば……いや、魔力が足りないから無理かな。
それに常時蜃気楼を纏っているような事になれば、それこそ見た人がどんな噂を流すか解んないし。
「リン様? どうかなさいましたかな? スープが熱かったでしょうか」
セバスチャンさんの声にハッと気が付く。
いつの間にか目の前のスープをスプーンでクルクルとかきまわしていた私に気が付く。
「あ! す、すみません。ちょっと考え事を……」
「ほほう、何ですかな? 今はマナーの勉強中でもあります。これはおしおきですな」
ズボッと定規が背中に突き差さる。
「きゃんっ!」
「ホッホッホ……。で、何をお考えになられていたのですかな?」
私の上げる悲鳴に気をよくしたのかセバスチャンさんが声をかける。
「いえ、あの……アルカードさんが昼でも外を出歩けるような魔術が無いかと考えていた所です……」
「ほう、アルカード様の為ですか……」
正直に考えていた事を口に出すとセバスチャンさんも驚いていた様子だった。
「それはとてもありがたいですが、今は食事中です。あまり姿勢が悪いとまた定規ですよ」
「はい、すみません」
窘められ、目の前のスープとパンに目を落とす。
スープはかき混ぜていたせいで少し冷めていてしまったけれど、それでも十分に美味しかった。
作ってくれた料理人さんに感謝だ。
「さて、この後は昨日読めなかった本を食休みも兼ねて片付けましょうか。見たところテーブルマナーについてはリン様は習得なさっているようですし、貴族の儀礼について学ぶのがよろしいでしょうな」
「解りました」
「ではレイミー、リン様をお部屋に」
「はい、それではリン様、行きましょうか」
レイミーさんに連れられ、部屋に戻る。
テーブルの上には昨日レイミーさんが持ってきてくれた本があった。
「まずは社交儀礼ですね。リン様はどの程度知っておられますか?」
「……貴族様については全く。かろうじてテーブルマナーの知識がある程度です」
「そうですか、ならばこの本がよろしいですね」
そう言うとレイミーさんは一冊の分厚い本を目の前にドンと音を立てて置いた。
……なんですか、これ凶器ですか。鈍器と呼ばれても不思議じゃないですよ。
私の考えを読んだのかレイミーさんが口を開く。
「うふふ、昔アルカード様がセバスチャン様に怒られた時、これで殴られたそうですよ。……あまりにも出来が悪くて」
つまり出来が悪いと本で殴られるって事?冗談じゃない……!
「いえいえ~、リン様にはそんな事しませんので御安心を」
少し青くなった私の顔色を察してかレイミーさんが微笑む。
でも目が笑ってないよ、レイミーさん。
覚えられなかったら定規くらいは差す気満々だよ!
その後しばらく定規を差されたりしながらセバスチャンさんが呼びに来るまでお勉強会は続いたのでした。
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