あおひげのお部屋
お屋敷に帰って来て、一番初めにする事はママに手紙を書くことだった。
『星の魔力の抑え方を教えて!』と手紙をしたためる。
手紙をしたためた私が今何をしているかと言えばセバスチャンさんを探してウロウロしているところだ。
このお屋敷は使用人の数が極端に少ない。
別荘である点でも仕方ないのかもしれないけれど、料理長さんとセバスチャンさん、レイミーさんとメイドさん数人くらいしか存在を確認できていない。
糸を張り巡らせて探査の魔術?いや、そんな大層なもの使うまでも無く、自分が今歩いて確かめました。エッヘン。……疲れて動けなくなっちゃうしね。
……って何に威張っているんだ私は。
でも目的のセバスチャンさんには会えずこっちへウロウロあっちへウロウロ。
そして迷いました。
だってこんなに部屋が多いと訳わかんないしどこも同じようなドアだからノックはして開けてみるけれど倉庫だったり、書庫だったりするんだもの!
そんな折、地下への階段を見つけたので下りてみる。
いかにも重厚そうな両開きのドアがあった。
なんだろう、このラスボス感漂うドア。
コンコンとノックをしても返答が無いので開けるのはやめておいた。
童話、青髭でも好奇心は猫を殺すと言っているしね。
その時後ろから肩にポンと手を乗せられ声をかけられる。
「リン様、何をしておられるのですか?」
「うひゃい!?」
変な声が漏れた。
後ろを振り向くとセバスチャンさんだった。
人差し指を唇に当て、静かにと言ったジェスチャーをする。
そして私の手を引き階段を上がり連れて行かれた。
「あのお部屋はアルカード様の寝室で御座います。開けて見ても棺桶があるだけで特に面白いものではありませんよ」
太陽が差し込む、比較的大きい窓がある部屋に連れてこられ、さきほどの重厚そうな扉があった部屋の説明をされる。
「ごめんなさい、その……セバスチャンさんを探していまして」
「ほう、私に何か御用ですかな?」
ニコリと微笑み、紅茶を淹れるその姿は随分と様になっている。
実は少々みとれてました。ゴメンナサイ。
「ママに……。いえ、母親に手紙を出したいのですけれど」
「畏まりました、私が魔術鳩を出しましょう」
セバスチャンさんにそう言われてお言葉に甘える事にした。
魔術鳩と言うのは魔術で作られた鳥で簡単な手紙を一番早く届ける方法だ。
普通の伝書鳩とは違い、魔術で作られているので天敵もまず居ない。
食べるととても苦く三日三晩苦しむのだそうだ。
魔物でも好き好んでそんなものを食べようとは思わないだろう。
外見は光る鳩と言ったらしっくりくるかもしれない。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、良いのですよ。お手紙はもう書かれておられますか?」
「はい、こちらになります」
便箋一枚ほどの大きさの紙……。と言っても質が悪くゴワゴワしているものをセバスチャンさんに渡す。
「確かに承りました。では……」
そう言ってセバスチャンさんは詠唱を開始する。
「綴れ、月映えよ、我が意に沿いて伝え飛ばん!」
詠唱が終わり、穏やかな光が収まるとセバスチャンさんの手には一羽の光り輝く鳥が居た。
え、どう見ても形状が鳩じゃないんですけれど……。
「私が独自にアレンジした魔術でして。隼に近い速度で飛ぶことができます」
隼ってたしか最高時速400kmくらい出てたよね……。どんだけ有能なのセバスチャンさん。
私が半口を開けて驚いていると、魔術鳩、いや魔術隼は窓を通り抜けて飛んでいった。
うわぁ、もう見えなくなってるよ。
「さ、リン様。お疲れでしょうし、寝室で使い魔と御休憩なさっては如何です? 夕食までは時間がありますし、マナーのお勉強はその時に、という事で」
「あ、はい。ありがとうございます」
紅茶のカップを置き、ご馳走様でしたと告げ、宛がわれた寝室兼自室に戻る。
「ぽ!」
「ぷ!」
みょんみょんとぽむとぽこがやってきて膝にスリスリされた。
あぁ、もうだからくすぐったいってば!
でも不快ではない。二匹とも抱き上げて、頬ずりする。
んー、太陽の匂いがする……。
「ぽー」
「ぷー」
なんだか不満そうな声を出された。
なんだか良い子でお留守番してたからご飯をくれと言われた様な気がする。
「わかったわかった、じゃあ良い子にしてたから奮発しちゃうね」
ちょうど試したい事もあるし。
詠唱し、指の先からいつもより細い糸を出して、それを綿飴状になるようにイメージする。
すると銀色の綿飴になった。
「あれ……。星の魔力出そうとは思ってなかったんだけどな……」
まぁ出てしまったものはしょうがない。
左手の人差し指から出た綿飴をぽこに、右手の人差し指から出た綿飴をぽむにあげる。
二匹とも嬉しそうにもっちゃもっちゃと食べている。
うん、糸をそのまま食べさせるより見栄えが良いかも。
今度からこれで行こう。
と、その時ドアがノックされた。
「リン様? セバスチャン様からこちらの本を読んでおくようにと申しつかってきました」
「え、ちょ! 待って下さい!」
私の叫びも空しくドアが開けられる。
レイミーさんだった。
私の指の先からはまだ糸が出続けている。
ドサリ、と音がし本が足元に落ちる。
レイミーさんは下を向き表情は推し量れないが、驚愕しているのか恐怖なのか判らないけれどカタカタと震えている。
しまった……!異端の魔力を持っているとばれた!?
「あの……レイミさん、これは……「リン様結婚して下さい!」うひゃあ!」
私が弁明しようとすると一瞬の隙をつき、レイミーさんにベッドに押し倒された……。
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