アクセサリー作成
「次はアクセサリー屋ですね」
馬車に乗り、セバスチャンさんからそう声をかけられる。
「リン様に似合うといえばやはりサファイアでしょうか。ブルーアゲートも捨てがたいのですが、リン様の透明感を出す為にここはやはりサファイアですかねぇ」
「おや、レイミーも私と同じ意見でしたか。リン様にはサファイアのブローチをと思っておりました。髪飾りはどういたしましょうか」
髪飾りと聞いて私の体がピクリと反応する。
「あの……! できれば、今つけている髪結い紐を外したくないのですが……!」
そうなのだ、これは私にとって加護を縫い合わせたお守り。
災厄避けにもなるし、もしもの時の為だ。
私の言葉にセバスチャンさんがふむ、と顎を撫でる。
「良いでしょう。髪形はそのままで着けれる髪飾りを注文しましょうか。何、腕利きの工房を知っていますので多少無理を言っても大丈夫でしょう」
あうぅ……。もしかして私の言葉でまた大枚の金貨が飛んでいく……。
私が蒼白になるとセバスチャンさんが少し真剣な顔をして言った。
「リン様はアルカード様が黒き翼だという事は知ってますね?」
セバスチャンさんの言葉に何を今更、と思いながらも頷く。
「しかし、アルカード様は昼間に出歩く事は当然の事、あまり外出できない身でもあるので夜会に出席するのは稀なのです。ということはどういうことかお解かりになられますか?」
「えーっと……。夜会に出席しない、開催もしないからそれにかかる費用が抑えられている、と言った所でしょうか」
「ご名答です。流石でございますね」
セバスチャンさんにニコリと微笑まれる。
その笑顔がナイスミドルの風格と威厳で眩しさに目を瞬かせた。
「なので、財は溜まって行く一方。金貨の1000枚や2000枚はもはやアルカード様にとってはした金なのですよ。それとこれは内密なのですけれど……」
セバスチャンさんが声を潜める。
「おそらくどの公爵より、アルカード様の財は多いと思われます」
ニヤリとセバスチャンさんが笑う。
怖いよ!セバスチャンさん!
その気になれば王都のパワーバランス崩しかねないって事でしょう!?
「リン様が今お考えになっている通りで御座います」
クツクツと楽しいものを見たと言わんばかりにセバスチャンさんが笑う。
あれ、この人こんなに黒かったっけ……。もっと優しそうな人かと思ったんだけどな。
「もっと優しそうな人物だと思っていましたか?」
「ひゃん!?」
考えていた事を当てられ、驚きと共に悲鳴が漏れた。
セバスチャンさんは楽しくて仕方が無いという風に笑っている。
「リン様は考えている事がとてもお顔に出やすいのですよ。だからついつい虐めてしまいました。申し訳ありません」
セバスチャンさんに頭を下げられてしまった。
……うーん、そんなに顔に出やすいのかしら私。
むにむにと頬の皮膚を伸ばしたりしてみる。
その様子をセバスチャンさんとレイミーさんはにこやかに見つめていた。
「さ、着きました。こちらがアクセサリー屋になります」
セバスチャンさんに手を引かれ、馬車から降りる。
アクセサリー屋さんの外観はどうやら工房と繋がっているらしく、細長い。
そして金属を叩く音だろうか、コンコンとかキンキンとか微かに音が聞こえる。
ドアが開かれ、セバスチャンさんが店員さんに一言二言話すとすぐに店主さんらしき人がやってきた。
「これはセバスチャン様。今日はどのような御用件で?」
「はい、このドレスのデザインに合う様に、この方にアクセサリーを見繕って頂きたいのです」
どこからともなくセバスチャンさんがさきほどのドレスのデザイン画を取り出し、店主さんに渡す。
「ほほう……。王絹ですか……。その方の御髪の色と合わせるならば銀……、いや白金……いや待てよ? 確か白銀の良いのが入荷しまして、そちらは如何でしょうか」
「白銀ですか。確かにリン様の御髪は太陽に当たれば金、月の光に当たれば銀にも見える色です。ちょうど良いでしょう。ではブローチ……いやネックレスに致しましょうか」
「畏まりました、宝石はサファイヤでよろしいですか?」
「勿論です。後髪飾りを。髪型はこのままで。髪結い紐をそのまま使いたいとのご希望なので」
あぁ、またなんだか私の知らない所で天文学的なお金が飛んでいく……。
「このままの髪型ですか。……いや、アップに纏めれば髪結い紐もそのまま使えますよ。そして白銀にダイヤをあしらったティアラというものはいかがでしょう」
「良いですね。レイミーは女性の視点から見て如何ですか?」
「よろしいかと思われます。ドレスが幼さを強調し、御髪をアップで纏める事によってうなじを出すという大人っぽさのアンバランスさに会場の視線はリン様に釘付けかと」
レイミーさんがハァハァ言いながらウットリとしている。
ちょ、やばくない!?なんだかレイミーさんがあらぬ彼方へと飛んで行っているよ!?
……あぁ、そういえば馬車でずっとレイミーさん私の隣に座ってたっけ……。
星の魔力ってこれほどまでなのね……。
これは一刻も早くママに手紙を出して相談しなきゃ……。
その様子をうむと頷きながらセバスチャンさんが店主さんに指示を出す。
セバスチャンさん、レイミーさん変だけど良いの?
「では白銀の髪飾りで意匠はダイヤを」
「畏まりました。期日は一週間後の王都主催の夜会ですね?」
「ほう、気が付かれていましたか」
「それはもう。あちこちから注文を受けておりますので」
片眉をあげるセバスチャンさんにニコリと店主さんが微笑む。
結構喰えない狸かもしれないなー、この店主さん。
「それでお値段の方なのですが……。白銀とサファイヤ、ダイヤで……」
また天文学的な話に……アーアーキコエナーイ、ナニモミテイナーイ。
精神的なショックとともにへろへろになった私が馬車に乗る時足を滑らせたのはまた別のお話……。
あうう、恥ずかしい。
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