ドレス作成
馬車に揺られること数十分。街の喧騒の中をゆったりと抜け、レイミーさんとセバスチャンさんと他愛もない話をする。
と、セバスチャンさんが顔を上げた。
「見えてまいりましたよ。あそこがこの街一番の仕立て屋で御座います」
セバスチャンさんの声に窓の外を見ると、ガラス張りのショーウィンドウに飾られたドレスが目を引いた、いかにも王宮御用達と言った風な仕立て屋さんが目に入る。
「ふわぁ……」
その見事さに思わずため息が漏れてしまう。
「さ、リン様。どうぞ」
セバスチャンさんが馬車から降り、手を引いてくれる。
もうこうなったらされるがままだ。
手を引かれるままにドアを潜る。
「いらっしゃいませセバスチャン様、今日はどのような御用件でしょうか。
アルカード様のお洋服でしたらこちらからいつでも伺いましたのに」
店主さんらしき人が直々に接客をしてくれる。
「いえ、今日はこの方のドレスを作って頂きたくて出向いたのですよ」
「おや、可愛らしいお嬢様ですね。……魔術師見習いの方の御様子ですがどのようなご関係で?」
「アルカード様の大切な方です。最高級の素材を使って良いと言われていますので、そのようにお願い致します」
いや、アルカードさんそんな事言ってたっけ?
「おぉ! でしたら王絹の良いのが入っておりますよ! こちら等いかがでしょうか」
だから王絹なんて高級品私には勿体無いですってばー!
私の心の声を無視し、セバスチャンさんと店長さんらしき会話がどんどんと進んでいる。
私が驚愕している事に気がついたのか、レイミーさんがそっと声をかけてくれる。
「リン様、アルカード様の隣に立って夜会に出席するという事は、当然それに見合うだけの物を身につけてなければいけません。どうかご理解を」
そっか……。私がビクビクしてたらアルカードさんにも迷惑かけちゃうんだ。しっかりしなきゃ!気持ちを切り替えてペチペチと両頬を両手で叩く。
その様子をにこやかに見つめていたレイミーさんは、もう大丈夫だといわんばかりに店主さんらしき人との会話に加わった。
「淡い水色のドレスがよろしいかと。王絹でしたら水色が映えるでしょう?」
「おお、ありますよ! えっと……すみませんがお名前は?」
「リン様です」
「そうですか、まるで月の女神様の様な雰囲気でいらっしゃいます。リン様の瞳の色に合わせて水色なのですね。畏まりました。では早速採寸に入りましょうか。リン様、どうぞこちらへ、女性の採寸師がおりますので」
そう言われて奥に通される。ローブを脱がされ、体のあちらこちらを測られてしまった。
凹凸の無い体をまざまざと感じさせられゲンナリとしてセバスチャンさんとレイミーさんの下へ戻る。
「うぅ……。もうお嫁に行けない……」
女性といえどあちらこちらを触られサイズの違いを目の当たりにしたのだ。
「あら、リン様はアルカード様のお嫁に行けば良いじゃありませんか」
クスクスとレイミーさんが耳元で笑う。
その言葉にボッと耳まで赤くなってしまった。
「レ、レイミーさん!? 私はそんなんじゃなくてですね!」
「お静かに、リン様。店内ですよ」
セバスチャンさんがチラリと視線と注意の言葉を私に送ってくる。
「あぅ……。すみません……」
居たたまれなくて謝る。
「それからレイミーも、リン様を困らせるのは止めなさい」
しっかり聞こえていたようだ。
「失礼いたしました。でもリン様が可愛らしくて……。何故でしょう。この間会った時よりも愛しさを感じます……」
あー……、それたぶん私が星の魔力を使えるようになったからだと思います。ごめんなさい。
星の魔力は抑えてないと際限無く人や動物を引き寄せちゃうからなぁ……。ママに魔力の抑え方もっと教わっておくべきだった……。
今の私の状態は魔力量が少ないので外に漏れだす魔力も普通の人と変わらないくらいだと思うけれど……。
それでも近くに居るレイミーさんやセバスチャンさんは影響を受けない筈が無い。
もし今ぽむとぽこを連れ歩いていて星の魔力が暴走したら……それこそどんな大騒動が起きるか……。
少し考えて自分の想像にブルリと震える。いけないいけない、そんな歩く人間フェロモンみたいになっちゃ駄目だ。
「……ン様」
そんな私の感情を途切れさすように声がかけられる。
「リン様、デザインですがこちらとこちら、どういたしましょうか」
レイミーさんが二つのデザイン画を持ってきてくれた。
一つはボディラインがある程度隠せるが、スマートな大人の雰囲気を持ったもの。
もう一つはフリルでボディラインが完全に隠せるものだった。所謂可愛い部類に入る。
「じゃあこっちで……」
私の体には魅力なんて無いからフリルでボディラインを完全に隠せるものを選んだ。
幼く見えるかな?と思ったけれどどうせアルカードさんの後ろに付いて行くんだし問題はないでしょうと判断しての事だ。
「畏まりました。では御店主、期日は一週間後で。すぐにとりかかって下さい」
「はい、私共も誠心誠意努めさせていただきます!」
一週間後ってものすごいハードスケジュールじゃない……?
それだけ大口の注文だって事かな……。アーアーキコエナーイ。私は何もミテイナーイ。
そうして仕立て屋さんから出るまで、私は一介の彫像になったのでした……。
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