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ぽむぽこりん -異世界で魔術師見習いやってます!-  作者: 春川ミナ
第一章:ソルデュオルナの魔術師見習い
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闇に潜むモノ

 洞窟はほぼ真っ暗で奥はほぼ見えない。太陽も雲に隠れてしまって昼だというのにかなり暗い。

 あまり使いたくないけれど、とリュックからランタンとドールとハンドルを取り出す。

 ランタンの中にはママから貰った星の魔力を込めた星石……要は隕石を入れる。

 すぅと息を吸って隕石に込められた魔力を少しずつ開放する。


「……星の法印、微笑み(ほど)け、(ほの)かに(ほころ)びよ……」


 詠唱が終わるとランタンから灯りが漏れ出す。文献くらいにしか出てこないけれど、太陽の魔力を持った人とかだったらもっと明るいのかなぁと思いつつ。


 電池みたいなもので石や宝石に込めた魔力は目減りしていくので本当は使いたくない。

 でも灯りが無いと、洞窟が安全か分からないし……。


 自分の魔力を灯りとドールに分けて使うとドールの反応速度がかなり遅くなるので、咄嗟の判断には使えないのが人形遣いの難点と言えば難点ね……。

 ハンドルの宝石に魔力を流す。座っていたドールがすっくと立ち上がり此方を向いた。


「……私を守ってね」


 ドールに語りかけると頷き、背中の大剣をスラリと抜いた。

 まぁ頷かせてるのも私なんだけれど、そこは一人じゃないって不安をやわらげるためのものだし!


 重いリュックを置いていこうか迷ったけれど、持って行く事にした。

 もし遭難したら食べ物もいくつか入ってるし、緊急時用の連絡手段もある。

 重いけど、すっごく重いけど。

 ドールが口に手を当ててククと笑う仕草をする。あぁ、もう馬鹿にして!そんな子にはランタンを持たせてあげるんだから。

 私はといえば片手にハンドルを持っているのでランタンを持つと両手がふさがってしまう。

 それよりは身軽なドールにランタンを持って貰った方が動きやすい。

 そう結論付けて、そろそろと洞窟を進む。

 手近にあった石を拾って奥まで投げてみたけれど、すぐに壁に当たった音がする。そう深い洞窟ではなさそうだ。

 と、思っていたら曲がり角に当たって少しだけ気が滅入った。

 どうやらぐねぐねと蛇の様な形状の洞窟らしい。


「さっきの石はこの壁に当たったのね……」


 曲がり角の奥を見るとほのかに明るいような気がする。……良かった、人がいるかも……?

 ただ洞窟に住んでいるような人だから多少人間嫌いではあるかもしれないけれど。

 そう考えて、足音を立てない様に警戒しながらまた奥に進む。

 しばらく歩くと明るさが増すと共に妙な音が聞こえてきた。言葉にするとぷ、ぷ、ぷというかぽ、ぽ、ぽというかむ、む、むという音。

 もしかして私モンスターの巣に迷い込んだのかしら。流石にそれは不味い。

 とりあえず引き返さないと……。

 だけど慌てていたせいか足元を滑らせてジャリッと土を擦る音を響かせてしまった。

 その瞬間、妙な鳴き声めいた音が止んだ。


 ……気付かれた!?

 曲がり角から大きな角が二本生えていると思しき影が床に映し出される。


「あ、あ……ひ……」


 恐怖で硬直して足が竦む。パパ、ママ、ジグごめんなさい。私、帰れないかもしれない……。

 ドールもランタンを降ろし、戦闘態勢を取っているが、大きさ的に明らかにこちらの負けだと思う。さっき見えた影は私より大きかったのだから。

 後ずさりを続けるけれど、リュックのせいでバランスを崩してしまって尻餅を着いた。

 その瞬間リュックから色んなものが零れて派手な音を立てた。

 慌てて散らばったものを押さえつけたけれど、時すでに遅し、立ってしまった音は響くばかりで。

 さっきのモンスターの影を探したら曲がり角には居なかった。

 音に驚いて逃げたのかもしれない……。早くここを出なくちゃ。

 ホッとして散らばったものを掻き集める、必要最低限のものだけでも。

 四つん這いになってリュックから零れたものを滅茶苦茶に入れなおすと、お尻の辺りに手が置かれた。


「ヒッ!?」


 短い悲鳴が漏れた。

 パンパンと肉付きを確かめるように何度か叩かれ、撫でられる。もしかして別の意味でも私は食べられてしまうのでしょうか……。

 紡時代に同級生から見せて貰った薄い本の内容が思い起こされる。

 あれは洞窟に迷い込んだ魔法少女がモンスターに裸にされて嬲られるお話だったっけ……ってまんま今の私!?

 せめて相手の顔を見てやろうと意を決して振り返ろうとした瞬間、目の前に得体の知れないものがボトッと落ちてきた。


「ヒィッ!?」


 息が漏れ、心臓が止まりかけた。

 形状は羊のような顔とまん丸な胴体。……紡時代に動物園で見たアルパカを上から潰して首を短くしてデフォルメしたような……?

 ということは後ろで私のお尻をまさぐっているのは……?

 ぐるうりと首を回してお尻の上に乗っかっているモノを見ると、此方もファンシーな形状でした。

 動物園で見た茶色い動物をこれまた下膨れにデフォルメしたようなキャラクター……。名前は、何だったっけ……。

 あ!思い出した!

「カピバラ……?」


 頭の中で目の前の存在と名前がカチリとはまる音がして、言葉を呟くとお尻に乗っている生物は違うと言わんばかりに鳴き声を上げられた。


「ぽーーーー!」


 これが私とぽむとぽこの出会いでした……。

 

 この動物(?)の名前が解ったのは洞窟の奥に石碑(?)があったから。

 石碑は何か卵が割れたような形状でほのかに光を放ってたけれど、近づくと光がすぅと消えちゃった。

 さっきの騒動で手からハンドルが離れちゃってドールがただの人形になっちゃったので再び詠唱と魔力を込める。

 すっくと立ち上がったドールだけど妙ちくりんな生き物と比べると随分と細身で頼りない。

 洞窟はこれ以上奥には続いてないようで少しだけ安心した。

 ランタンを自分で持ち、ドールを先行させながら石碑に進む。

 卵の外側は黒くてつるっとしていて黒曜石を磨いた感触、ドールにコンコンと叩いて貰い、安全であることを確かめる。

 ランタンをかかげると中身がぼぅっと光った。


「うわわっ!?」


 慌てて飛び退ったけれど、静かに明滅して光が消えた。

 ランタンをもう一度近づけるとまた光る。遠ざけると消える……。


「あ、もしかして!」


 ランタンの中に入れた隕石か星の精霊の魔力のどちらかに反応してる?

 ……隕石はそれ自体が魔力を秘めている。

 まだ解明はされていないけれど、この世界の人達が使う魔力と反発しない為、魔力触媒としてもわりと重宝されている。

 試しにランタンの中から隕石を取り出して割れた卵に近づけた。

 ……瞬間、光が満ちる!


「き、きゃーー!?」


 迂闊だったかもしれない、ママに魔力の反発式やら相乗式を習った時の事が頭をよぎる。


『━━━良い? リン。例えば、同量の水の精霊の魔力と火の精霊の魔力を掛け合わせるとどうなるかしら?』


『うーん、消えちゃうかな? 普通なら』


『そうね、じゃあほんのちょっとの星の精霊の魔力と火の精霊の魔力では? ……危ないからちょっと離れててね━━━』


 まさかこの割れた卵は火の精霊の魔力が詰まってて……!?


 そうなると不味い、非常に不味い。何故なら星の精霊と火の精霊は相性が良すぎるくらいで言うなれば冗談抜きで爆発するくらい。

 ママに習った禁忌に近い精霊の組み合わせで不用意に近づけると、魔力の量にもよるけれど辺り一面が吹っ飛んじゃう。

 とりあえず足元の二匹を連れて早く洞窟を離れなきゃ!

 ……と思ったけれど二匹は踊るように飛び跳ねてた。慌てて捕まえようとしたけれどぴょんぴょんと見かけによらないすばしっこさで逃げ回る。

 もーー!鬼ごっこしてるんじゃないのにぃ!

 と、ゼイハアと息を切らせていると光が収まってきた。


「あ、あれ? 爆発……しない?」


 恐る恐る近寄ってみると卵の内側に文字がびっしり書いてあった。

 ……うぅ、私文系苦手だったんだけれどな。それは転生しても変わらず、この星の言葉を読み書きできる様になるのにかなりかかった。

 しかもこれ、この世界の古代語で書かれているみたいだし。

 なんとか読める文字だけ拾っていく。


「えーっと……太陽の涙が……ぽむ。で、月の涙が……ぽこ?」


 ぽむとぽこと言葉に出した瞬間、卵の上に乗っていた二匹がパスパスと音を立てて耳を動かす。

 さっき大きな魔物の角だと思っていたのはアルパカっぽい方の耳だったのね……。

 もしかしてぽむとぽこが名前かしら。そう考えて試しに呼んでみた。


「えーと……ぽむ?」


「ぽ! ぽ!」


 カピバラ……もとい、茶色い生き物が目の前でみょんみょんと跳ねる。鳴き声が可愛らしい。キュルッ!とかは鳴かないようで少しだけ期待を裏切られた気分。


「じゃあこっちがぽこね。……ぽこ!」


「ぷ! ぷ!」


 アルパカの首を短くしてぬいぐるみにしたような毛玉がゴロゴロと転がってる。アルパカの鳴き声ってこんなんだっけ?

 まぁ別にメヘヘヘヘー!とか鳴かれてもそれはそれで困るのだけれど。

 続いて卵の中に書かれた文字を読む。


「太陽と月が、交わる時……いや違う、消えるとき、かな? たぶん皆既日食か月食かなぁ? ぽむとぽこが生れ落ちる……っていう事は精霊に近いの!? この子達!?」


 ……大声を出してしまったせいで洞窟にわんと反響する。


「ぽーーー!」


「ぷーーー!」


 二匹が声に驚き、慌てたように飛び跳ね回ってしまった。


「あぁ、ごめんね。驚かせるつもりは無かったの、ちょっとビックリしちゃって」


 そうなのだ、この世界では精霊が具現化するなどものすごく珍しい。

 力を借りる事はあっても、姿は見えない。

 文献でこんなカタチなんだ、と漠然とお話に出てくる程度だ。

 しかも太陽と月の精霊なんて言うなれば超激レアだ。

 たしか幾つもの属性を統べる存在だったはず?文献にも姿なんて出てこない。


 試しにママが星の魔力を詰めた隕石をぽむとぽこに近づける。

 瞬間、目が眩むほどの光が石から放たれた。


「あわわわわ!?」


「ぽぽぽぽー!?」


「ぷぷぷぷ!?」


 三者三様の悲鳴が上がり、慌てて石を遠ざけた。

 ……まだチカチカする目を擦りながら壁に手をつくと、妙にスベスベしている。

 まるで高温で溶かしながら削られたような……?


「まさか、これって宇宙船みたいなものなのかな?」


 そう考えるとしっくりくる。

 この卵が宇宙か空から落ちてきたとして、湖に石を回転させて投げたときのようににバウンドして山肌に激突。その後ジグザグに削りながら終着ってトコかな?

 ……中に居たぽむとぽこが無事なのが凄いけれど……。


 この世界の皆既日食や月食は地球と少し違っていて、太陽は一つだけれど、月が二つあり、それぞれ真月、影月と呼ばれている。

 その二つの月も月同士が交差する時に名前が代わる。

 真月が影月に、影月が真月になるのだ。

 なので皆既日食は滅多に起こらない筈。というかこの世界に来てから見た事が無い。


「あれ……? でも皆既日食が起こらないと産まれないって……どういうこと?」


 ……解らない、街にでも買出しに行った時にでも文献を漁るかママにでも手紙を出して聞いてみよう。


「とりあえず洞窟から出ないと。この子達も心配だし……ってキャーー!?」


 卵型宇宙船からぽむとぽこに視線を戻すと私のドールを大きな舌でべろんべろんと舐めまわしていた。


「ちょちょちょ!? ちょっとやめてー!」


 慌ててドールを引き戻す。


「ぽーー!」


「ぷーー!」


 ……ものすごく不満そうにこちらを見ている。


「だめ! これは食べ物じゃないの! あぁぁ、こんなのドロドロに……って、あれ?」


 ドールの洋服がほつれてる。

 おかしい、この洋服は私が魔力をこめた糸で縫ったものでそう簡単に溶けたりほつれたりしないものなのだけど。


「……もしかして」


 試しに指先から魔力を練る。


「意想の意図、(いと)しみ息吹(いぶ)け、(いつく)しみ色をなせ……!」


 シュルシュルと音がして指先から魔力の糸が紡がれる。

 ママと私しか知らない無の魔力。

 左手の人差し指から自分の魔力を引き出すように右手で摘まみ引き出してみた。

 ぽむとぽこが瞳をキラキラさせて糸に釘付けになっている。


「これが欲しいの?」


「ぽ! ぽ!」


「ぷ! ぷ!」


 言葉が通じてるみたい。コクコクと頭を揺らしている。

 出した糸を半分にプツリと千切ってぽむとぽこの前に垂らしてみた。

 バクリと飛びつく二匹……うわぁ、ネコまっしぐら……じゃない、ていうかブランブランと糸の先に食いついてるからまるでお魚を釣りあげたみたい。


 不思議と体重は感じないけれど。


 そのまま放置しておくとハムハムと糸を食べながら私の指ごと食べられそうなのでそっと地面に降ろす。

 あっという間に糸を食べきったぽむとぽこはもっとちょうだいと言わんばかりにこちらを向いた。


「ちょっと待ってね……。」


 再び詠唱して糸を出す。今度は両手の指全部から重力に任せるままに。

 某アメコミヒーローの蜘蛛男とか言わないで。割りと傷つくから。

 指先から10センチくらい離した所で糸を撚り合わせる様にイメージする。

 するとたこ糸くらいの太さになった。右手と左手に一本ずつたこ糸ができたと言ったら解り易いかもしれない。


 2メートルほど出して限界がきた。

 精霊魔術と違って自然界から魔力を借りるわけじゃなく、全て自分の体の中から魔力を取り出すわけだからとてつもない負担がかかるのだ。

 プツリと糸を切ってぽむとぽこの前に置いたら端っこからはむはむと食べ始めた。


 ……足りなかったら私が食べられちゃうのかなぁ……と思ったが凄まじい倦怠感が襲っていて動けない。

 幸い半分の1メートルくらいずつ食べ終わったところで二匹はお腹一杯になったようだ。

 私の膝の上に食べ残した糸を持ってくると両脇で丸まった。まるでモフモフでサンドイッチにされた気分。

 撫でるとぽむは少し硬い毛並みだけれど艶々してる、毛足の長い高級じゅうたんと言った感じ。対してぽこは羊毛よりもふかふかで上質の布団みたい。

 とりあえず雨が止むまでこの洞窟で休んでいよう。

 リュックを降ろして一息つく。


 雨が上がったら……家を建てて、ご飯作って……それから……それから……。


 ふわふわもこもこに包まれて私の意識はゆっくりと闇の中へ落ちていった。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ。

勉強させていただきます。

感想などもお待ちしております。

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