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ぽむぽこりん -異世界で魔術師見習いやってます!-  作者: 春川ミナ
第一章:ソルデュオルナの魔術師見習い
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夜会のお誘い

「どうぞ」


 紅茶とスィートポテトをアルカードさんに出す。

 ネクタルの後だと見劣りするかもだけれど。


「ありがとう、頂くよ」


 ニコリと笑い、アルカードさんがスプーンを手に持ち、食べ始める。


「……素朴な味だな」


 感想がアルカードさんの口から漏れる。


「そういう味に仕上げてますから」


 紅茶のお代わりを注ぎながら答えた。

 それはそうと、今日は何をしに来たんだろう。

 いや、来てくれた事に感謝はしている。でなければレインも私もトレントも酷いことになっていただろうから。

 レインが金斬虫(かなきりむし)の角に挟まれ、壊されそうになってしまった恐怖にぶるりと震える。


「それで、今日はどういった御用件だったんですか?」


「あー……。それは、だな。うーむ……」


 アルカードさんは何か悩んでいるようだ。

 仕方が無いので私が促してあげることにした。


「何でも言って下さい。アルカードさんはトレントとレインと私の命の恩人ですから」


「そうか……。正直迷っていたのだがな。実は、夜会に私のパートナーとして出席してほしいのだ」


 夜会ってなんだろう。夜の会?

 私がぼーっと考えているとアルカードさんが補足してくれた。


「夜会とはダンスパーティのようなものだ。街の富豪の商人が開催するのだが、妙齢の女性に迫られても私の体質的に難しくてな……。それで相手をリンに頼みたい」


「えええぇぇぇえぇえ……。わ、私ダンスなんて踊れませんよ!? それにこんなちんちくりんな体型してますし、パートナーなんてつとめられないと思うんですが……」


 そうなのだ、アルカードさんがいくら20代前半に見えるとはいえ、私が相手ではどうみても犯罪者だ。

 私の歳は12歳とは言え、出るところも出ていないちんちくりん体型なのだ。

 言うなればボンキュッボンなんかじゃなくてキュッキュッキュッにゃあ!みたいなものだ。

 あ、にゃあっていうのは残念賞的な響きです。


「なんでもすると言っただろう?」


 私の慌てる姿を見て、アルカードさんがニヤニヤと笑っている。

 この人絶対サドだ!このサディスト吸血鬼!


「大丈夫だ。ダンスくらいは教えてやる。開催までまだ少し日があることだしな。あぁしかしドレスは新調せねばな。リンに合うドレスは……何色がいいだろうか」


 良かった、今日明日じゃなくて。……ってそうじゃなくて!


「アルカードさんは本当に良いんですか? 私なんかで。その……、ロリコンとか言われたりしませんか?」


「大丈夫だ。私はリンが良い」


 紅い瞳で真摯に見つめられて顔が熱くなる。

 そういえば好きとか言われたんだっけ……。

 うわぁ、どう接していいのかわからないよ。

 なんとか断る理由は……そうだ!


「あの、ドレスとか作ってもらうのはさすがに悪いですし、そんな事されてもお返しができません」


 これなら断る理由になるかしら。

 けれどアルカードさんはニヤリと笑った。

 ……なんだか嫌な予感。


「ドレス代ならお釣りがくるほどだぞ。金斬虫(かなきりむし)の甲殻が五匹もだからな。リンのドレスを5着作っても余裕で余る」


 え、金斬虫(かなきりむし)ってそんなに高いの!?

 私が意外そうな顔をして驚いているのに気がついたのだろう、アルカードさんが教えてくれた。


金斬虫(かなきりむし)の甲殻は盾に貼り付けられたり、鎧にもなるのだ。リンの人形が使っている剣がはじかれただろう? だから鞘で殴っていたんじゃないのか?」


 確かに最初レインの剣できりつけた時には弾かれた。あれ?でも気絶させた筈……。


「気絶していた金斬虫(かなきりむし)は私が止めを刺しておいた。吸魂の呪縛(スピリットテイカー)でな。もしかして命を取るまいと考えていたのか? リンは優しいが虫相手にはそれは通用しないぞ」


 気絶させるつもりじゃなくて気絶しかさせられなかったんだけれど、まぁいいか。


「では、セバスチャンと金斬虫(かなきりむし)を運ぶ馬車をこちらに向かわせよう。商人を呼んでもいいが、リンはあまり目立ちたくないのだろう?」


「あ、できれば。トレントの存在が知られたりするのは嫌ですし。でもセバスチャンさんだけで大丈夫なんですか?」


 いくらセバスチャンさんといえども私の身長より大きい虫を馬車に運び込むのは苦労するだろう。

 もし難しいようならぽこに手伝ってもらって転移させようかとも思ったのだ。


「心配ない、セバスチャンは土と風の魔術が使えるからな。多少重くても一人で馬車に乗せるくらいはできるだろう」


 その言葉を聞いて少し安心した。


「ではそろそろ失礼するとしようか。リンも今日は疲れただろう。見たところ魔力も底をつきかけているようだ。リンこそネクタルの実が必要なのではないか?」


「あ、アルカードさん。ありがとうございました!」


「構わぬよ。リンを夜会に誘う事も無事できたしな」


 クツクツと笑い、バサリとマントを翻すと、そこには大きな黒い狼の姿があった。


「ではな、リン。また今夜にでも会おう」


 狼が口を開き、人間の言葉を喋るのに少しだけ違和感があったけれど、アルカードさんが化けたものなので不思議と恐怖感は無かった。

 アルカードさんを見送り、レインに一つネクタルの実をもいでもらう。

 いくら疲れているといっても、相棒をボロボロのまま放置しておくことは躊躇われたのだ。


「レイン、今日はお疲れ様。ちゃんと服縫ってあげるからね」


 私の言葉にカクリと嬉しそうに頷くレインだった。

 ……魔力を通してないのに動いてももう不思議じゃないような気がしているのはレインと深く繋がった残滓が残っているからだろうな、と服を縫いながら思った。


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