金斬虫襲来2
「レイン、貴女の力を貸してね」
私の言葉にコクリと頷き、剣をスラリと抜く。
さらに、その状態で詠唱を開始する。
「契れ、知者の血、我に誓え……更なる力を以って敵を滅ぼさん……!」
レインの体が一瞬金色に輝く。
魔力がごっそりと持っていかれたけれど、今はそんな事に構っていられない。
なにせ、私の体長よりも大きい蟲なのだ。それが五匹も。
「ぷー……」
「ぽー……」
ぽむとぽこが心配そうな声を出す。
「大丈夫! 私にかかればちょちょいとやっつけてくるから!」
もちろん空元気だ。
けれども安心させる為にニコリと微笑む。
「さ、ぽむとぽこは家に入ってて」
ぽむとぽこの力を借りて金斬虫を転移させたとしても、トレントにネクタルがある限りまた襲ってくるだろう。
ならばここで食い止めるか退治するしかない。
アルカードさんが張ってくれた縄張りの結界をものともしないという事は上位の個体なのだろう。
こちらに向かってくる蟲達をキッと睨み付ける。
「ゴレムス! あの蟲達の足止めとかできない?」
「ハニー……」
無理なようだ。あのセメントみたいなものをぶつければなんとかなるかとも思ったけれど固まる前に抜け出されそうだ。
それに金斬虫は泥をはじく性質を持っている。
ゴレムスにとってはやりづらい相手だろう。
やっぱり私がやるしかないか……。
箒に飛び乗り、集中を切らさないようにしながら森の方向、外壁の外へと降り立つ。
「ここから先は通さない!」
意思の灯った瞳を燃え上がらせ、レインを操る。
キチキチと威嚇音を出す金斬虫に対するレインは身長も低く、圧倒的に頼りない。
けれど、さきほど唱えた魔術はレインの強さを何倍にも引き上げる魔術なのだ。
……その代わりしばらく魔力切れに苦しむ事になるけれど、実さえ守れればぽむとぽこのご飯はどうにでもなる。
「レイン、行って!」
私の掛け声と同時に突出した一匹に斬りかかる。
が、カキィンと甲高い音を立てて弾かれてしまった。
……当然といえば当然ね。金斬虫の異名を取るだけあって、金属でさえもエサとするのだ。
それじゃあどうするか。一瞬考えた末、レインに剣を鞘に収めさせて、物理的に衝撃を与えることにした。
ガィィン!と音が響く。目の前の金斬虫、五匹はこちらを敵と認識したようでじわじわと包囲を狭めるように迫ってきている。
しかし、こちらもレインのおかげで近寄らせるには到っていない。
角の付け根の部分、様は頭を殴りつけるとギィギィと耳障りな音を立てて下がる。
「どんだけっ、タフなのよ……」
一瞬の気も抜けない攻防にウンザリするけれど虫相手に愚痴ってもしょうがない。
なにせあちらは痛みも感じない虫なのだ。
なので気絶させる為に頭に衝撃を与えている。
何度目かの攻撃でようやく一匹を倒せた。
「硬すぎるでしょ……。やっと一匹……!」
一匹がひっくり返って脚をピクピクさせている。
まるで殺虫剤を浴びせた虫のように。
だけれど、まだ残り四匹もいる。まだ気は抜けない。
こちらもジリジリと押されている。
とうとう囲いの中までに進入された。
「クッ……!」
そういえば害獣避けの作物を植えたはず……。
あそこまで誘導すれば!
ジリジリと後退するフリをして害獣避けの植物が植わっている場所にいく。
パァンと音がして刺激臭があたりに立ち込める。
実を言うと私も少し涙目になっているけれど、二匹ほどには効果があったみたいでひっくり返って脚をピクピクしている。
後二匹!
渾身の力……。私の場合魔力だけれど、それをレインに込めて金斬虫の頭を打つ。
「ギュイイイイ!」
耳障りな悲鳴を上げて一匹がひっくりかえる。
残りは一匹……!
正直魔力も集中力も底をつきかけてる。
けれどトレントもぽむとぽこも私の家も守るんだ!
すでに辺りは暗くなってきている。
残っているのは一番大きな個体。
図らずともおそらくこれがボスだろう。
これさえ倒せば退いてくれるかもしれない。
そう考えて何度目かの剣を鞘ごと振り下ろす。
鉄製の鞘が鈍器となって金斬虫の頭部に襲い掛かる。
ただ、今度は角で弾かれてしまった。
そのまま角でレインを挟んで来ようとしてきたので慌てて距離をとらせる。
「レイン、大丈夫!?」
私の言葉にコクリと頷くレイン。
見ると服のあちらこちらが破れている。
それは当たり前だ。あれだけの戦闘をこなしてきたんだから。
「ごめんね、レイン。終わったら服を縫ってあげるからね」
その言葉に少し嬉しそうに見上げてくるレイン。
なんだろう、この感じ……。
レインと心が通じ合うような感覚……?
これって私が人形遣いとして成長してるって事なのかな?
考えがあらぬ方向へと行くのを頭を振って追い出す。
今は目の前の事に集中しなくちゃ!
集中力が途切れかけているのだ。
魔力切れを起こしかけていると余計な考えが頭ににじみ出てくる。
「レイン! お願い!」
最後の魔力を振り絞るようにハンドルに力を込める。
そしてそのまま金斬虫の角を避け、頭部に剣を振り下ろす!
お願い!これで終わってと願いながら。
……しかし……その願いはあっさりと折れた。
レインの剣が鞘ごと折れると言う最悪の結果によって……。
呆然とした私にまるで嘲笑うように「クキキキキ」と鳴く金斬虫。
その角の先にはレインが挟まれて……。
想像したくない未来を考えて私は叫んだ。
「やめてー!!!!!」
と、その時一迅の風が吹いた。
「吸魂の呪縛」
穏やかだが力強い声。
その言葉と風が吹いた後に、金斬虫の命は消え去り、トサリとレインが角から抜け出し、地に落ちる。
しっかりとした足取りで私の元に戻ってきたレイン。
「レイン! レイン!」
レインを抱きしめ、声の主を見るとアルカードさんだった。
「リン、これは一体……?」
「アルカードさん! えぐっ……グスッ……!」
私はその胸に泣いて縋る事しか出来なかった。
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